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異世界無能者の観測記録  作者: ホムポム
第7章
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ショーダウン

キンッと金属音を奏で

短剣を鞘に納め懐へとしまう



皆何が起こったのか解っていない

呆然と、漫然とその光景を目にしていただけ



当たり前だ。本人も解らないのだから

但し……何が起こるのかは分かる



「イシノギの兄ちゃん……何をやった?

……いや、言わなくていい。何が起きる?」



俺が力を隠そうとしているのを

配慮しての言葉



「多分ですけど…………」



自分で何が起こるか説明して理解した

あまり使えない代物だと。


しかし



「へへへ……面白えじゃねぇか!

役は十二分に揃ってやがる。イケるぜ!」


クーガーさんは俺の肩をバシバシ叩き、ご満悦だ



「おお!?折角だ!

ドグマのオッサンも勝馬に乗っとけよ

何か兄ちゃんにアドバイスは、ねぇのかい?」




ドグマさんは腕を組み考えつつ


「……2つだけ。確かな事がある

ヴァネッサは……君に使うぞ


……私が言えるのはそれだけだ。

一応審判を務めるのでこれ以上は不公平になるのでな」




ドグマさんはリングに戻る


「何だよ?あのオッサン。

結局何も言ってねぇじゃねぇか」



クーガーさんが悪態をつくも


「多分……いや間違い無く、

バネッサは消える攻撃を使ってくると

ドグマさんは教えてくれました


俺がその技を止めます。それを合図にしたいです。

もう一つは解りませんが……」



「貴方……が…勝つ……それ…が…確かな……事」

リルムの強気な予想。その強気に



「違いねぇ……

残すは対決(ショーダウン)だけだ!」






俺とミカ、クーガーさんは並んで

残りの試験を観戦している。


「こりゃ兄ちゃんの言ったとおり、勝つべきだな」


「どう言う事ですか?」


「ヴァネッサは過去の実績で

判断しているフシがある。


最悪兄ちゃんが1本とったぐらいじゃ

素直に合格を許すとは思えねぇ」



言われて見ればそうかも知れない


前の審議の初級の人も合格

今回の人も合格していた。俺の方がまだやれると思うが……



「ヴァネッサは兄ちゃん相手に

手加減しねぇかも知れねぇ……

最初からそのつもりで望んだ方が良い」



「……解りました」


「クヌギ君……危なくなったら

みんなの事は気にせずに、ギブアップしてね」



ミカは心配してくれている

俺は分不相応に無茶ばかりしてきた経験がある


「……大丈夫」




ドグマさんの声が響く

「クヌギ.イシノギ!君の番だ。上がれ」



その声に従いリング中央へ


ヴァネッサからは湯気……

闘志が目に見える程に湧き上がっている



「クヌギ……見極めてやる」

ヴァネッサは長さ1.5メートルの鉄棍を構える



「……宜しくお願いします」

俺は頭を下げ1メートル程の木の杖




「クヌギ.イシノギ!臨時中級試験始め!」



声と同時……ヴァネッサが俺の懐に飛び込み

胴への薙ぎ払いを仕掛ける



速い!……躱せない!!


俺は木杖を盾に鉄棍を防ごうと、試みるが



バギィッ!



杖は砕け、棍の勢いは殺したものの

「ーーーっが!!」



右腕に、相殺しきれなかった棍が当たり

同時に腹部に激痛……


場外まで蹴り飛ばされていた




「ガハッ……ガフッ……」



「場外!カウントを開始する

30カウントで終了とする」



ドグマさんがカウントを開始する……

急いで戻らなくては



「兄ちゃん!まずは怪我の確認だ

ゆっくり呼吸を整えろ!25ぐらいで上がれば問題ねぇ」



そうか……今上がっても何も出来無いのがオチだ



「フゥーーー」大きく息を吐き


「スゥーーー」全ての酸素を取り込む




杖は砕かれた。

短剣を懐から出す。右腕が痛い。



腹部の蹴り……見えていた。


タイミングは完全には程遠いが殺している。

今はそれ程痛みは無い。呼吸にも影響は無かった


風神が助けてくれたのか、少し後ろに跳ねただけで

俺の致命傷を回避してくれた



ヴァネッサを睨みながら、リングを周るように


飛ばされた反対側へと着く



ヴァネッサはこちらを見ない


「師匠……審判。確認しておきますが

彼がリングに上がった瞬間が開始ですよね?」


「22……そうだ」


「クヌギ!言っておくが、そちらは見ないぞ

上がった気配があれば容赦はせん」



バレてるのか……

俺の後ろ……観客席にはリルムが居る


合図を待っているリルムが……



しかしこの場所以外は、俺も術にかかる危険がある

ここでやるしか無い



俺はクーガーさんに目で合図をする

彼は頷いてくれた



ミカと目があった。

彼女は目で励ましてくれている



「フゥーー……良し!」

短剣を鞘から抜きつつ、リングに上がった瞬間



彼女はその場で小さく跳ね

「確かめてやる……この技で」


地に足をつけたと思った瞬間

 消えた



それは実際した英雄の称号を付けられた技



  戦鬼躬縫慈斬り



やはり……誰かの苛立ちを感じた……




関係無い。そんな事は関係無い



俺はもう……短剣の鞘を捨てている



そう……関係など無い

どれだけその技は速い?


 

人間の限界のスピードか?

(ある)いはそれすらも超えた(はや)さか?





それでも……この短剣から放たれるものより

速い事など有り得ない





光……いや、何か が空よりも高く天を穿(つらぬ)

それだけだった



……唖然 俺はその光景を唖然として見ている



この試験を見ている者も……空を見上げ



ミカも見ている。合図を出す筈のクーガーさん

審判であるドグマさん


相手であるヴァネッサも脚を止め、その光景を……






故に





この瞬間……この光景よりも使命を護った

彼女は誰よりも強かった



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