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異世界無能者の観測記録  作者: ホムポム
第8章
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楽園への足がかり

「……後は結構遠くにしかないみたいだね〜」

地図を見ながらミカが言う



クヌギ.イシノギとミカ.レミナス。

2人は街から外れた道を並んで歩いている



「俺はこっちの方が本命だけどね」


「実は私も〜!便利なんだけど

街はゴチャゴチャしてて、住みづらいのがね〜」





2人で笑いながら、きれいな外道を歩く



俺とミカは臨時だが、中級に上がった


期間限定だが余程ミスが重ならないと

初級には落ちないらしく


そのまま中級に上がる事が多いそうだ





今は中級者の恩恵の1つに(あやか)ろうとしている


「俺はひっそりとした所が良いなぁ

1日だけだったけど、ミカのお爺さんの離れとか

凄い好きだったし」



「おじいちゃんの家から通う?」


「まさか?往復で1日が終わるよ」




その1つが家だ



中級1人につき1軒。家と土地が貸し与えられる


そうして、中級者を街から出さないように縛る訳だ

何も恩恵が無いのでは仕事がありそうな

別の町へ移動してしまい、中級者が居なくなってしまう


それを防ぐために近辺に住んでもらう



無料で……



2人は街道から森へと足を踏み入れる


道らしい道は無くなり獣道に近づく


木漏れ日が気持ちよく

葉音が奏でる音楽に癒やされながら

歩き続ける



「本当にこんな所にあるのかな〜?」

ミカが地図を見ながら呟く



森に入って30分。それは確かにあった




「うわ〜……」

ミカの驚きの声。俺も声こそ出さないが驚いている



ボ……ボロい。大丈夫なのか?


1軒家が建ててある 離れに小さな小屋



「中を見ようか?俺はこっちの小屋から観るから」

「せっかくだし、一緒に観よ!」



……まぁ、時間に追われている訳ではないので

いいんだけど



ギ……キィ……と音をたて木製の扉を開こうと



ん?


思った以上に音は無く、扉はすんなりと開いた





外装とは裏腹に中は意外とキレイだ

木が傷んでいない



それに結構広い。

1人で住むのでそこまで広さは要らないが

それでも広いに越した事はないだろう



日当たりもよく、この場所は誰か手入れをしていたのか

と、思わせるほど……


いや、手入れされている。

つい最近まで……


テーブルや椅子があるが僅かに

ホコリを被っている程度




何よりこの場所は…………





「「俺 この場所にするよ」」

  私     決めた〜



声は同時……どうするか

しかし、この場所は譲りたく無い……




「ん〜被っちゃったね。どうする?

一緒に住んじゃう?」



ミカはアッサリと解決案を出す


「2人で住むのは不味くないか?」


「今まで一緒に住んでたじゃん。

ヴァネッサちゃんが居ないだけだから、変わらないよ」


「あ……」



「…………」



今まで必要以上に避けてきた、ヴァネッサの話題


彼女はあの後家に戻らず

何処へ行っていたのか解らなかった


次の日に戻って来たが


「私は竜撃退を、大陸へ報告しなければいけない

2人は中級なんだから、家を探して住んだ方が良い。」



そう言って、別れの挨拶も無いまま彼女は姿を消した

それ以来何となくヴァネッサの話題は避けていた




「あっ!」

話題を逸らそうとしたのかミカは外に飛び出て


「おいでおいで〜。怖くないよ〜」

浮遊した物体を、手招きしながら呼んでいる




…………何で出て来る!?



俺はそれを睨みつけた


するとその物体は薄くなり……その場から姿を消した



……魔物だ。俺が呼んだ以外で初めて見たが

常に形を変え続ける浮遊物体

確かに可愛い物では無い……



この場所は視えないだけで魔物が多い

感覚で解る。だから俺はこの場所を選んだ



「あ〜あ〜消えちゃった。久しぶりに視たのに」

ミカがトボトボと帰ってくる



そういえば


「ミカは魔物が怖くないのか?討伐とか?」


「…………クヌギ君はどうなの?」


質問を返された……この件に関しては嘘はつきたくない



「俺は魔物を悪だとは思っていない

絶対に討伐しないし。させない。見過ごさない」


ハッキリと俺の意思を伝える



ミカは小さな、子供用の椅子のホコリを軽く払い、

チョコんと腰をかけ



「……秘密にしてほしいんだけど

私の村には魔物がいるの……何体も……


でも魔物が悪さしてる所は誰も見た事なくて

それどころか、

村を怪物から護ってくれてるらしいんだよ


だから私は村から出るまで、怪物を見た事無かった」



ミカは顔を伏せながら、ゆっくりと喋る



「だからクヌギ君が魔物を悪じゃないって

言ってくれて嬉しかった


魔物が住んでるんなら、私は此処に住みたい」




俺の目を見つめて、ミカは俺に打ち明けてくれた



だったら俺も打ち明けるしかない

ミカは俺を信じてくれた。俺もミカを信じよう



「ミカ……外に出よう」


俺とミカは外の景色を眺める



「……どうしたの?」



「……さっきはスマナイ。出てきてくれ!」



ミカがキョトンとした顔で俺を見る

何を突然謝っているのか?といった顔で



すると先程姿を消した魔物が一体

姿を現す。更に別の魔物……次々と



「お……うわ〜!凄い……クヌギ君が呼んだの?」


ミカは目を輝かせ、その光景を見つめている



「俺は……人間だけど 

魔物の味方なんだ……これが俺の正体だ」



「クヌギ君。記憶が戻ったって事?」



「全部じゃなくて、少しだけど思い出した。

……俺はその為に此処に居る……人間として」



もう一つ目的があるが、何も手掛かりが無い



私が気にかけた少女

名前を聞いた気がする。聞いて、いないかも知れない


あの少女がこの世界に居るのかすら解らない

ただ……必ず迎えに行くと私が言ったんだ


俺がしなくてはいけない。


でも今は




「ミカ……俺と一緒に住もう」




ミカはフフフと笑いつつ


「なんかプロポーズみたいだよ〜」


「そ そうかな?何も考えて無かったよ」


俺が別の言い方を考えていると



「ふつつか者ですが、宜しくお願いします」



俺はミカと2人で住む事になった

……沢山の優しい魔物と

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