螺旋階段
『……納得してくれたかな?
もう飛ばしていいかい?』
蛇は舌を出しながら青年に問う
「……聞きたい事がある。
お前達神々は私を殺す為に
……あの少女を用意したんじゃないのか?」
百年以上昔の話し
神々は私が邪魔だったのだ……だから
あんな手を使い……少女を殺した
蛇は卵を産み、そこから小鳥が躍り出る
『……君。毎回それを聞くよね?
君の記憶は、ドコまで正確か把握してるのかい?
その思いは、人間になって生まれた思考だろ?』
「…………」
青年は考えながらも頷く
夢で私の存在を知り、
話しを聞いてクヌギ.イシノギが出した結論は
少女は私の生贄という答えだった
『クヌギ.イシノギ。人間になる前の君は
そんな事は絶対に考えなかった。
何故だか、考えてごらん』
それは私がそこまで頭が回らなかっただけ……
『んー、神は万能じゃ無いんだ。
こうやって、この世界に存在するだけでも
君の想像もつかない程の力を使ってるんだよ』
小鳥が金切り声で青年の肩に留まる
それでも青年は微動だにしない
『この世界で1番力のある、兄様が
協力してくれてるから、僕は存在出来ている
君の知り合いだよね?だから協力してくれたんだよ
でなければ、兄様は神々に力を貸したりしない
兄様が力を貸すのは万物だけだ』
青年は考える……俺の知り合い
いや、私の知り合いか?魔物の誰かなのか……
リスになったその存在は
木の枝に、ぶら下がりながら
『君?ひょっとして……
自分の名前も覚えてないの?』
「俺の名前は……クヌギ.イシノギ……」
……違う。その前の事なのか……
リスの手が空を向ける
『天を見なよ……あれが君の正体だ』
眩しい……青空に雲が……風によって流れている
あの雲はいつか雨を降らせ……
『もういいよ。解る人は解る。
君には解らない。それだけだ
他に聞きたいことはあるかい?
無いなら本題に入るよ』
…………まだある。
この存在は答えを教えてはくれないが
きっと答えを言ってくれている
「…………竜がミカの事を神の手札と言っていた
それがミカが特別な理由なのか?」
『……………………神の手札か……面白い表現だね。
僕も使いたいな。』
しかし神は教えも答えもしなかった
…………解らない。もう解らない
「俺は……どうすればいい?」
リスが木のみを齧っている
木のみが笑っているように俺には見えた
『やっと本題だね。
神々はミカ.レミナスの生存が望みだ
それを君に叶えてもらう』
「生き返るのか!?ミカが!?」
青年に今日初めての活力が戻る
『それは無理だね……神が1つ欠けている
いや……仮に欠けてなくても無理だと思うよ?
言ったろ?万能じゃないって。』
ならばどうやって…………
「リビングデッド!あれを使えば……」
『アハハ。違うよ そんな紛い物で良いなら
誰か神官でも連れてきて祈れば良い
生命神も嫌々ながら
協力してくれるかもよ?……する訳無いか
……神々はそんな歪な偽物では納得しない』
リスはひたすら木の実を噛じる
硬い木の実なのかまだ殻が砕けない
『君を過去に飛ばす。そのための存在だ』
「過去……に……戻れるのか?」
青年の目に光りが宿る
『戻るんじゃない……飛ばすんだ
違いはちゃんとあるからね。飛ばされて確認しなよ』
過去に行ける……
やり直せるかも知れない
ミカを……助けられる。救える
青年がリスに詰め寄る
「早く!早く俺を飛ばしてくれ
絶対俺が助けるから!」
リスは人型に変わり、木の実を俺に手渡す
『これは……〈意志の実〉
あの子の為に、君だけの為に器神が創った
その実に僕が力を籠めた
……覚えてるか知らないけど
今の君の名前の語源でもあるよね。
ずっと使ってるからそれは覚えてるんだね』
俺はその実を受け取る
俺には、それがドングリにしか見えなかった
俺が無知なだけか……他の言葉では形容出来ない
『その実を口に含み、行きたい時代を創造しな
そして噛み砕く。君が創るんだ。君の存在を』
俺は躊躇いなく木の実を
『あーゴメン。1個確認だ。
君はこの世界から存在しなくなるけど
未練はないかい?』
「ミカの居ない世界には、未練も興味も無い」
何の未練があるというのか……
ミカを殺した世界だ。1秒だって居たくない
1秒でも早くミカに会いたい
人を形をした存在は溶け落ちる
『……君と会うのは今回が最後にしたいね』
俺は意志の実を口に含み噛み砕く
ミカに会う寸前……
俺がミカに初めて会った時まで
…………
…………
意識を失い まどろみの中へ
一瞬の中にいる。永遠を彷徨っている
……この感覚。俺は何度も経験している
数回程度では無い。もっと膨大な回数を
……この感覚を経験している
俺はあの存在からもっと聞くべき事があったんだ
何故もっと追求しなかった。
アイツは俺と何度も会っている
何故それを追求しなかった?
俺が冷静では、なかったとはいえ
愚かすぎる。俺の致命になる。
何故なら俺が
飛ばされた場所は…………
目が覚める。変わらない場所
あの存在は居ない。しかし俺の背後に
確かに存在している物が居る
俺は振り向く。瞬時で理解した……俺の最後を
…………
…………
クヌギ.イシノギの居なくなった森で
神は呟く
『神の手札か…………あの竜……
知性を持ちすぎるのも困ったものだ
……しかも間違えているよ』
何処にいるかも知れない竜に向けて……
『ミカ.レミナスは神々の大事な切札だ。
余計な事をされる前に消えてくれて助かったよ
ここからは結果は変わらない
何をどうしようと、何度やっても同じだ』
神は記す……この神 本来の役割ではない仕事をする
…………観測結果 時系列順記載
竜 消息並びに生死不明
犯罪者 名称不明 死亡
ユウゴ.カタス 死亡
ミカ.レミナス 死亡
村人並びに犯罪者全員 死亡
クーガー.エヴァンス 死亡
ドグマ.マグナス 死亡
クヌギ.イシノギ 消息不明
ジェシカ.ドーソン 死亡
ミシェル.アンカーソン 意識不明
一月後 この世界の終わりを確認し観測を終了する




