夕闇の帳
案山子がいる……
不出来で精巧な案山子
害敵を寄せ付けないという役割なら
それは確かに不気味で役割を全うしている
しかし烏が案山子を小突いている
その案山子が害敵を呼び寄せてしまっている
不気味で精巧な案山子…………
ミカ.レミナスの祖父。
村長の家で話し合いが行われていた
「やっぱり俺達が村を出て捕まれば……」
「ワシ等を置いてくのかい?この村に
居ておくれよ」
クヌギ君が来てからも
この進まない話し合いが続いている
老人達しか居ない村。死にかけの地に人を呼ぶ為に
犯罪に疲れ切った人達を受け入れたという。
犯罪者達も人間だ。
善意という物は持ち合わせている
仕事がない。食う物も、家も無い
仕方なく犯罪を犯せば、烙印を押され
二度と元の生活には戻れない。
何処の町も、村も受け入れない
やはり生きる為には犯罪に手を染めるしか
道はなくなる
新しい仕事を始められる器用な人間ばかりでは無い
失敗する人間もいれば
そもそもその資金すらも
調達できない者ばかりだ
仮に、いくつもの道が用意されていたのなら、
彼等は犯罪に手を染めたのか……
手っ取り早く稼ぐ為に、走る者も居るだろう
しかし、少なくとも、ココに居る彼等は
悪という行為に嫌気が差し、
疲れ果て この村に辿り着き、受け入れてくれた
…………
犯罪者達がこの村を出る
確かに 村は助かるかもしれない
その後。この村は死ぬ
老人達がいずれ畑仕事が出来なくなり
誰も住み着かなくなる
そんな事は、この村を知らない人達には関係ない
悪人を退治するという善意が
この村を殺しにかかる
むしろいい気分なのだろう。
老人達だけ残された村で緩やかに
死ぬ事は見てみぬふりだ。
そこに悪は居ないのだから
村長が慌てるように諌めた
「みんな!早まらんでくれ。
ワシの孫やイシノギさんは冒険者じゃ。
それに同じ人間。話せばわかり合える」
「……そうです。俺達は同じ人間なんです
気持ちのわかり合える人間です
依頼にも 対処 とありましたから
心配しないで下さい」
クヌギ君も私達の為に何かをしようとしてくれる
私は別に冒険者なんてどうでも良いが
彼は……どうだったのだろう?
何故仕事を辞めてまで
この村を護ろうとしてくれたのだろう?
最近のクヌギ君は元気がなかった。
ずっと何かを悩んでいた。
私は少しでも彼を元気付けられたのかな?
私じゃダメだったのかな?
クヌギ君の顔色はやはり悪い
『心配しないで』と言った彼の顔色こそ心配だ
でも大丈夫。私には彼を元気にさせられる
取っておきの報告があるから!
大神様に確認してもらったから間違いない!
きっと驚いてくれる!
……喜んでくれると良いなぁ
私の村の件が落ち着いたら話そう
……楽しみ。どんな顔するのかな?
「私はこの件を手伝ってもらえるよう
知り合いに頼んでみます
無理かもしれませんが、ひょっとしたら……」
胡散臭い見た目の男が席を立つ
「ユウゴさん……ありがとう」
男にお礼を言うと
「……あまり期待しないで下さい
最悪……私だけでも、またこの村に、戻りますので」
そう言って男はこの村を出て行った
……あの時は風神様にお願いして
ケガさせちゃって、ごめんなさい。
でも私の体型の事を言うから……気にしてるのに
「取り敢えず今日はもう休もう
冒険者さん達が来るのは明日なんじゃろ?」
おじいちゃんが私に確認してくる
「うん。明日の昼に集合で
夕暮に到着する予定って言ってた」
「そうか……皆さん
……くれぐれも変な気はおこさんで
ワシ達に、敵意が無い事を解ってもらおう」
…………
…………
久し振りに自分の部屋に帰ってきた。
改めて見ると何も無い部屋だなぁ
ロウソクに火を灯す
……神様……私の村を護りたいんです……
どうか……どうか……お願いします
…………?
…………
「…………」
ミカは自分の家を出る
村を少し歩き離れにある家をノックする
コンコン
「ハイ」
扉はすぐに開かれ、そこには彼が居た
「ミカ。どうした?眠れないのか?」
「うん……一緒に居てもい〜い?」
彼は頷くと椅子に腰掛け
閉じていた本を開く
「おじいちゃんが集めてた本。何読んでたの?」
「読みかけだったのを思い出してさ
今は……キノコの本だな」
彼は表紙を私に見せてくる
今は……前は?
別にいいか……私はあまり本は好きじゃない
おじいちゃんに『本を読め』って
言われ過ぎて、逆に嫌いになったぐらいだ
「ね〜ね〜クヌギ君」
ミカは甘ったるい声で彼を呼ぶ
「何?ミカ……」
彼は本を閉じミカに体を向ける
「……何でもない」
青年は微笑みつつ
「……大丈夫だから……絶対」
彼は本を読んでいる。
きっと頭に内容など入っていない
この村の事を考えてくれているんだ。
嬉しい。嬉しいんだけど…………
「本ばっかり読んでないで
今日はもう一緒に寝よ〜!」
「えい!」と 彼の腕を掴み、布団へ押し込む




