大事な名前
しいの実を食べ終えた頃にミカから
「もういいよー」
と声がかかったので
ヴァネッサに軽く会釈をしてテントに入る
広くはないが2人ぐらいなら
寝れるであろう場所
ミカはど真ん中を 陣取っていたので
俺は出切るだけ隅に寝転がり
1枚の毛布を共有した
「お腹も膨れたしパパッと寝ちゃって
夜明けと共に出発だからね!
寝心地は良くないけど
疲れてるからきっとすぐ眠れるよ お休み〜」
確かに寝心地は いいとは言えないが
それよりこんな近くで
女の子が寝ているという事に
変な緊張をしてしまい ミカを見ると
「……スー……スー」
と小さな寝息をたてていた
……変な考えをしていた事が
バカバカしくなり俺も眠りにつく
「くるみ見っけー えへへー」
ミカの寝言で目を覚ます
沢山食べてたと思ったが
彼女には足りなかったらしい
「ヴァネッサちゃん手で割って〜…皆で食べよ〜……」
彼女の寝言は続く
何ということだ
夢の世界のミカは皆に分け与えるという
心を持っているのか
2人で使っていた毛布は
いつの間にか彼女に占有されてしまい
ぐるぐる巻で 抱きかかえられている
彼女のスカートが捲くれて
中からまた別の色の生地が
スカートから顔を出そうと
ブンブンと俺は頭を振り
慌てて上着を彼女の腰にかけた
パンパンと自分の顔を軽く叩く
「いかん……いかん」
目が覚めてしまった
もう夜明けなんじゃないかと思い
テントから顔を出す
焚火の前に座っている
ヴァネッサの後ろ姿が見える。空を見るがまだ暗い
俺はテントから出て、ヴァネッサに近付こうとすると
「足の痛みのせいか眠れなかったか?」
彼女は振り返らずに
俺がいるということを当ててみせる
足?そう言われればケガしてたな
「言われるまでケガしてたってことを
忘れるぐらい大丈夫だよ。傷跡もないし」
ほらっと ヴァネッサに噛まれたあとを見せる
ヴァネッサは傷口と 俺の顔を交互に見合わせ
「君は紳士だな」などと口にする
「な……なんのこと……でしょう」
心当たりがある俺は 必死に平静を装う
「私も一応は気を貼っているからな
テントの中のことは、おおよそは把握しているつもりだ
君の上着がないというのは
下着が見えそうになっていたミカに
かけてあげたんだろう?」
ヴァネッサは違うか?
といった表情で自信ありげに言う
「あ……ああ そうなんだよ
それでなんか目が覚めちゃって
もう寝れそうにないから……邪魔だったかな」
良かった
誤解はなさそうだ 俺は胸をなでおろす
「邪魔なんてことはないさ 私も暇だしな
もうじき夜明けだ それまで火に当たっていろ」
ヴァネッサはここに座れと
ポンポンと岩を叩く
俺はそれに従い 腰をおろした瞬間
「それでどうだった?」
ヴァネッサからの謎の問い
「……見てないから」
俺は問いの意味を理解して すぐに答える
夜明けまで こんな茶化しあいが続いた
いつの間にか空が
明るくなりはじめた頃に、ミカが
「おっはよー 今日も良い1日になると良いね」
元気な声で挨拶してくる
俺とヴァネッサも おはようと返す
俺は立ち上がり
「あの……さ クヌギ イシノギどうかな?
俺の名前………
バネッサから貰ったクヌギの杖と
ミカから貰った椎の実
2人から貰った名前だけど……」
俺は恥ずかしそうに言う
「おお〜いいじゃん
改めてよろしくね クヌギ君」
ミカは笑顔で こちらに握手を求めてくる
俺はそれに握手で返す
「私達から貰った名か……悪い気はしないな
私からも改めてよろしく頼む クヌギ」
ヴァネッサはお辞儀をし
俺もそれにお辞儀で返す
森に光が差込み 三人は帰路につく
これがイシノギ クヌギの初めての記憶
プロローグ 始まりの記憶 完