解き放たれた絶望
私は朝日と共に目覚める
クヌギ君はまだ眠っている
ドアを開けお日様に挨拶。
今日はいい一日でありますように……
神様にも挨拶をする
…………
…………
「……なんでだろ?」
ミカは独り言を呟き離れの家に戻る
戻るとクヌギ君が起きていた
顔面蒼白で
「ど、どうしたの!?凄い汗」
私が慌てて駆け寄ると
「……なんか変な夢……だった。
多分、案山子。不気味な案山子の夢」
ふ〜ん。これは良い事を聞いた
「クヌギ君って怖い物なんてないと思ってたけど
案山子が怖いんだ。私の村に無いのが残念
でも今度作ってあげるね」
彼は笑いながら
「やめてくれ。現実でも、うなされたくない」
良かった。顔色は悪いけど元気だ。
空元気かもしれないけど、無いよりはいい
…………
…………
昼を過ぎてもユウゴさんは来てくれなかった
クヌギ君と二人で村の入り口に立っている
「やっぱりダメだったのかな?」
私の不安を察してくれて
「大丈夫。話し合うだけなんだ。
物騒な事がないから心配しなくて良いよ」
昨日からクヌギ君は
『大丈夫。心配しなくていい』とずっと言っている
まるで自分に、言い聞かせるみたいに
空が紅く、夕暮が近づく
結局ユウゴ.カタスはこの村に来なかった
この村には来られなかった
彼は殺されたのだから……他でもない
彼の主人の手によって
…………
その時は近づいている
クヌギ君は森の奥を見ている
村の入り口とは逆方向を……何か探している
何故か私は言い知れぬ不安を感じた。
その前からだ。何故昨日のお祈りで神様は……
今日の挨拶でも神様は……
時間が迫っている
今言おう!間に合わなくなる
何が間に合わないか解らないけど
「クヌギ君。私!あ…………え?……」
…………
…………
大丈夫……大丈夫だ。イーディスさんが
言った事を信用しない訳ではない
それでも見せしめなどする訳が無い
俺達に敵意は無い
だったら話し合える
大丈夫だ。俺はこの村を護ってみせる
ミカはドコかソワソワしている
やはり不安なのだろう……当然だ
自分の故郷の村がどうなるか……
どうしても悪い方へ考えてしまう
(…………代わってやろうか?)
初めてだ。コイツが表に出たいと言ってきたのは
そもそも代われるのか?
(……無理だろうな。だから言った)
なら言うなよ。でも……村の件が一段落したら
終わって、もし代われるのなら
ジェシカに会ってあげてほしい
(方法はお前が見つけろよ。お前の体だ)
……俺の体で良いのか?
(勿論だ。俺はここで満足している。
好きに、この体を使ってやれ)
ありがとう。
簡単な事だったじゃないか……
少し語りかけるだけで通じてくれる
俺に希望がさしてくる
俺に絶望が差し迫っている
……
それに気づいたのは他でもないコイツだ
(魔物を喚べ早く!)
急に何を言い出すんだ
(後ろだ!森を見ろ!護れ!)
俺は後ろを振り返ると……森があるだけ
何もないな……
「クヌギ君。私!あ…………え?……」
護れっていったい何……を
もう俺にはコイツの声は届かない
それよりも重大な出来事に、目を……心を
奪われたからだ
「……ミカ?」
ミカのお腹から血が出ている
大量の血が大地を染め上げる
ミカは力無く仰向けに倒れ
「ミカーー!」
俺は大声をあげる
ミカの傷口を慌てて抑える
「っつー!」抑えた手に激痛が走る
もう片方の手でミカの腹を抑えながら確認する
ミカの血……赤い……彼女の髪の毛のような赤
それに混じった。悪意ある灰色……
何かがミカの体を貫通したんだ
悪意の塊が
遠くから声が聴こえる
「術士は殺った!
