メモリアル バレット
「ジェシカ!ちょっとこれ持ってみて」
「何これ?変な形……」
「んーもう少し大きい方が良いかなー?」
青年は少女に背を向け
鉄の塊を加工している
「今度はどうかな?
これは変な形だけど、本物はカッコいいんだぞ」
青年は改めて少女に手渡す
不格好ながらも少女の大きさに合わせようと
懸命に造られた代物
「何かわからないけど、お兄ちゃんがくれた物だから
この大きさが良いわ。ありがとうお兄ちゃん」
少女は笑顔で、鉄の塊を抱きしめる
青年は恥ずかしそうにしながらも
「それは拳銃って言って、力が無い人でも
力がある人を倒せたりするんだ
コイツがジェシカを守ってくれる」
それを聞き、少女は拳銃をコトリとテーブルに置く
「あたし要らない」
「……ジェシカ?」
「お兄ちゃんが守ってよ!
『これからはずっと一緒だ』って言ったじゃない!」
困惑する青年に少女は、涙を浮かべ訴える
青年は少女の頭を撫でながら
「……見つかりそうなんだ。
兄ちゃんは今探しに行く準備をしてる。
ジェシカを守れる手段も整えている。
兄ちゃんが帰ってきたら……
絶対帰ってくるから……みんなで暮らそう」
…………
…………
結局あたしはこの拳銃とやらを手にしている
手順さえ踏めばそこに努力など要らない
才能も要らない。
誰でも力を手に入れられる
お兄ちゃんが作ってくれた弾丸は3発
どれも歪な形
失敗作なので最初に造った
3発しか用意されなかった
見様見真似と言っていたお兄ちゃんの弾丸を
あたしがさらに模倣して造った弾丸
お兄ちゃんが造ってくれた代物とは
比べ物にならない程
今ではキレイな仕上がりを造れるまでに至った
あたしは本物の弾丸を見た事無いので
キレイなのか比べようもないが……
お兄ちゃんの弾丸とは似ても似つかない出来栄え
見た目も……威力も……
竜は大空をはばたき始め
空より災厄を落とさんと砲口を大地に向ける
「あんた……バカなんじゃないの?」
空など飛ばずに、地上でそれを撃てば
あたしはこれを、使わなかったかも知れないのに
……いや、使うだろう
少女にとってこの世界より兄と姉が大事だ
天秤が釣り合う事は無い
弾倉から薬莢を地面に落とす
もう必要ない物だ。手軽な一発限りの使い捨て
常に身につけていた紐に通した弾丸を
胸から取り出す
「……お兄ちゃんとの思い出……」
顔も声も覚えていない少女にとって
唯一の事実。兄が造ってくれた物を
使い捨てようとしている
「ごめんね……お兄ちゃん」
少女は弾倉に一発の弾丸を込めようとする
ガキ……ガヂ
不出来 故か、すんなり弾倉に収まらない
兄が使わないでほしいと訴えているかのように
…………
そんな事は無い。コレはお兄ちゃんが
あたしを守る為に、造った代物だ
無理矢理 弾倉にねじ込み
銃口を大空をはばたく竜に向ける
幸いな事に、竜は空を飛んでいる
地上に向けて撃つより被害は断然少ない
砲口と銃口が互いに向き合う
竜と少女……互いに見つめ合う
撃鉄を降ろし引き金に指を掛け
竜の口から放たれた無情なる一撃
少女の銃口より放たれた悲哀の一撃
同時に発射された
ポン 可愛い音と共に
兄が妹の為に造った不出来な弾丸が射出される
それは音速にすら、まるで届いていない
一般人の肉眼でも容易に視認できる速度
つまり……躱すことが可能なのだ
龍の息吹に包まれた弾丸は跡形も無く姿を消す
妹を守れるようにと、心を込めて造った弾丸
妹の為にと、丹精を込めて造られた一品
兄の力が込められている
ならばその弾丸に……それ相応の力が
込められている事は当然だ
少女はその光景を見届ける
久方振りの、その絶景を
一発の試し打ちで、これは使ってはいけないと
あたしは理解できた
お兄ちゃんですら、別の方法を考えた始末だ
姿を消した弾丸は弾丸ではなくなる
変わりに直径10センチの黒い球体が現れ
龍の息吹を喰らい、空を喰らい 空間すら喰らい
全てを喰らい尽くしながら、肥大しつつ
ゆっくりと空へ……竜へと向かっていく
竜は黒い玉を避けようとする
躱そうとする。逃げようとする
無意味だ。その全ての行動を
黒い大玉は許さない
その場に留まる事が限界
それすらも許さない。
徐々に徐々に……
巨大な球体へ竜 自ら向かっていく
極大まで肥大した球体が、
再生された前脚にふれる
ゾリゾリと、ズブズブと不快な音をたて
脚は暗黒の中へと運び込まれる
前脚を亡くした竜は再生しようと試みたが
……再生されない。
正確には再生されたそばから
削り尽くされている
竜の巨体を一直線に喰われながら
暗黒の太陽が竜の中心部へと辿り着く
バチュ パチュ
暗黒の太陽は自身とドラゴンごと空間を飲み込んだ
残されたのは削られた空
飲み込まれた空間
その形跡にあるのは、まだこの世界が
見る事が叶わない世界が拡がっていた
しかし瞬きの間にその形跡も消え
代わり映えのない空が姿を現す
「……前もこんなのだったかしら?」
少女はもう覚えていない。
使うのは危険……それだけしか
使い捨てる筈の薬莢に紐を通し
首にかけ胸へとしまい込み
拳銃をポケットに押し込む
「凄いトカゲが居たものね……」
少女は竜の唯一の遺品の牙を見つめる
少女の身長程は、あろう牙……
それを持ち上げ
「大事な想い出を使ったんだから
記念に持って帰ってあげるわ」
ズリズリと引きずりながら
「…………重い!」
ドサリ と地面に落とし
振り返る事なく、その場を去って行く
平地となった森を抜けた頃に
「…………眠い……帰ろう」
フラフラとした足取りで家路に帰る




