兄姉妹
「…………」
ママの遺体を埋葬して手を合わせる
天国でパパと見ててね。アンはあたしが守るから
「手伝ってくれて……ありがと」
この青年にも一応感謝はしておく
ママを神様に送るのを手伝ってくれたし
命も救われた
「礼は良いよ。それより何か食べ物ないかな?
砂糖的なの!」
「ないわよ!ウチは貧乏なの!
それに……さっき飴玉あげたじゃない!」
この青年……訳が解らない
どうやったのか知らないが、男を一瞬で
5人も消せるのだから、
少し離れた場所にある家でも襲えばいい
あたしの家に入って来た時みたいに
「おにぃちゃん!どこに住んでるの?」
妹が青年の服を引っ張っている
どうやら懐いてしまったようだ
青年は腰を落とし妹と目線を合わせ
「えーっとね、ここじゃない世界だよ。
とっても遠い場所なんだ」
…………
不味い……このままだと
「それなら今から帰らないと
貴方のママが心配するわね。それじゃあ!」
妹の手を引き、家に入る
アンの事だ。家に泊まれば良いとか
言い出すに決まっている
前も敗残兵を無断で家に招き
ママに怒られた事がある。
…………ママ…………ママ……
思い出すと涙が出てくる
でも……妹の前で泣いては駄目だ
この子まで泣いてしまう
あたしが強くならなくちゃ
アンは、まだママが死んだ事を実感していない
あたしが、しっかりしなくちゃ
「アン。今日はお姉ちゃんと一緒に寝よ」
「……うん」
妹は家の外を見ている
あたしも外を見てみるが……
あの青年は居なくなっていた
…………良かった。
何が良かったのか…………
何に安心したのか…………
あたしには理解できていない
家の中を最低限片付け
アンと同じ布団で眠る。また……強盗が来たら……
考えるだけで眠れない…………
怖い。妹はスヤスヤ眠っている
アンを抱きしめ自らの不安を少しでも抑える
暖かい
…………
…………
朝日が昇り、あたしはやっと安心する
あいつ等は夜しか来ない。悪い奴等は日中が怖い
だからあたしは、夜が怖い
「……お金無くなってる」
強盗に取られ、そのまま青年に消されたからだ
「ママ……お金どうしてたんだろう?」
畑を耕したりしているが
野菜を、売りに出す姿は見た事が無かった
それでも、この家には少なからず
蓄えがあった筈だ
「…………どうやって、アンを守れば……」
守るなんて言葉は簡単だ
それを実行する勇気。行動
それを、あたしは何も持っていない
妹があたしの服を掴み
「アンは、お腹減ってないから大丈夫だよ!
アンお外で遊んでくる!」
屈託のない笑顔。
この笑顔をあたしが……何としても
コンコン 扉を叩く音が聴こえ
「ジェシカちゃん。居るかい?」
アタシガ扉を開けると隣り
……結構な距離が離れているが、隣の家の夫婦が
「ジェシカちゃん。辛かったね
……これ少ないけど」
あたしに、米や野菜等を差し入れてくれた
「あ……ありがとう!
ロウおじちゃん、ロウおばちゃん」
あたしが笑顔で受け取りると
夫婦は照れながら
「それで……強盗を退治した人が
居るって聞いたんだけど……」
何処からそんな噂……事実が出回るのか?
昨晩から朝の時間。
あたしと妹は誰にも言っていない
遠目から様子を見てた人が想像したのだろう
あたし達の家の次は
自分の家かも知れないのだから
「多分……帰っちゃったよ。
今 何処に居るかは、あたし知らない」
「え……?あそこでアンちゃんと
遊んでる人じゃないのかい?」
夫が指差した方角に目をやるとは
畑で妹と、遊んでいた
……畑に入らないでほしい。
妹にも近づかないでほしい
「……多分……あの人」
あたしが言うと夫婦はその青年に喋りかけ
そのまま3人で去って行った
…………
「おにぃちゃんが、またねって!」
妹は無邪気だ。手を泥だらけにして
あたしの服を引っ張る
「アン……ご飯にしましょ。
お姉ちゃん。頑張って作るから」
…………
不味い……米が固い。野菜も半生
「……おねぇちゃん!オイシイよ!」
妹にも気を使われている
しかし勿体無いので残せる訳がない
火を起こせた だけでも我ながら
良くやったと思う
朝食のはずが昼食になってしまったが……
「こんにちわー。」
その青年は……普通に家に入って来た
昨晩、強盗を消した、あの青年
「あ!おにぃちゃん。お帰りなさい」
何故か妹が笑顔で出迎え
「ちょ……あんた……」
追い出そうとした
あたしは青年を見て考え直す
大量の食べ物を抱えていた
「それ……どうしたの?、盗ってきたの?」
「違う違う!貰ったの!
何か、知らん人を退治した、お礼だってさ
……要らないんだけどね。」
青年は興味無さそうに
テーブルにドサドサと、米や野菜……
お肉まである!
「妹に『また来てね』って言われたから
来たんだけど……よかった?」
…………この青年がいれば
……あたし達は生き残れるんじゃ無いかと思った
きっと、あたしが最初に、この人を……
「あ……朝ご飯あるから、食べても良いわよ?
あんまり美味しくないけど」
青年は半生の野菜を食べると
「……甘い!何だこれ!?」
ムシャムシャとウサギのように齧り始めた
…………
「あなた、家には帰らないの?」
少女は青年に質問をする
「遠いからねー。帰れるかも解らないから」
「……行くところ、とかあるの?」
「ないよー。ここ何処か解らないし」
……この青年は頭がおかしくなっている
人を殺しすぎて気でも触れたのか……
「行く場所がないなら
此処にいても良いけど……?」
「……厄介になろうかな!
ヨロシク……名前なんだっけ?」
そうか……まだ名前も言ってなかった
「あたしはジェシカ.ドーソン
この子は妹のアンよ」
「おねぇちゃん……」
妹があたしの裾を握る
そっか……勝手に決めちゃってたけど
妹にも、この青年が家に居て良いか
確認してなかった
「おねぇちゃん。最初にアンが
おにぃちゃんって言ったんだから、
おねぇちゃんはアンの妹ね。」
「…………」
言ってる事は何となく理解したいけど……
まぁ、おままごと の延長だろう
妹の手を握り
「アンお姉ちゃん。お兄ちゃんを
家に招きたいんだけど、いいかしら?」
アンは屈託のない笑顔で
「勿論だよ〜!可愛い妹のジェシカちゃん!」
……あたしは、この子に生かされている
妹の笑顔に……
この笑顔だけは
絶対……忘れない
その日から不思議と、夜が怖くなくなった




