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異世界無能者の観測記録  作者: ホムポム
第7章
68/123

手札

クーガー.エヴァンスが激しい連続突きを繰り出す

それを紙一重で躱すことしか出来ないクヌギ




良し!


タイミングは慣れさせた筈だ

これ以上速ければ、兄ちゃんは回避出来ねぇだろうし


遅ければ反撃してくる


このタイミングで少しずつ……焦るな

チャンスは一度だ


危険だが、イシノギの兄ちゃんを信じるしかねぇ



ジリジリとクーガーの攻撃により

中央からリング端へと移動させられている


逃げ場を無くされている



結構 (あった)まってきたな

手に汗の感触が伝わる



クーガーは後ろを確認せずに

感覚だけである人物の挙動を捉える



真後ろ……完璧か?

ドグマのオッサンからは、丸見えなのが気に食わねぇが

これ以上はイシノギの兄ちゃんが持たねぇ




  ここで決める!



「終わりだ!!」

渾身の突きをクヌギの頭 目掛けて放つ



ズリッ



汗ばんだ故か、狙いの速度、目標にはまるで違う場所へ

その失敗……そのチャンス



彼は見逃さない



最小限の動きで鉄棍を躱し

クーガーの心臓目掛けて、自身の最速を叩きつける



肘下を木杖が通過していく

まだ最高速には届かない


…………



男の服に触れる木杖

最高速に達した一撃は肉を抉る牙と化す



…………



男の皮膚を突き破り肉を

「これで……どうだ!!」





クーガーが弾き飛ばされる

クヌギは男から目を切らないまま、呼吸を整えている



リング中央で膝をついたクーガーは手を向け

「参った……オレとした事が……トジっちまったぜ」



舌打ちをし、苛立ちながら

「ヴァネッサ。肋をヤラれた

上手く呼吸が出来ねぇ……イシノギの兄ちゃんの勝ちだ」



ヴァネッサは二人を交互に見渡し


「……勝者クヌギ.イシノギ」



オオーーー


少ないながら拍手と歓声に包まれる場内


彼の元に駆けつける者もいる



「ヤラれたぜ。さすがはお嬢様の兄ちゃんだ」


クーガーは握手を求め

「え……ええ。ありがとうございました」

違和感を覚えつつも、クヌギもそれに応える



本人にはバレるか……

しかし、確かに当たっていたんだ


ギリギリ……これ以上は深手を負う

その刹那 攻撃を躱す


貰ってやっても良いが

ヴァネッサと、オッサンにバレかねねぇし


何よりこの兄ちゃん……

急所しか狙って来ねぇんだ

避けるしかない


今回は心臓だったから良かったが

首を狙われて

あんな真似したら出血多量で死ぬかもしれん



「…………」



ヴァネッサはいい感じに疑ってるな

オレが折れてると言えば、折れてるんだよ!





そして……ここからがオレの対決




リルムが不安な顔で近づいてくる

「クーガ……大…丈夫?」


クソッ!女神に心配かけちまった!


なんて幸せ者なんだよ?オレは!



立ち上がり何とも無いように打たれたヶ所を

大袈裟にドン!ドン!と叩きつつ

「心配要らねぇよ。カスっただけだ!

ホレ!この通り」




その場で跳ね、まるでダメージが無い事を

リルムだけでなく、周りに伝える



リルムは安心したようにコクリと頷く


もう二度と女神を不安にはさせねぇからな



「…………」



疑ってるな。ヴァネッサ……いいぞ




リルムの手を取り……おっと

女神に触れたらオレは幸福で死んでしまう


そう……また顔を見れるだけで……

彼女に声をかける事が出来るだけで……

たまに声をかけてくれるだけで、オレは幸せだ



「リルム。帰ろう!オレは肋が折れてるから

後は3人で何とかしてくれや!」



「まて!クーガー.エヴァンス

お前……本当に怪我しているのか?」


ヴァネッサの疑心が、ついに声となった



    釣れた



「何言ってんだ?お前?

オレに恥かかせてぇのか!?

不満ならお前か、ドグマのオッサンと

戦わせりゃ良いだろ!」




クーガーは内心ほくそ笑む


ククク

知ってるぜ……オッサンに限り

お嬢様にキツく言われてたよな


『二度と危険な目に合わせるな』と



ドグマのオッサンには無様に負けてもらう

オレの八百長が霞む程に

オレの様に器用な真似は出来ねぇだろ?



そしてヴァネッサ!お前は

イシノギの兄ちゃんと住んでるな?


ミカとか言うお嬢ちゃんは古い付き合いだから

戦闘拒否してイシノギの兄ちゃんは良いのか?



部の悪い賭けでは無い

8割強、オッサンと兄ちゃんが戦う


そして少しでも手を出そうものなら……


   

ドグマに厳しい視線を投げる



   『オレはチクるぜ』



何なら今から連れて来て……それは無理か


さぁ!どう出るよ?



ヴァネッサはドグマを見つつ

「先程は少し怪しい所が見えました

師しょ……ドグマさんさえ良ければ」



ドグマは腕を組みつつ


「私は先日、彼とは戦っている。彼の力も認めている

もう一度戦う気は無い……それに


……正直……死にたくは無い」

 



逃げやがったコイツ!



「オマッ!?オマエ逃げんのかよ!

試験官なんだから真面目にやれよ!」


逃さねぇ……オレのように真面目に八百長(やって)

オレ以上に無様に負けろ




ドグマがクーガーに近づき


「ミカ.レミナス殿の手のひら……

今の私には怪我には見えんが

イシノギ殿と戦えば気が変わるやも知れん」



このオッサン……オレを脅す気か!?

卑怯すぎるだろ!



クーガー.エヴァンスも

舐められたものだぜ……上等だ



ドグマの肩を掴み

「良し……それで手を打とう」



しょうがねぇ……

女神の機嫌が治っただけで良しとして

心配して貰った分を+と考えるか



「そーゆー訳だヴァネッサ!オレとオッサンは認めた。

イシノギの兄ちゃんも中級でいいだろ?」



ヴァネッサは呆れつつも

「解った。私が戦おう。直に見てやる

疲れもあるから、クヌギは他の初級全員終わった後に

私ともう一戦だ」




何だかんだ

イシノギの兄ちゃんが割を食っちまったな

申し訳無い事をしたぜ



しかし彼は

「俺もそうしたいと思う

バネッサに認めさせれば良いんだろ?」


闘志をもってそれに応える




この兄ちゃん……熱いじゃねぇか!

目が良い!燃えてやがる



男は嫌いだが

この兄ちゃん……お嬢様とは関係無く

応援してやりてぇ




「良し兄ちゃん!こっち来い!作戦会議だ」



「え……でも俺は……」


「ヴァネッサは解ってねぇんだよ?まるでな。

これは一対一なんかじゃねぇ!


どれだけ仲間を集められるか、だ」



そう……この試験は直接攻撃以外の

支援が認められている


使える(すべ)は全て使う



「イシノギの兄ちゃん……

皆で倒そうぜ。ヴァネッサ.ラウをよ」


クーガーはもう一度握手を求める

「宜しくお願いします。クーガーさん」


彼も、もう一度握り返す




彼の手は燃えるように熱く

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