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異世界無能者の観測記録  作者: ホムポム
第8章
78/123

狂人


「アハハハハー アハハッ!」




ジェシカは狂った笑い声を上げながら

(ドラゴン)に音速を超えた指弾を撃ち込み続ける



少女の姿は誰も捉えられていない

声だけが草原に響き渡る





竜はその場から動く事が出来無い

動く必要が無いのか、それとも……



ジェシカが動きを止める。しかし笑い声は辞めない


「アハァ!硬いトカゲじゃない!?

まだ楽しめるのかしら?」



ようやく……

口元を吊り(ゆが)ませ、笑いを押し殺す



少女は右腕を降ろし、竜の返答を待っている


『…………』


「早く喋りなさいよ!

せっかく人様の言葉が使えるんだから

死ぬ前に使っときなさい」


『…………』




問いに答えない竜に対して

大きくため息を付き


「ハァー……あたしは腕を降ろしてるでしょ?

大丈夫よ。撃ったりしないわ」


両手を広げ、無害をアピールしている

 


竜の体からは無数の弾痕、

即時に再生されているとはいえ、

同胞以外の攻撃で、容易く鱗を貫かれている事に

誰よりも自身が驚愕している



何より……動いた瞬間……

それよりも速い。動こうとした間際

まだ疾く。行動する。と脳が指示を出す刹那


その部位を撃ち抜かれ

竜は的となる事を余儀なくされている




    反応射撃(リアクションシューティング)

少女は、その域を大きく逸脱している



『……調子に…のるナ』


竜がやっと口を開く

少女の攻撃は確かに速く、見切る前に既に

撃ち抜かれる。しかし致命的ダメージですらない



少女の攻撃方法では竜を殺せない

永遠に撃ち続ける事が可能ならあるいは……



「調子に乗ってたのはあなた自身よ

大人しくしてれば

ペットにしてあげても良かったけど……


あたしのお姉ちゃんを傷つけたんだから

死ぬしかないわよね?」



少女は竜から視線を逸らし

左手でポケットを(まさぐ)


ゴソゴソ と


そして取り出す。





   才能を殺す物 を




歪な鉄の塊。いや精巧な金属。

それを見様見真似で造ったような代物


大人の両手で覆える大きさ程の金属を……

少女は右手に持ち替え、握っている



先端は、指先程の穴があり

中は、絶望の色を体現した漆黒


中心部は蓮根(レンコン)を想像される5つの穴


人差し指は中心部より下の突起物を

動かしながら

カチャ カチャと(もてあそ)



手首のスナップを効かせ

中心の鋼鉄の蓮根部分のみが

少女に対して顔を出し




カチャリ、カチャリ……計5回


蓮根の穴倉に小指程の金属を埋め込み



ガチャ!草原に響く音。

竜を殺す準備を終えたのだ



「……5発ね。6発目は無い事を祈りなさい」


それは誰に対する警告だったのだろうか?

龍種か……少女自身か……?

或いはこの……世界に対してか?



片手で竜にその先端部を向ける



「動いたら撃つなんて

気の利いたセリフは言わないわ」



親指で後方の小さな鉄鎚を下げる

ガチャリ 人差し指を中心部 

下の突起に引っ掛け


「あたしが動いたら……躱してみせなさい」



唯一握っていない人差し指を、握るように



突起を引き絞る


閃光が辺りを照らし

竜の右前脚、後脚が跡形も無く消し飛び




バァンッ!炸裂音が遅れて響く



ブシュウウ


(おびただ)しい程の出血が大地を

赤紫に染めあげ



『ガッ!?グァァァッ!!』


ようやく竜は自身の異常に気付く

体勢を崩し地面に倒れ込むように




頭部を消失させられていた




バァンッ!音速を遥かに、超える物によって


消失を免れた1本の牙が

赤紫の大地に深々と突き刺さる




少女は金属の塊をクルクルと回しながら

「……頭が弱点じゃないのね」



首からも血を流しながら竜は立ち上がる

瞬時……とまでは、いかないが確実に再生を始め



その行動を許さないかのように

上半身は放たれた 金属により消失した



「…………」


少女は初めて(けん)にまわる

倉に込めた物は5発


既に3発を撃ち、致命傷を与えた筈が

竜にとっての致命傷になっていない


残り2発……無駄打ちは出来無い




10秒と経たぬ間に竜は自身の姿を取り戻す


口を大きく開き 全てを呑み込まんと

全てを葬り去らんと



「ッ!?クソっ!」

僅かに後ろを確認した少女の、焦り混じりの声

素早く指を引き絞り



やはり頭を消失させられる



少女は大声で叫ぶ

「二人とも!

お姉ちゃんを連れてここから逃げて

あいつ……まとめて殺る気よ!」



少女が森に先端部を向ける


一瞬の間に森は直線上の平地へと変わる


パァン 音速を超える射撃によって




ドグマがミカを器用に背負い

クヌギも少女を見ながらも、この場から

離脱しようとする



彼等が居ても何も出来無い

それどころか完全に足手まといだ。


二人とも、それを感じ この場から離れる



事実少女にとって大事な一発を

後ろの大事な人を護るために……

大事な兄姉を逃がすために……

消費させれられていた




少女は走り去る姿を確認して小さく呟く


「最後の一発も撃っちゃったなぁ……」



呆然と竜を見据え




竜の完全回復を待つ……




待つしか出来無い……



1分後。竜は変わらぬ姿を取り戻す


『人間がそこ迄の力を、つけていようとハ

……最早神の手札などいらヌ

全てを破壊してくれヨウ!!』





竜は巨大な翼をはためかせ

大空へと舞い上がる



そして口を大きく開き

今度こそ。

全てを呑み込む一撃を放つ準備を整える



キィ……ィィン


竜の口に辺り一帯の力が集まる

自身の全ての力までも集め


それは文字通り……砲口と化す




   (ドラゴン)息吹(ブレス)


竜が頂点に君臨する最大の理由

一撃で全てを破壊し


世界にすらダメージを負わせる

竜だけに許された特別な一撃


このサイズの一撃ならば、島ごと飲み込んでも

何ら不思議では無い



しかし、龍種が龍の息吹を使う事はまず無い



それは格下に全力を出した事に他ならず

竜にとっての最大の屈辱。敗北も同義


人間は未だ龍種の底すらも知らずに

撃退だ。討伐だ。などと(のたま)っている



愚かで健気な種族




その愚かな種族の頂点(しょうじょ)

今 正に、竜が全力を出すまで追い詰めたのだ



『誇って良いゾ。人の頂点ヨ』



ジェシカは、その絶望の光景を()の当たりに



「あんた……バカなんじゃないの?」


強がりにしか聞こえない言葉を吐き

殻となった金属を諦めたように 

力を抜き、だらりと下げる



次回投稿は4月3日になります。

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