取捨選択
状況を頭の中で素早く確認する
ヴァネッサはこちらからは見えず
彼女の悲鳴やミカの動揺から察するに
不意に襲われている可能性が高い
(狼はこちらに気づいていない
右手には杖が握られている)
ミカは地面に倒れたまま動かない
狼が獲物を品定めするように
彼女の周りをウロついている
(いまなら逃げられる
左手にはしいの実を握っていた)
狼は最低2匹以上
俺は足もフラフラで体も鉛のように重く
狼を撃退するなんて無茶かもしれない
(彼女達を犠牲にすれば
あるいは自分だけは助かる)
1秒にも満たない時間で
現状を把握する
俺がとる行動は決まっている
大きく息を吸い
鉛の躰に酸素を燃やし溶かしきる
「こっちだ犬っころーっ!」
これ以上ないくらい全力で走り
狼に向けてしいの実を投げる
当たらなくていい
注意をこちらに向けさえすれば
狼の瞳が俺を捉える
鋭い牙を剥き出しにして
こちらの肉を食い千切ろうと身構える
俺は持っていた杖を 狼に振り降ろす
鈍い手応え 振り降ろされた杖は地面を強打し
狼は素早く回り込み俺の足に
そのいくつもの肉を食い千切ってきた
牙を食い込ませた
「ぐぅっ!」
足は疲れ過ぎているせいかアドレナリン
というやつのおかげなのか
思ったよりも痛みはない
何でもいい この状態なら避けられることもない
狼の身体に杖を打ち降ろす ガスッ……ガスッ……
3発4発……6発目で
狼はぐったりと口を開けその場に倒れた
「やった……」いや違う まだだ
そう。俺は狼を撃退するのではなくて
二人を助けなければいけないのだ
ミカの方を見る 彼女はすでに起きていて
キョトンとした顔で こちらを観ている
「走れそうか?俺はバネッサを助けにいくから
逃げれるなら逃げてくれ」
ミカの返事を待たず
ヴァネッサの声がした方向を、見定めひと呼吸おく
足に痛みはないが
まともに直視したくないぐらいには
酷いことになっている
走れるか不安だが 多分大丈夫だろう
杖もある片足も無事なんだから
行けないことはない。そう言い聞かせ
足を踏み出そうとしたところを
ミカに呼び止められた
「ねぇ あれ」ミカは上を指さしている
釣られて上を見上げると……
俺は幻覚をみているのか
空から狼が 降ってきていたのだ
ドサッと俺の足元に狼は落ちてきた
その狼に意識はない
20キロはあろうかという獣が……
脳の処理が追いつかず、俺が立ち尽くしていると
キズ1つないヴァネッサが、こちらに走ってきた
「本当にすまなかった。説明もするが
とにかく治療が先だな ミカ頼む」
その言葉をきき
ミカは小走りでこちらに駆け寄り
「だから言ったじゃーん」
ブーっと口を膨らませながら
俺に両手をかざした