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異世界無能者の観測記録  作者: ホムポム
第9章 螺旋階段  観測記録
86/123

終わる世界

「……ミカ……ミカ……」


青年はフラフラとした足取りで

森を彷徨う。宛もなく……宛はある

ある筈だ。森にポツンと佇む、あの城



あそこへ向かっている筈が全く見つからない


同じ場所をグルグルと回っていると




木に女性が縛られていた


「ミカ!」

青年は慌てて駆け寄り、短剣で縄を切る


女性は傷もなく、ただ縛られている状態だった


「ミカ!ミカ!大丈夫だったか?

心配した。生きてて良かった……」




女性が目を覚ます

「イ……イシノギさん?……!!

ミセス村は!?村とミカちゃんが危ないんです!」



「…………」ミカではなかった


青年は力を抜き女性を地面に下ろす

確か……ミカの友達の……冒険者。名前は……



冒険者……


名前なんて何でもいいか……

ミカを傷つけた奴等だ。お前も例外じゃない




ミカを見つけたら全員殺してやる



青年は女性に興味をなくし森の奥へ歩きはじめる


「あ……あの、ミカちゃんは?」

「死んだよ。冒険者に殺された」



「…………あ」




それはどちらの声だったのか



どちらでもよかった。

問題はクヌギ.イシノギが肯定してしまった

必死に目を背けていた事実から……


『ミカ.レミナスは死んだ』と


「ああああァァァァァァァァあ!!!」


青年は叫びながら、森を疾走する



何で!?何でミカが死ななければいけない?

ミカが殺されなければ、ならない!?



悪だからか?犯罪者を護ろうとしたからか?

村を護ろうとしただけだ!

ミカは何も悪い事はしていない!



ならば俺が殺してやれば良かった

ミカを殺そうとした奴等を……




誰が殺した!?……関係ない全員だ

目についた奴は全員殺してやる


…………




…………何故、今 男の言葉を思い出したのか

ずっと心に引っかかっていた

クヌギ.イシノギの致命


それを今 思い出す


男は忠告してくれた。俺は聞かなかった



わざわざ警告までしてくれた。

俺が無能だから……



『君の判断でもし……もしも大事な人を失ったら

力がないなら、欲するようになる

自分の無力さを嘆く。それが普通だ』



俺は後悔している。

ミカを殺した奴を、殺すしかない程後悔している



男は続けてこう言っていた

『力があるのに君の判断で死なせたのなら

それは君が殺した事になるんだ

そうなる前に……』


…………



人間の本質を熟知しているイーディスさんの力を

借りていれば……ミカはあんな目に会う事も無く

……少なくてもあの場から、逃せたんじゃないのか?


あの時……魔物を喚んでこちらから仕掛ければ

ミカは死なずにすんだのか?




俺が……ミカを……殺した

俺が殺したんだ……だったら簡単じゃないか




俺が死ねば良い




ミカが居ないんだ。こんな世界どうでも良い

きっとこの世界に、私の捜す少女はもう居ない



わかりきっている



     俺が殺したんだから




誤って済むとは思わない。

それでも……会いに行こう



青年は森を宛もなく歩く……宛はある


初めてミカと出会ったあの場所

クヌギイシノギが倒れていたあの場所で

俺の最後の時を迎えよう……




…………


その場所は見覚えがある場所だった。


間違い無く俺が倒れていた場所だ。

目印など何も無い……景色変わらぬ森

それでも此処は俺が居た場所……何か特別な場所




「……今から……いくから」


青年は懐から短剣を取り出す。



ポロリと木の枝が懐から逃げるように


老婆から貰った鍵……

見えない物を可視化させる……



何も考えずに青年は鍵を手に取り

虚空に向けて…………回転させた


木の鍵はその場で消滅し




空間が捻じれ曲がる

森は森のまま……しかし本来の姿を取り戻し



その中心に狼が居た


狼がこちらに気付き

『もう来たのかい?

まだ見つけてないんだけどなー?』


まるで声変わりのしていない、少年の声で

不意に喋りだす



「なん……喋った?」



狼は瞬きの間に猫に変わりに

『そりゃ喋るよ。君の言語に合わせてるんだから。


……探し物。もう随分見つけていない

まぁ、暇つぶしにはなったよ。

……早速飛ばしていいかい?』



猫は顔を洗いながら問いかける


「なんの事か解らない。説明してくれ」



猫は虎へと姿を変えていた

大きく溜め息を吐き


『君、また記憶喪失かい?毎回じゃないか!?

ハァー……まぁ最低限の説明は必要だよね

ドコまで思い出したか、僕に教えて


僕もこの時代に来て……人間で言う10日程だ』




「……あんたは何物なんだ?」



虎は牙から鼠が這い出る

『そこからか……今回は、結構重症だね。

感のいい時の君は気付くんだけど……

何だと思う?』




「解らないから聞いているんだ」



青年はもう死ぬのだ。

ならばこの問答は早く終わらせたい

その思いで、いっぱいだ



『君は何時(いつ)も考え無しだよね?

少しは考えたらどうなんだい?


……いや忘れてくれ……君の人生だ。

好きに生きたらいいし、好きに死んだらいい。

好きに殺したり、殺されたりしてくれ』



「そうか……じゃあここで死ぬよ」


青年は短剣を抜き刃を

『でもね……』



虎の抜け殻が女性に姿を変える

クヌギ.イシノギの大事な女性に



「ミカ!?」



『そうだ。ミカ.レミナス。彼女だけはダメだ

あんな……くだらない死は……絶対に許されない

この世界で唯一。彼女だけが……




  好きに生きて、好きに死ぬ権利があった』




ミカ.レミナスの形が変わりに

老犬へと変化する


「…………」

青年はその光景に愕然としている


『コロコロ形を変えてごめんね。

世界に干渉するのは力がいるんだ


存在の固定は僕には無理だ。

常に存在を変え続ける事でなんとか

父様や母様、大兄様でも……


皆の力を借りて、僕が代表でココに居る

皆と違って……基本暇だからね


……兄様ぐらい力があれば単一で現界

出来るんだろうけど……』



「あんた……まさか……」

青年は震えながら、その存在に指をさす


『まさかじゃあない。

そこから君が外したことは無い。正解だよ』




「何でこんな所に」


『……さっきチラッと言ったけど

ミカ.レミナス。彼女が

殺されるのだけはダメなんだよ


本当ならこんな事はしないし……

協力しない。でもね……あの子だけは特別だ



あの子と神々は友達だからね

これは全神(ぼくたち)の総意さ』



その存在は口を創り、笑みを創る



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