推薦枠
俺とミカ2人で、闘技場に入る
1万人は入りそうな会場は、冒険者達が十数名
客……暇な町人達がまばらに座っている
中に入ると直ぐに
俺達に近寄って来る人がいた。ヴァネッサだ
怒っているのか……
「クヌギ……今回は見送った方が良い
君は、まだ力を付けている途中なんだ」
そんな訳にはいかない。イーディスさんは
俺を認めてくれた。それを無駄に出来ない
「やれるだけ、やってみるよ」
ヴァネッサはため息をつき
「ケガはするなよ。流石に手加減されると思うが」
「…………」
俺は無言でヴァネッサに背を向ける
ケガしないで中級に上がれるなら、しないさ。
リングに俺とミカを含めた初級が8人
向かいにヴァネッサを含めた4人が立っている
リングの外に中級や今回受けられなかった初級の面々
ドグマさんに、斡旋所 所長、もう1人は知らないな
俺より年上だ。20前半……イーディスさんぐらいか?
ヴァネッサが声をあげる
「ルールは聞いているな!実力を見るものだから
勝つ必要までは無いが、負ければ当然評価は下がる
武器は何でも有り!ケガさせても構わん
支援は、直接攻撃のみを禁止とする」
支援
中級者に上がる為の特別ルール
試合開始前に術などで強化が認められている
1人では敵わないのは当然なのだから
仲間にどれだけ信頼されているか
戦うのは1人だが、同じ仲間の期待を背負った人達だ
術士と仲の良い人は、それだけで有利になる訳だ
俺はミカの力を借りる気は無い
ミカも出るのだ。余計な負担は強いられない
ヴァネッサは続ける
「ダウンは20カウント!場外は30カウントで終了
試験官は、私……ヴァネッサ.ラウ
ドグマ.マグナス クーガー.エヴァンスが
担当する。早速始めよう」
その言葉にミカが一番に手をあげる
「威勢の良いお嬢ちゃんだ。オレがやってやる」
クーガー.エヴァンスが長い棍を従えミカの前に立つ
「やりたいんなら譲るが、どうだ?」
他の試験官に問いかけるが
「私は彼女とは古い付き合いだ。辞めておく」
ヴァネッサが断り
「私もだ……この娘には手を出せんよ」
ドグマさんも断わる
「ドグマのオッサンは意外だなー
そんな優しかったか?アンタ?まぁいい
結局オレだ。宜しくな、お嬢ちゃん」
「……宜しくお願いします」
ミカが挨拶すると
「素手……術士か……
このルールは不利だとか文句言っても良いんだぜ」
確かにそうだ。ミカは近接戦闘は見た事無い
神に祈るのに多少の時間を割かれる
それを見過ごされるか、どうか……
「…………」
ミカは無言で男を見据える
「覚悟の上って訳かい……
ヴァネッサ……始めな」
男が構え、二人の呼吸があった瞬間
「ミカ、レミナス!臨時中級試験……始め!」
ヴァネッサの声が響く
ミカが大きく距離をとる
男は手を突き出し、考え事をしている
「……お嬢ちゃん。ちょっとタンマだ」
「…………はい」
ミカはヴァネッサを目で訴える
「タイムなど認めん!
ミカ、気にせずやって良いぞ」
「ああ……まぁ……そうだな
お嬢ちゃん。オレに遠慮せず、かかってこい
ヴァネッサ!質問に答えろ!」
男はミカを、見ずにヴァネッサを睨み
「ミカ.レミナスって
1人で一角獣を討伐した奴だろう?
何で試験なんか受けてる?要らねぇだろうが!」
ヴァネッサは資料を読みながら
「規定で中級者以上で、連絡を取れた9割以上の
推薦を以てして、中級に上がる。とある
ドグマ.マグナスとクーガー.エヴァンス
此処には来ていないが、イーディス.ヘローの
推薦はとれていない」
男はウンザリしながら
「規定規定……面倒だなぁ。
オレとドグマのオッサンは、この街に来て
1ヶ月も経ってねぇんだぞ。誰か推薦出来る立場かよ?
……まぁいい!待たせたな。お嬢ちゃん
手加減してやるから、良いとこ見せてくれや!」
腰を落とし再び構え直す
しかし
ドグマさんが、リング外から男へ向け
「クーガー!その娘さん……お嬢ちゃんではなく
『お姉ちゃん』と呼ばれている」
男は再び、今度は慌てて両手を突き出す
しかも自分から後ろへ飛び、大きく距離をあけた
「タンマだ!タンマ!ちょっと考えさせてくれ」
しかし今回はミカも見逃さなかった
男に指を向け「あーホント、ちょっと待ってくれ」
瞬時にミカの後ろに回り込み、膝を棍で軽く押す
ミカはそのまま地面に手をつき、振り返るが
男はミカの目前に立っていた
ミカを見下ろし
「赤髪……うん。お嬢様よりは大きい……うん
胸は……間違いねぇな」
最後は流石に失礼過ぎるかとも思うが
「ヴァネッサ!このお嬢……ちゃんは合格だ
中級で良いだろう」
ヴァネッサが睨みつつも
「どういう事だ……まだ実力も何も解って無いだろう」
強いて言うならこの男は
待った!が好き。ぐらいしか解らない
ミカがどのくらい近接戦闘が出来るか
誰も知らないのだ
「オレはこの娘と手合わせ出来ねぇ
上級生物も単独討伐している。資格がある
オレとドグマのオッサンが
推薦すりゃあ良いんだろ?そっちで合格にしちまおう」
ヴァネッサがドグマさんを見る
判断を委ねたのだ
ドグマさんは腕を組みながら
「この町に来たばかりの、私達が推薦していいのなら
彼女は間違い無く中級の器だよ。私も推薦しよう」
ヴァネッサは呆れた様に所長を見る
所長はニコリと笑い頷くと
「ミカ.レミナスを臨時中級者として認める!」
小さな歓声が上がる
人が少ない故か、呆気ない幕切れからか
それでもミカの昇格は皆が喜んでいた
「お嬢ちゃん。手と膝はケガしてねぇか?
急だったから思わず……見せてくれ」
「大丈夫〜!ちょっと手のひら
擦りむいただけだから。それより推薦ありがとう!」
ミカは満面の笑みで、手を男に見せる
少し赤くなっている。薄皮が剥けた程度
ケガには入らないだろう
「…………」
ミカの手のひら とは対象に男の顔が青ざめる
「次に行くぞ……クーガー!お前はまだ行けるだろう?」
「……あぁ……逝けるよ……きっと……」
男から威勢の良さがスッカリ消えた
これはチャンスだ!俺は勢い良く手を上げる
それを確認した男が
「……あんたは……お嬢様の兄ちゃんか……
あんたも勝ちで良いんじゃないか?」
ヤル気、気力、全てが無くなっている
「クーガー!真面目にやれ!!」
ヴァネッサが激怒する
クーガーが気怠そうに振り返ると
「………!……へへ」急に笑いだし
「女神が降りて来たぜ!悪いなイシノギの兄ちゃん!
あんたは、お嬢様にケガさせるな!
とは言われてねぇんだ」
リング中央で屈伸を始め
「オレの女神の為に負けてくれや!」
リングにも上がって居ない俺に対して棍を向ける
ドグマさんが俺の横に立ち
「アイツはバカだが、女神とか訳のわからん事を
言い出したら、兎に角強くなる。調子次第だが
私と同等近くまで…………あまり無茶はするなよ」
不安を含んだ一言
それを胸にリングへ上がる




