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異世界無能者の観測記録  作者: ホムポム
第7章
67/123

女神の蔑み

その女性は滅多に笑わなかった

その女性は滅多に喋らなかった


ハッキリとした言葉は誰も聞いた事は無い



それでも良かった。顔を見れるだけで

声を、かけることが出来るだけで……


彼女はいつも頷くだけだが、オレは彼女を見ると

無限に力が湧いてきた




その女神がオレを観ている

最初は確かに、微笑んでくれていた筈だ


それなのに今は……

蔑すんだ瞳で……オレを…………



クーガー.エヴァンスは場所を移動する

端から端へ……やはり、オレを観ている



「ヴァネッサ……タイムだ」

男は静かに休止を申し出る



「またか!?次で決めると言ってたろう?

直ぐに終わらせれば、いいでは無いか」



ヴァネッサの言う事は最もだ。

しかし今、イシノギの兄ちゃんを倒したら……



オレの第六感……が警告を出す

『取り返しがつかない』と



「ヴァネッサ……オレは依頼をすっ飛ばして此処に

来てんだ。仲間が緊急ってんで頼むわ」



ヴァネッサに頭を下げ頼み込む

勿論嘘だが、関係ない

真面目に頼めばヴァネッサはノーとは言わんだろう……



「クヌギ。どうする?君が決めて良い」


クヌギは、クーガーを見据えて頷く



ヴァネッサがため息をつき

「あまり長くなるなよ……」




許可が出た


「スマねぇ!イシノギの兄ちゃんは休んでろ!」



助走をつけて一息で女神の元へと跳躍する

50メートルの距離をひと飛び


女神の前に降り立つ



聞かねばなるまい

何故その蔑んだ瞳をオレに向けるのか……



平静を装いつつ、女神に喋りかける

「リ リルム何で此処に?

オ オレの勇姿を、見に来てくれたのか?」


本当に聞きたい事は言えなかった




蔑んだ瞳のまま、リルムは首を横に振る


解らねぇ。伝わらねぇ。喋ってくれ



それを察してくれて、リルムがおずおずと口を開く

「何…で……彼を…虐めて…るの?」



あぁ……久しぶりに声を聴けた

なんて美しい声だ


それより彼?イシノギの兄ちゃんの事か?

そんな理由か!それなら大丈夫だ



「朝も言っただろ?今日は試験なんだ。

イシノギの兄ちゃんが受験者。オレは試験官

オレだって好きでやってる訳じゃ……」



「お嬢様……に…言い……つける」


「待ってくれ!言いつけても構わねぇが

別に怪我させる気はねぇ!

お嬢様だって解ってくれる!


これは仕事なんだ。金を得る為に必要なんだよ!」




仕事 金を得る為


その言葉にリルムは黙り込む



卑怯な気もするが、伝家の宝刀を抜かせてもらう

屋敷には現在11……最近ユウゴって奴が入ったから12か




そのうち働いていないのは3人


お嬢様……まぁ働く必要は無い

オレ達が好きこのんで側に居るんだ

まだ幼いし、口が裂けても働けなど言えない



次にシグの婆さん

あの人は働くなんて年じゃねぇ

何歳か解らんが、前に

200は越えてるとか抜かしやがった

嘘かもしれんが……有り得そうなのが怖い

稼いではいないが、屋敷全般を取り仕切っている



最後はリルム

お嬢様の客人って事になっているからか

少なくとも、金を稼いだ姿は見た事無い。

本人も、それを負い目に感じている


それでも、彼女にしか出来ない事があるので

誰一人文句は言わない。むしろ皆感謝している

本人だけが、その事に気付いてない




「なっ!リルム。解ってくれるか?

もう一回言う。絶対怪我させねぇ!

オレは優しいんだ」


彼女の瞳を真っ直ぐ見る

その瞳……クラクラするぜ



リルムは頬をプクーと膨らませ

「シグ……に…お願い…する…」



シグ婆さんか……リルムには甘すぎるからな

前に、オレが鍵を無くした事があったけど

随分殴られたものだ


リルムは何度無くそうが、許している


しかしだ



「なぁリルム……流石にシグ婆さんは

動いてくれねぇだろ?」


リルム本人も解っている筈だ

あの婆さんはオレ達の外での行動に興味を持ってねぇ


屋敷内のルールだけを徹底させている



仮にイシノギの兄ちゃんに大怪我を負わそうと

婆さんはノータッチの筈だ

お嬢様には殺されるが……



リルムはそっぽを向き

「わか…った……もう…いい」



伝わったか!?良かった

「解ってくれて良かったぜ!

直ぐに終わらせる……か……ら」



心臓が警報を鳴らす。細胞全てが警鐘を奏でる

『お前の生きる希望が無くなるぞ』



わかった!?リルムは何を解ったんだ?

オレが兄ちゃんを、怪我させない事を解ったのか?

誰も動いてくれない事か……?

もういい とは一体何が……



確認しなければいけない……


呼吸が乱れている。ドグマのオッサンと

組手やってても、ここまでは乱れねぇ。これは恐怖だ



「リ リルム何が解ったんだ

良ければオレに教えてくれ……」

出来る限り優しく、リルムに聞く



リルムはクーガーを見ない。眼を閉じたまま

「もう……私…は…貴方……とは…目も……合わさ…ない

視界……にも…入らな…いで


…………貴方に喋るのはこれが最後……」




リルムと出会って初めて……初めて聞けた

ハッキリと聞けた言葉が


いつか……聞きたいと思っていた、願っていた

それが『貴方に喋るのはこれが最後』……


…………



クーガーは肩を落としリングへ戻る

ゆっくりと、時間をかけて




ヴァネッサの声が響く

「終わったのなら早く戻れ!

それとも非常事態だったか!?」



うるせぇ!生死に関わる事態だよ




オレはこの冒険者という名の

何でも屋な職業に、誇りをもっている



脳ミソをフル回転させろ!今がオレの正念場だ



誇りか、女神か……

仕事か、女か……



そんな無駄な事は考えるな!

決まっている!



問題は女神の機嫌を治し

如何にオレのダメージを最小限に抑えるか……だ



英雄になれクーガー.エヴァンス!

ここを勝ち抜いて英雄になってみせろ!!


自身で檄を入れる。失敗は許されない


…………


…………良し!



手札は用意した!





     オレは勝つ





「待たせたな。イシノギの兄ちゃん

早速だが……終わらせてもらうぜ!」






クーガー.エヴァンスは道化師(ピエロ)となる



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