弾丸の想い出
少女が家に帰ろうと していると声がかかる
「お嬢様!?無事でしたか?」
クーガー.エヴァンスが長い棍を携えて
こちらに歩み寄る。そして恐る恐る確認する
「お嬢様、その……龍種が出現したと
聞いたんですけど……」
少女は瞼をこすりながら
「龍種?居たのは大きなトカゲよ
それより、トカゲの記念品があるから
取ってきて。場所はドグマが知ってるわ」
クーガーは少女に頭を下げ
「場所は聞いてます。
お嬢様をお送りした後で、良いですか?」
少女はコクリと、頷き
「あたし、もう眠いからおんぶしてくれる?
その後取ってきて。無かったら別にいいわ」
男は背を向け腰をおろす
少女は背中にピョンと乗り、頭を撫でながら
「揺りかごみたいにお願いね。クーガーちゃん」
男は苦笑しつつも
「クーガーちゃんって……
ご機嫌ですね。お嬢様」
「そうかしら?」
少女は男の頭を撫でながら考える
ご機嫌……?言われてみれば
あたしはお兄ちゃんの想い出を捨てたのに
気分は悪くない……
あぁ……あたしは護れたからだ
初めて大事な人を……守りたい人を
それが叶ったから
あたしの心は弾んでいるのだろう
「……着いたら起こしてね。やる事があるわ」
「……ごゆっくりと。お嬢様」
…………
…………
「……様……嬢様……お嬢様」
少女が薄っすらと目を開ける
外を見るとまだ日は沈んでいない
少女を優しく起こしたのは老婆だ
「…………大丈夫……まだ大丈夫」
ベッドから起き上がり
独り言のように自分を確認する
少女はイスに座り何かを書き始める
少女が毎朝読んでいる本に。
老婆は優しい瞳で少女の後ろ姿を見つめている
「お兄ちゃんの……弾丸を……使ったけど……
あたしは後悔してない。むしろ嬉しい……っと」
本とは日記だ。
少女は毎日の出来事を日記につけていた
「シグ……報告は明日聴くから
あたしはもう寝るわ」
老婆は頭を下げ、部屋を後にする
朝 日の出と共に、屋敷内の住人が集合する
いつもは、そこから少女が起きてくるのを
待っているのだが、この日は違った
少女は誰よりも早く椅子に腰掛けていた
そして変わらずいつもの本を読みふける
最初の一人目は老婆だった
何事もないように少女の隣に立つ
間もなく、胡散臭い見た目が特徴の
ユウゴが部屋に入ると
「お、お嬢様!?おはよう御座います!」
「ん……おはよう。ユウゴ」
目線こそ向けないが、男と挨拶を交わす
「私……皆さんを急いで呼んできます」
ユウゴが踵を返そうとするが
「別に良いわよ。待ってましょう」
「わ……わかりました。」
10分とたたないうちに、住人全てが出揃う
老婆は全員を見渡し声を張る
「報告を始めるよ。」
ユウゴが手を上げ
「私とお嬢様で、前のお家を
掃除しに行ったところ…………」
男はその時の出来事を、事細かに説明する
「…………ですので、
ドグマさんを呼んで参りました……」
ユウゴは申し訳なさそうに頭を下げる
理由は本人も解っている
クーガーがそれを追求する
「お前さん。お嬢様を1人にしたのかよ?
なんの為にやってると思ってんだ!?」
例え知り合い……敬愛する兄姉と一緒と言えど
付き人無しに行動させた責任を取れるのか……
ユウゴは頭を下げる事しか出来ない
少女が初めて口を出す
「あたしが覚えてるから問題無いわ。
次に行きましょう」
「「「……………………」」」
驚きは全員……老婆も含めて
隻腕の男が話しを引き継ぐ
「私とお嬢様。クヌギ.イシノギ殿
ミカ.レミナス殿4人で
竜爪を探しに森へ入りました」
片腕となったドグマ.マグナスは詳細を説明する
森で少女がはぐれた事
500歳の龍種と遭遇した事
自身の片腕を亡くした事
少女が1人立ち向かった事
「その後、私は帰還。現在両名は
屋敷内でお休みしています」
「…………」
流石にこの件を追求出来る者はいない
竜を前にお嬢様が、兄姉を連れて逃げろと言い
それに従わなかったら、それこそ……
「ドグマ……」
主である、ジェシカ.ドーソンが立ち上がる
男の前に立ち、
消え失せた腕を、優しく撫でるように
小さな声で
「あなたが、あの場に居てくれて良かったわ
……ありがとう。そして本当に……
ごめんなさい」
少女が頭を下げた。深々と
男は動揺しながらも本心を述べる
「この亡き腕は、お嬢様の期待に応えられた証
私の誇りです。どうかお顔を……」
少女は首に下げた、不出来な金属を
胸から取り出し、男に差し出す
申し訳なさそうに少女は言う
「こんな物しかあげられないけど、
これは、あたしにとって大事な物なの……
ドグマ……貰ってくれる?」
男は地位や名誉に興味は無い
金も暮らせるだけの資金だけで十分と
考えている。
スカスカの小さな金属
売れても大した額にはならない
年代物だが、錆は無い。
少女がとても大事にしていた証
ならば男にとってどれほどの価値があるのか?
持っていても、何の役にも立たない代物
役に立たないからと言って
力にならない訳ではない
男にとってそれは……何より変え難い褒美
地位や名誉など遥かに霞む。勲章
男は跪き、頭を垂れ
「……有り難く」涙を流し、
両の手をそえて受け取る……
片腕しかないはずが、誰しも
両手で受け取ったと錯覚させる
その美しい光景に皆、見惚れる
少女の胸に収められていた金属は暖かった
男は、その温もりを生涯忘れない
少女は椅子に座り直し
もう一つの歪でスカスカの金属に紐を通し
首にかけ、改めて胸にしまい込む
男の視線に気付いた少女は
「フフ。特別にあなたとお揃いよ」
パチリとウインクをしてみせた