村に居る者 全員反逆者だ!殺し尽くせ」
俺はその声を覚えている
姿は見えなくても。その凛とした声は
絶対に忘れない
殺し尽くせだと!?お前達を……
俺は手首を食い千切る
ボタボタと大量の血が地面を染め
ミカの血と混じり合い
殺してや「ク…ヌギ……君……」
俺の殺意を止めたのはミカだった
「ミカ!?しっかりして!大丈夫だから……
俺が時間を稼ぐから、落ち着いて癒やしの術を……」
ミカの目は虚ろだった
俺を見ず、ただ焦点の合わない瞳で空を見上げる
それでも……これは俺に向けられた言葉
「ダメだよ……魔物さんは……」
魔物達は許されたがっている
ここで人間を殺せばまた、
何千年と許されない時を過ごすだろう
「わかった!わかったから癒やしの術を」
何でもいいから!ミカ……助かってくれ
「昨日から……神様の声が……聞こえないの
届かないの……私達……間違ってたのかなぁ?」
神への祈りが届かない
それは明白な理由がある。
神々だけが知る制約がある。
生物には決して理解出来ない領域
神々ですら侵せない領域
ミカ.レミナスは、その領域に入った
神の力は借りられない
そのうちの1つ……
何をしても無駄だからだ
ミカ.レミナスが穿たれた腹部をさする
大粒の涙を零し「……ごめん……ね」
自身に向けた、謝罪だったのだろうか?
ミカ.レミナスが虚ろな瞳で片手をあげる。
最後の言葉だ。クヌギ.イシノギ
いや……誰に向けた言葉だったのか
「あの時……ずっと……一緒って言ったのに……
ごめんね……でも……貴方はもう一人じゃないから……
泣かないでいいんだよ?」
「……ミカ?」
クヌギ.イシノギではない。
私はその言葉を覚えている
「お願い……言っても……いいかな?」
その想いを……温もりを……
「今度は……手を……つないでくれる?
一人は……寂しいから」
……少女の声を
クヌギ.イシノギはミカ.レミナスの最後の願いを
叶えようと……その手を握ろうとする
ガッ 「ミ……カ……」
頭を砕かれ、手を握る事なくミカの上に覆い被さる
「ク……ヌギ……君……………………」
「良し!中級2人殺った。
残りは犯罪者とジジィとババァだ!」
「クソッ!この女!毒で殺られて
もう死んやがる。楽しめねぇじゃねぇか!」
「女は見せしめだ!
男は火でもかけとけ」
冒険者達は思い思いの善行を行う
正義 という衣を纏った醜い善行を
クヌギ.イシノギは油を撒かれ
火にかけられ燃え盛る
冒険者達は彼に興味はなく、功を為す
…………
…………
それでも朝日は昇る。変わらない絶対がある。
灰となったはずの躰がムクリと起き上がる
青年は、衣服すらも燃えていなかった
「……ミカ?」
辺りを見渡すがミカらしき人物は居ない
死体を1つ1つ確認する
その度に吐き気に襲われ安堵する
「ミカじゃなかった……ミカを捜さないと」
村中を捜し回った青年は心底安堵した
死体は全てミカではなかった
青年は村を護りたかったのではない
ミカ.レミナスだけを護りたかったのだ
「何処かに逃げられたんだ。良かった」
何処に……俺達の家か……それとも
ふと森に目をやる
あの……白い建物……
あそこにミカが居るかもしれない
青年は森へと入ろうとするが足を止めた
止めてしまった
案山子が立っている
青年は乾いた笑みをこぼす
不出来な案山子だ。服も着させられず
代わりに赤黒い装飾を、全身に施され
木材に縛られて、立たされている
女の子の案山子なのか………
解りにくいが……女の子だな。男性器はないし
胸に小さな膨らみもある
ミカと同じくらいの背丈かも……
しかしそれはミカ.レミナスでは無い
断言出来る
何故ならその案山子は両腕はなく
首からから上も無いのだから……
青年が知るミカは首から上が付いている
両腕もしっかりある……
だからこれは、ミカ.レミナスではない
ミカがあれ程大事にしていた……記憶の欠片
あの石も無い。絶対違う
案山子の隣に球体が刺されていた
魔除けだろうか……
赤い髪の女の子が苦悶の表情で突き刺されている
やはり、ミカでは無い。
青年は彼女の、そのような顔を見た事がないからだ
いつも明るく。ニコニコしていた。
断言する!ミカ……では……無い……
「ミカ……を……捜さないと…………」
次回は4月10日投稿になります




