奇跡と経験
「癒しの女神様
この人の足の傷を治してあげてください」
ミカは目を瞑り
俺に向けた両手のうちの片方を上空に向け
「あと他にもケガしてたら そこもお願いします〜」
何を言っているのかと思っていると
彼女の体が輝きはじめ、暗くなった森に拡がる光
しかし決して眩しくなく、暖かな輝き
その光が彼女から離れ
俺に移り ケガをした足に集まった
光を呆然として眺めていると
だんだんと小さくなりやがて消えていった
「ハイ 終わり!もう歩いても大丈夫だよー」
ミカはスッと立ち上がり
「女神様ありがとうございました
貴女のおかげで、私はとっても助かりました」
と空に向かって、祈るような仕草で語りかけていた
「ミカの神術は久しぶりにみたが、凄いな
あそこまで早く治癒できるとは」
ヴァネッサが驚いた表情で言う
神術? はじめて聞く言葉だが
確かに10秒もかからずにズタズタだった足のゲガが
元通りになっている 奇跡のような10秒だった
「んっふっふー 凄いでしょー」
と上機嫌になり
「でも私もびっくりしてるよ
普通あんなケガしてたら、こんなに早くは治らないよ
多分女神様の機嫌が ものすごく良かったんだね〜」
ミカはエッヘンと ポーズをして
「治療も終わったし
ヴァネッサちゃんはちゃんと彼に謝る!
あんな事言い出さなきゃ、彼はケガしてないんだから」
と 訳のわからないことを言い
「え……どう言うこと?」当然の疑問を口にした
ヴァネッサが狼に不意打ちをかけられたことかと
思案していると
「本当にすまなかった
どうしても戦闘経験があるのか確認したくて……
もしある程度戦えたなら
冒険者の可能性も高くなるので
斡旋所に行けば行方不明者リストに
君がいるかもしれないと思い……」
ヴァネッサは頭を下げながら口籠る
ミカは黙って聞いている
「記憶が無くても
緊急時なら身体が覚えてると思い
狼が離れて1匹いるのをチャンスと思ってしまって……
保険としてミカには君を護れるような
神術をかけてもらっていたんだが……」
ヴァネッサは頭を下げながら ちらりとミカをみる
「硬化をかけてたけど 余裕で貫通してたね
途中でヴァネッサちゃん邪魔するから
しっかりと神様にお願いできなかったし
術をかけた 場所も彼から離れてたから」
ミカは俺に申し訳なさそうに言った
「ミカは反対していたんだ
私が指示した……君を試したのは私一人だ」
ヴァネッサが間髪入れずに言う
あの時ミカが
暗闇から語りかけていた時 だろうか……
もしかして狼に噛まれたときに痛みが
それほどなかったのも ミカのおかげなのか
何より1番気になるのは
「バネッサも狼に襲われ て大変だったんだろ?
そっちは大丈夫だったのか?」
ヴァネッサの心配をすると 彼女は頭を下げたまま
「あれは……演技だ 狼の位置と数は把握できていた
この暗がりだろうが遅れを取る事はない」
彼女の告白に続き
「ちなみに私が突き飛ばされて 倒れてたのも……
演技……です ゴメンね」
ミカはヴァネッサとは対象的に
片目を閉じウィンクして俺に謝った
「じゃあ二人ともケガもなく
無事だったのか……良かった」
俺は息を吐き 笑いながら胸を撫で下ろした
その言葉を聞き
彼女達は暫く固まりヴァネッサが
「怒らないのか?私はお前を試したんだぞ?
命の危険が あったかもしれないというのに」
俺に詰め寄る
「俺のことを 思ってしてくれたんだろ?
感謝こそしても 怒るなんてありえないよ」
そう 俺が狼に向って行った勇気が
無駄だったとしても
立ち迎える人間なんだ とわかっただけで……
何より彼女達が無事 という結果だけで十分だ
「そうか………そう言ってくれると、私も救われる」
ヴァネッサは頭を上げる 表情は明るい
「それと……もうわかってると思うが 一応言っておく」
彼女はひと呼吸置いたあと
「君は冒険者ではない。少なくても
戦闘経験ということに縛れば、ゼロに近い」
彼女は自分のアテが外れたことを
残念そうに俺に通告した