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異世界無能者の観測記録  作者: ホムポム
第9章 螺旋階段  観測記録
88/123

転生への階段 (裏)

「…………そろそろ始めるよ」


ジェシカ.ドーソンの屋敷。

変わらぬ日の出と共に

この報告会も変わらずに始められる


変わったのは


「あれ?ドグマとクーガー。

それにユウゴも来ていないわよ?」


ジェシカが皆を確認して老婆に尋ねる


「……それを含めての報告だからね。」



…………


…………



「ふーん。あたしがユウゴを……」


特に気にした様子もなく、その事実を受け入れる



「で?ドグマとクーガーもあたしが殺したの?」


少女は覚えていない。

なにがあったのか……なにをしたのか

なにを忘れたのかを


少女が支払った対価。人間を辞めた証として

記憶を奪われ続ける



神官の男が答える

「お嬢様と無関係の場所で…………

ドグマ.マグナスとクーガー.エヴァンスは

…………還りました。神の元へ」


神の元へ還った。それはもう

この世に存在しない。という事



「……そうなの……残念ね」

少女は酷く……悲しそうな顔をした




神官は老婆に目で合図を送る

それに頷き


「……ジェシカ……落ち着いて聞きな」


老婆が少女の名を呼ぶ時は

決まって主従が逆転する時


つまりそれ相応のなにか がある時


「何言ってるのシグ?

そりゃあ、あたしも悲しいわよ

でも「クヌギ.イシノギとミカ.レミナスも死んだよ」」



少女の声に被せるように、事実を突きつける




「…………え?」


理解できない言葉。老婆は付け加える


「正確にはクヌギ.イシノギは

神の元へ還ってはいない

でもミカ.レミナスは完全に、この世界から消えた」




「な……誰が?誰が殺したのよ!?」



少女は椅子から立ち上がり激高する

当然だ。自身の敬愛する兄姉が

死んだと告げられたのだ


「覚えてるかい?昨日ユウゴが

村が襲われるかも、しれないから

助けてほしいって言ったのを」



「…………うん」

少女は小さく頷く


報告でも聞いたが、

確か…………自分の知り合いがその村に住んでて

あたしが居たら、なんとかなるかも、しれないから

是非来てほしい……そんな内容だった



勿論あたしは行かない。

何故あたしがユウゴの知り合いを

助けに行かなければ、ならないのか?



時間的にも無理だ。

村に来るのが、確か……夕暮れ時。


そんな事、この屋敷に居る者は皆

知っている筈なのに……




なるほど……多分しつこく食い下がった

ユウゴに嫌気がさして殺したのだろう。

今のあたしでも殺してる



関係ない……関係ない筈なのに……



「その村にあんたの兄と姉も居たんだよ

……ユウゴの予想通り、村は襲われて

2人は殺された。」



「………あ……が」

少女は言葉が出ない。でで来るのは

押し殺した悲鳴と憤怒




なんとか……自分を保つ為に言葉を発する

「だ……誰が殺したの?そいつを殺す」



少女は理解していない

理解しようとしなかった



少女に理解させられる者は1人……

老婆は冷たく言い放つ


「誰が殺した?多分街にでも行けば居るよ

でもね……ジェシカ.ドーソン」



老婆から紛れ無い事実を



「2人を見殺しにしたのは他でもない……あんただよ」





少女の顔が引きつる

「…………出るわ」



少女が怒りに震えながら屋敷を出ようとする

皆も主に付いていこうとする



どちらでも良かった……

何故なら……ここから何を、どうやっても


皆死ぬのだから……



「ジェシカ!」


老婆が小石をポンと投げ渡す


「希望を持って死にたいなら

その石を持って兄姉が死んだ村の森奥

……そこへ行きな」



少女はその石を見つめる

姉が身につけていた小石。

老婆がミカ.レミナスに譲った記憶の欠片



何故老婆が持っているのか……

それは少女にとって、もはやどうでも良い事



「絶望のまま死にたいなら……

街へ行って……死ぬまで仇討ちをしてきな」




同じ道へ通ずる2択

少女は…………選択する。

どちらを選ぼうと死しかない未来を




屋敷には老婆1人。残される

皆 主……ジェシカドーソンについて行った

どちらを選んだのかは解らない


結果だけは一緒だ




老婆は独り言を呟く

「いい加減……なにか変わると良いんだけどねぇ……」


しかし老婆は、なにを

変えて良いのか解らない


変えられる力も無い



「……ジェシカ……頑張るんだよ…………

 ……辛くても……頑張るんだよ…………


わたしは、もう何も出来ない」



……それでも……覚えておいてほしい

……これだけは……覚えておいてほしい




パチン と指を鳴らす




      どんな事があっても

   わたしだけは あんたの味方だからね




空間が押し潰される……屋敷ごと……老婆もろとも





…………



…………





クヌギ.イシノギは飛ばされる

時間を越えて、存在を創り出す



ミカ.レミナスに出会う直前……即ち



『……………………』



俺はソイツを見た事が無い

ただ間違い無く知っている


灼熱を纏った人型

全てを熔かす炎熱を従え……


その人型は、考え事をしているよう

何も考えてないよう……浮遊していた


「な……んで……俺…………が?」



違う。クヌギ.イシノギではない

人間になる前の私がそこに居た


『…………!?………』




その存在は俺に気付くと

炎を自身へとしまい込み

口を大きく開け、牙を剥き出しにする


  神へ捧げる為に




まさか……!?俺が最後の1人なのか……?



考える時間は無い

「待て!お前の事はわかっている

まずは話しを聞いてくれ!

その後、俺を殺せばいい

俺が最後の1人なんだろう?」



そうだ。コイツで良い

俺がミカを救えなくても、話しを聞いたが(コイツ)

ミカを助けてくれる



その人型は動かない

…………伝わったのか?

伝わってる筈だ。私は人の言葉が解るのだから


俺も私の事を理解している。

きっと伝えられる!



『…………』

人型は ゆらりと姿を消し



ザシュ



青年の首筋から血飛沫が上がる

「…………ガッ!?……ハッ」




……伝わる……伝える……絶対に

     ミカを……助ける

           ミカを……救う


ヒューヒューと喉から音が漏れる



傷口を押さえる。生き残る為では無い

声を出さなければ伝えられない



命を絞り尽くせ!

魂を燃やし尽くせ

この一言で伝える……絶対に!



命を!全てを賭けてミカを助けろ!お前が!!

「……命…………み……カ……助……お前……が……」



……出しきった。もう俺には何も残っていない




…………大丈夫……伝わったよな?


俺は安心して、お前に身体と心を委ねよう

お前がミカを……助けるんだ



…………




…………


声が聴こえる。望んでいた声

忘れてはいけない筈の声

最愛の女性の…………



「大丈夫〜?お水飲めますか〜?」


…………


…………




これは、誰の声だ?聞いたことがない


俺はそもそも…………誰だ?


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