彼が存在しない世界
「…………お姉ちゃん」
ジェシカ.ドーソンは姉を抱きしめる
縛られていた木材から開放し、姉であろう亡骸を
少女の付き人達は死んだ村を徘徊する
まだ見ぬ、兄の亡骸を探す為に
「…………クーガ……ドグマ……さん」
リルムは
クーガー.エヴァンスとドグマ.マグナスの
遺体を並べ、手を合わせる
彼等は何故殺されたのか……
この村人達に殺されたのではない
証拠が無くて、証拠がある
2人の首は、この村で発見できなかったからだ。
誰かが持ち去った
遺体のそばに紐に通された金属が
転がっていた
島の冒険者が、あの2人を殺れたのか?
殺れる訳が無い。ドグマが片腕を失おうとも………
何が…………
…………
少女はある小屋へと入る
全て見て周るつもりだった。
たまたまその小さな家だった だけだ
中は荒らされた形跡がある
大量の本がばら撒かれている
少女は本は好きだ。
今はそんな物を見る余裕など無いが
開かれたページが目に入る
一目で理解出来る
これは本ではない。日記だ……
毎日 日記を書いている少女には解る
ロウソクに火をつけ
少女はその日記のタイトルを見る
《異人と魔物の関連性》 A へロー
「…………」
そのタイトルには見過ごせない要素があった
少女にとって大事な…………
パラパラとページをめくる
1つの文字が少女の目に止まる
〈異人の女性。
カーティスさんと、話しをする事が出来た
どうやらその女性は、争いが嫌いなので
力を使う事は無いようだが
いずれ、娘に自身の力を継承させると言っていた
お転婆な娘らしく名をエリスと言っていた
男の子には継がせたくないらしい
力を戦争の道具に使われたくないようだ
私にも息子がいるが羨ましい限りだ
息子は家に居ることが好きなせいか
友達ができず、いつも1人でいる
今度息子を連れて行きたいと
言ったら喜んでくれた
エリスという少女も会ってみたいと言ってくれた
……イーディスの友達になってくれるだろうか?〉
「……継承」
少女は本を閉じる。これ以上は時間の無駄だ
「お嬢様!」
男の声が聞こえ、少女は小屋を出る
「…………」
神官が指した場所を見つめる
焼け焦げた跡。人型がクッキリ残っている
「クヌギ.イシノギの残滓を感じました……」
「!?お兄ちゃん生きてるの!?」
「……あの森へと続いています」
少女は歪な弾丸を握りしめる
「……あたし1人で行く
皆は……お姉ちゃん達を埋葬してあげて」
「……はい。ここでお待ちしています」
神官とリルムは頷き村へ残る
残りの者が少女の後を追おうとしたが
「……あの森に今入ったら……死にます」
「…………」
解っている。もう誰でも解る
この世界は終わっている。
終わりに近づいているのでは無い。きっと戻らない
誰も助からない。
原因は解らないが、理由は解る
…………
…………
少女は森を歩く。老婆の言葉に従い
この森にいるのは……冒険者の女性
もう1つ…………
『ジェシカ.ドーソン。
何故君が、それを持っているんだ……?』
少女は声の方向を見る。地面を……
蝸牛……蝸牛が喋っている
「…………」
少女は何も答えない
「君は驚かないね。クヌギ.イシノギは驚いてたよ」
「お兄ちゃんは……何処?」
少女は震えながら蝸牛に問う
答えを解りきった答えを……
『飛んだよ。もうこの世界には存在しない』
「う……うぅ……ヒッ…ヒック……」
少女は目に涙を浮かべ、嗚咽をもらす
蝸牛は意に介さず
『ジェシカ.ドーソン。僕は
君に聞きたい事があるんだよ
だから、彼との会話は手早く済ませたかった』
蝸牛の殻からナメクジが這い寄る
『その欠片……誰から貰った?』
少女は握りしめた、石を見つめる
「これ……これは……」
老婆がミカに渡した物
「お……お姉ちゃんからよ!」
『お姉ちゃん?ミカ.レミナスかい?』
ナメクジは溶けていく
「そうよ!」『逆だろう?』
「逆?何が……」
ナメクジは人型に変わる。少女の目の前で
しかし変わりきる前にドロリと崩れ落ちる
『……クソ。あまり力が残ってないな
無駄な事は省こうか。お互いの為だ』
「……お兄ちゃんに会いたい
……お姉ちゃんに会いたい」
少女は願いを口にする
『良いよ!方法を教えてあげる
その代わり……その欠片をどうやって
持って来たか教えるんだ。』
「……シグって名前の……お婆ちゃんに貰った
これを持って此処に行けって……」
人型の存在は考える。神ですら思考を巡らす
『あり得ないだろ……
そんな存在、観測出来ていない……
そもそも……なぜ君は年を取らない?
何故君は……観測出来ない時間がある……』
「あ……あなたの言う事には答えたわよ
2人に会わせて!」
人型が小さくなっていく
『……時間切れだね。そろそろ家が見える
あそこに入れば……彼の飛んだ時代に戻れる。
飛ぶんじゃない……戻るんだからね。』
「…………わかった」
『成功率は0%だ。あれは……神々専用だから』
「…………」
少女は振り返らない
あの存在はもう視えない。
代わりに視えるのは
巨大な城……あの存在に言わせれば家なのだろう
少女は足を踏み入れようとする
躊躇し……戸惑い……
「また……会えるんだよね?」
希望を抱き
ブチュリ
少女は潰された
少女は骨も、肉も残らないほど、
魂も残らないほど潰された
…………
…………
クヌギイシノギが消えて、1週間後
全ての人々……全ての生物が1つの願いを言う
同じ願いを
彼を返してくれ!もう一度彼に会わせてくれ
何が悪かったのか!?
何が彼を怒らせたのか!?
何故彼は……私達の前から姿を……
クヌギ.イシノギが消えた弊害
彼無しでは、この世界は生きていけない
いや……彼無しで生きられる世界など
存在するのだろうか?
神の比では無い。
彼は神より余程、力を持っていた
ただ皆が甘んじて、その力を享受していただけ
その偉大さを忘れ、
今になって生物は右往左往している
『……何度観ても、この光景だけは面白いね』
神は天より生物を見下ろす
他の神は居ない。皆 戻って行った
クヌギ.イシノギが飛んだ時代へ
『……ジェシカ.ドーソン……』
生物の願いを聞き入れず、1人の少女の事を考える
『……アン.ドーソンの姉。
100……107年前……観てみるか……』
その存在は紐解く。記録を
第9章 螺旋階段 観測記録 完




