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異世界無能者の観測記録  作者: ホムポム
第8章
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常闇の森


「この森なの?」


ジェシカは森を指差し、ドグマに再度確認する

男は頷きながら


「私が前に来た時は生物は未確認でした。

何処で竜の爪を発見したかは

解りかねますが、少なくともこの近辺かと……」



「ふーん。よくこんな陰鬱な森に

入ろうと思ったわね。何考えてたのかしら?」



ジェシカの言うとおり、森の外から見ても

明らかに中は暗い。日が届かない、常闇の森

その森に、躊躇も無く少女は足を踏み入れた



「暗いわねぇ。お兄ちゃん灯りとかないの?」


「……持ってきてないな。まだ昼前なのに

中がこんなに暗いとは思わなくてさ」



俺は1人の時は洞窟だろうが松明などは持たない

決して、夜目が効くとかでは無く、

必要ないからだ。何故なら……



「……喚ばないの?」




……ジェシカは知っている

魔物を喚べる事。それが大変では無いと事も



「……喚んでも良いけど、

他には誰にも言わないでほしい」




少女は笑いながら


「解ってるわよ。リルムから聞いてるわ

あたしの家に居る人達は知ってるけど

誰にも他言しないように言ってあるから」



俺は頷き親指の付け根を軽くさする。


出てきてくれ。

念じるだけで事を成す


魔物を喚ぶデメリットは無い



俺の手のひらに直径5センチ程の

歪な火を纏った魔物


魔物を松明変わりに奥へと進む



ドグマさんが前を歩き

俺が魔物を手に続き、後ろに

ミカとジェシカが手を繋ぎながら歩いている


竜の爪とやらを探しに……

竜……竜といえば



「そういえば俺、詳細を知らないんですが

竜撃退って何だか凄いみたいじゃないですか?」



ここ最近、街はその話題で、持ち切りだった





陰鬱な森だが、生物の気配は無くつい気が緩む

ドグマさんの隣に並び、

その日の詳細を知ろうとした



ドグマさんは苦笑しつつも

「あの大きさの龍種を、本当に撃退したのなら

人類初の快挙だが、あれは撃退などとは呼べんよ



睨み合って膠着状態……東の空が割れたと思ったら

そちらへ飛び去って行ったからな。

一撃も当ててはいないし、(ドラゴン)も何もしていない

手柄にはなるが、そんな物。私は受け取れんな」



「勿体なくないですか?せっかくなら貰った方が」



「イシノギ殿は貰うか?真実を知る者は少ないが

リビングデッドを殲滅したのは君だろう?

……一緒だ。私もあまり目立ちたくはない」





東側に、元いた怪物の群れ

何者かによって討伐……詳細不明


一角獣……ミカにより単独討伐


リビングデッド……魔物の気まぐれにより解決

これは良い。


竜撃退……ドグマさんは手柄を放棄した



何か……


「前にバネッサが言ってたんですが

色々揉めてるから、報奨金が遅れるとか……」



違和感を上手く言葉に出来ない

揉める要素があるのか?



その言葉にドグマさんは深く考えだす




今更だがこの人、本当に足音も無く歩くな


ヴァネッサの師匠って言ってたけど

足音を消す事は基本の行動なのか?



「恐らくだが……」


ドグマさんがゆっくりと語りだす

歩行速度は一定……違う


後ろの女性二人との距離を決して

一定以上離さない


「怪物進行、阻止の指揮。竜撃退などで

あまりにも大き過ぎる手柄になった

それを出来るだけ

占めようとしたのではないかな?


……名誉を独占したかったと思う」




「名誉……ですか?

それって役にたったりするんですか?」


何の特があるのだろうか?

デメリットは無さそうだが

別になくても問題無さそうな



俺は枯れ木をペキペキと

へし折りながら男の話しに、夢中になる



彼女(ヴァネッサ)は元貴族だからな。かなり位の高い……

昔の地位を、なんとか取り戻したいんだろう

……これ以上は本人から聞いてくれ」



ドグマさんは悲しげな表情で

森奥の暗闇を見据えた



ヴァネッサが貴族……?

貴族って何だ?王様の次に偉い人とかか?


領主みたいなものか?全く解らない

この事を聞いたら呆れられそうだ



…………



…………



そういえば後ろが静かだな?

最初こそ楽しく話していた筈なのに

いつの間にか無言になっている



ジェシカは下を見ながら歩いていた。

その足取りは疲れでは無く

何か、焦りのような



ミカもそれに気付いている

何かタイミングを待っているのか……


俺が声をかけようと近づくと




「ゴメ〜ン。私ちょっと疲れちゃったから

休憩してもいい?」


そう言ってジェシカの手を離し

その場で足を止めた



「そ……そうね。ここで休憩しましょ。

急いでる訳でも無いんだし」


ジェシカはホッとしたような、

まだ気を抜いていないような



ドグマさんも俺達に近付いてくる



「あ……あたし。向こうを

ちょっとだけ見てくるから。1人で大丈夫だから」


「いや、大丈夫じゃないだろ?

心配だから、俺も行くよ」


「…………うぅ……」



ジェシカは何故か恥ずかしそうに

モジモジしながら、こちらを睨む。



「クヌギ君。すぐそこって言ってるし

1人でも大丈夫だよ〜」



ミカの1言は凄い違和感のある言葉だった


怪物に襲われているかも知れないと

知った時ミカは必死に探していた


それを今、生物の気配が無いからと言って

暗い森で1人にしようとしている



「やっぱり1人には出来ないよ

ミカ。一体どうしたんだ。

ジェシカと、何かケンカでもしたのか?」




これは長引きそうだ。

そう思ったのは少女だった



「もぅ……」

小さく呟くと少女は指を上空にかざし


「……限界」




バァァン!!


強烈な閃光と共に

乾いた音が森の中を駆け巡る



暗闇の中での強烈な光。

眩しくて瞼は閉じる事を余儀なくされる



光が消え元の暗闇の森に戻った時には…



ジェシカだけが居なかった



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