特別許可
大会と特級依頼を終えた あくる日
俺は斡旋所に1人座っている
仕事をする気が起きない
特級の賃金は時間がかかる言われていたが
ヴァネッサ曰く
「報告書全てに目を通して無いが
クヌギは最低300前後だと思う。
今回は時間がかかるかも知れんが
気長に待っててくれ」
どうも北側の竜撃退
東側の一角獣討伐、リビングデッドなど
配当が揉めそうなので、慎重に行きたいらしい
しかし
素晴らしい。大会も合わせて350ルドンだ
僅か1日で10日分の日給を稼いでしまった
前にジェシカに貰った500も大金だった
そんな稼ぎを知ってしまったら 今更
初級の安い賃金がバカらしく、なってきたのだ
誰か中級に誘ってくれないかな……
それとも自分から、誘いに行くべきだろうか……
初級の俺が?
そんな事を1.2時間考えていると
「イ イシノギ君。今ちょっといいかい?」
振り返るとそこには
眼鏡をかけた色白の優男……
「イーディスさん!?久しぶりです!元気でしたか?」
イーディスさんは笑いながら
「き 君は元気そうだね。ちょっと話し
しても良いかい?」
俺が頷くと100ルドンを2枚テーブルに差し出す
「ぼ 僕は、仕事で話しを聞きに来たんだ
これは少ないけど……その報酬さ」
「話しだけですよね?そんなに貰えませんよ」
正直欲しい
俺の考えを見透かされたのか
「ぼ 僕は今回の依頼で、前金を得ているからね
必要経費だから、遠慮しなくていいよ」
俺は少し遠慮した仕草をしつつ、金を懐にしまい
「何でも聞いて下さい!」
元気よく言い放つ
「そ そんなに身構えなくていいよ
つい先日の怪物達の進軍
それについて教えてほしいんだ
君は1番間近で、リビングデッドを見ているんだろう?
もう一人の女性は冒険者では
無いらしく情報が無くてね」
リルムの事か。彼女はこの場所で見た事なかったな
リルムといえば……
「俺もイーディスさんに
聞きたい事があったんですよ!」
「……解ってるよ。イシノギ君」
彼は眼鏡を外し
「魔物の「詠唱ってどうやって考えてるんですか?」」
…………
…………
彼は眼鏡をを掛け直し
「え 詠唱かい……?何でまた」
「知り合いに頼まれまして……」
俺は簡単にリルムの事を話した
踊りで術を扱う女性
自分も何か詠唱を作ってほしいと
イーディスさんは少し悩みながら
「あ 歩きながら話そうか?
他の人に聞かれたくない話しもあるし
僕の用事も外にあるから」
イーディスさんと街の外
リビングデッドが出没した場所へ向かう
「いイシノギ君は何故
詠唱が必要か解るかい?」
それは勿論
「声を届ける為ですよね?」
イーディスさんは頷く
「し 召喚なんかは、そうだよ。
自分の声に導かれて現れるんだ
それを辿って、道標として
でも術は詠唱が要らない人もいるんだ
君の言っていた人も、そちら側だろう
せ 正確には要らないのではなく
心の中で済ませているんだ
祈りや、想いを……凄いよね」
ミカも多分そちら側なのだろう
声に出したりもするが、
無言で術を発動したりもする
「それなら無理矢理、詠唱したら
ダメになるんですかね?」
彼は首を横に振りつつ
「む むしろ逆だと思うよ。
声にしないと伝わらない事があるんだから
表情で察してくれ。って言われても難しいだろ?」
なるほど……
声に出す。声を聞く。それは大事な事だ
術など関係なく大事な……自分の言葉で
あれ?
「あの………やっぱり俺が他人の詠唱を作るのは
不味いんじゃ、ないですか?」
彼女の言葉と俺の言葉
意味や意思が違って来る筈だ
そんな事をしたら……
「う うん。だからその人がベースを創って
君が少しずつ アレンジしていくのが
ベストだと思うよ」
彼は色々なアドバイスをくれた。
魔法が専門だが、共通点はかなり多いらしい
「イーディスさんはどうやって
考えたんですか?」
「ぼ 僕は爺さんの本に載ってたのを
自分なりに創ったよ。
あまり人に話す事でも無いかな……」
「参考になりました。ありがとうございます!」
イーディスさんが少し
嫌がってそう、だったので話しを切り上げた
「あっ!?イーディスさん。この辺りです」
気がつけばあの光景の場所
万を越える魔物達が押し寄せた場所
イーディスさんは眼鏡を外し辺りを見渡す
土を触り、風に流し
焼跡を水に浸したりと
「今回イーディスさんの仕事って何ですか?
中級でそんな依頼ありましたか?」
今日の初級と中級は全部、目を通していた
いつ声がかかっても良いように
彼は気軽に
「殺人だよ」
本当に気軽に言ってのけた
「人を……殺すんですか?」
「そうさ。リビングデッドを使うのは許せるけど
はしゃぎ過ぎたね。だから僕が駆り出された
死霊術者を殺す為にね」
俺を見ずに
彼は土を弄りながらも続ける
「そうやって迷惑をかけるから
常に肩身の狭い思いを強いられるんだ
魔法使いって奴は……」
「その人も魔法使いなんですか?」
「そうだよ。僕と……君も同類だろう?
想像してご覧よ!仮に、怪物ではなく
魔物が意思を奪われ
人間を襲う。襲われた人間は
魔物の仕業と決めつける」
彼は何を……何処まで知っているんだ
俺の事を何処まで
「イシノギ君……そいつが何を考えているか
知りたくは、ないかい?」
とても邪悪な笑み
しかし彼は俺の為に言ってくれている
表情で察する事が出来てしまった
『僕は味方だ……と』
俺は頷いてしまう




