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異世界無能者の観測記録  作者: ホムポム
第6章
59/123

記憶の欠片

俺とリルムは、ミカとミシェルと無事合流する


他の仲間は、あの光景を前に

街へ知らせに行ったと言っていたが


どうだろうか?リルムは逃げれる状況では無いとして

2人以外は、逃げたのではないかと邪推してしまう



「魔物が怪物とケンカしてくれて

私達助かっちゃったね〜」


ミカの気楽な一言



なるほど。それは良い案だ。


「何で魔物が来たのかわからないけど

おかげで命拾いしたよ」

リルムをチラリと見る。合わせてくれるか?



リルムはコクリと頷くのみ。多分通じてくれた




ミカがパンと手を叩き

「早くジェシカちゃん()行かないと!

ミシェルちゃんも一緒に来る?」



ミシェルは首を横に振り


「ううん。私は残ってるから

気にせず行ってきて大丈夫だよ。

皆には、怪物を追って行ったって伝えるから」



ミシェルに別れを告げ


3人で道から外れた森に入る

辺りはすっかり暗くなっている


月明かりがあるとはいえ

ここでリルムと逸れたら、俺はもう帰れない

リルムの後ろを離れず歩く



「………………」



リルムが何か喋った。何かと思い、隣を歩くと

「もう……1つ……お願いが…ある」


「ん?まぁ出来る事なら良いけど……」



俺が出来る事なんて限られている

大した事は言われないだろう、などと考えていると


「私にも……ああ…言うの…作って……」



ああ言うの?俺は何も作ってない

何の事か解らない……が



「何だろ?作れるなら作るよ」

多分柵作りだろう。庭で何か育ててるのか……


「柵作りは結構慣れてきたから、

時間と道具さえ、あればどうとでも」





しかし俺の考えはハズレだった




「魂を…標とか……火の……龍てき……奏でる…とか……」

リルムはフードを深くかぶり

ボソボソと呟く




…………


嘘だろ……!?



俺はあんなの考えて喋ってないぞ


そもそも、炎熱の龍笛〜は

俺が喋ってた事になっているのか

俺だって全部覚えてない


魔物が……いや、彼女に聞こえていたのなら

俺が唱えたのだろう……



リルムは俯いたまま、俺の答えを待っている



「んー……解ったよ。時間がある時に

考えておくから」


お茶を濁した発言だったが 



彼女はその答えに納得したのか

コクコクと何度も頷く


「今度……踊りを…魅せる…から……それに…合うのを」




多分逃げられない……前もって考えておこう

またあの踊りが観れるのなら安いものだ






リルムが足を止めて外套を、(まさぐ)

…………


やがて諦めた様に

「シグ…の鍵……落とした」


「鍵?鍵が無くてもジェシカがいるなら

開けて貰えるんじゃないのか?」


「見えない…ように……されてる……待ってて」


リルムは外套を音をたてながら

バザバサと動かす


バサバサ バサバサ バサバサ



何の儀式だ?




しばらく繰り返すと森の奥から

老婆が現れた ゆっくりと俺達に近づき


「リルム無事だったかい?心配したよ

鍵はどうしたんだい?」


「……落と…した」



老婆は「またかい……」と、ため息をつき

懐から、小枝に小石を括り付けた、だけ

まるで子供が作った玩具のような、それを



虚空に向けて回転させた



空間が捻じれ、景色が変わる

先程までの木は大樹に変わり

草花は、木々へと変化していく

そして大樹は草花へと


その捻じれの中心……そこには

見た事も無い大きさの屋敷が建っていた



「リルムや、風呂に入って、お嬢様の所に行きな

そんなにびしょ濡れだと風邪ひくからね」



老婆は優しくゆったりとした口調で促す

しかしリルムは首を横に振る



「お嬢様の命令は終わったよ

ついさっきドグマ達から連絡があった

この2人は、わたしが送るから安心しな」



リルムは少し迷いつつ、こちらを見る

俺とミカは笑って頷く



「お嬢様に踊りを教えるんだろ?

まだ寝ずに、待ってるんだから早く行ってやりな」



その一言に驚きながらも大きく頷き

屋敷へと入って行く


くるりとこちらを向き

「約……束……」


俺は「ああ……約束だ」



リルムは笑って、手を振りながら姿を消した


初めて彼女の笑顔を見れた

とても綺麗な微笑み




老婆がこちらに向き直り


「さて、あんた達には感謝してるよ

リルムは娘みたいに可愛がってるんだ

何かお礼をしてあげないとね……」




「私達こそリルムちゃんに助けられた

からお礼なんて別にいいかな〜


それよりジェシカちゃんが無事だったなら

私達は帰りますね」



老婆がミカの眼を見つめ


「あんたは優しい娘だね。

本気でお嬢様を心配して来てくれた

あんたには、これをあげようか」


老婆がミカに何かを手渡す


何か石のような……暗くて小石にしか見えない

紐の通った小石



ミカはその石のような物を月明かりで照らしながら


「これって……ひょっとして……」


「賢い娘だ。解ってるようだね。説明は省くよ

まぁ今更、使い物にならない代物さね。


……次はあんただね」



老婆が俺の瞳を見つめる


吸い込まれそうだ

老婆の瞳に俺が映り、その瞳に老婆が映り……



老婆は笑う

「あんたは解ってたね。お嬢様が無事だと」


この老婆は心を読むのか?


違う。解ってた訳ではない。ただドグマさんとリルムが

あまりに心配していないので

必ず大丈夫だと、思っていただけだ



「そうさね、これでいいかい?」

老婆が差し出したのは、先程屋敷を出現させた

小枝に石を括り付けた鍵



「これは視えない物を、可視化させる鍵

1回だけ……此処では使えないようにしとくから

そんな場所があれば、何処かで使ってみな」



「わざわざ、ありがとうございます。」



視えないのに見れる?

俺にはそんな場所を感じる事が出来ないから

使う事など無いだろう



せっかく貰ったので、大事に懐にしまいつつ



「森の出口まで送っていくよ。ついておいで」



そう言った老婆は姿を消し

屋敷も消え去っていた



俺とミカが辺りを見渡すと

光が線上に伸びている。それを目標にしろ

という事か




余りに呆気なく出口まで着いた

2、3分程だろうか


来る時は20分程歩いた気がしたが



「なんか……凄かったな」


「…………」

ミカは考え事をしていたのか

ずっと老婆に貰った小石を見ている



「ミカ。その小石って何?」


「え?これ!?う〜ん多分……

いや、絶対違うんだろうけど〜……」



何やらハッキリしない言い方だ

それでも答えを待っていると



「記憶の欠片……この世には存在しない物質

その欠片を創った神様は

もうこの世界に干渉してないから

ある訳無いんだよ。多分レプリカだね〜」



そう言いつつ、ミカはその石を首から下げる

月明かりに照らされた石が輝きを放つように……

ミカに良く似合っている


「あのお婆さんって何者なんだろうな?」


俺の抽象的な質問に



ミカはハッキリと言い切る



「あのお婆ちゃんは魔法使いだよ〜

凄く長い年月を生きてる」



ミカは嬉しそうに……俺は訳がわからず

2人は街へと戻る







    第6章 雷鳴の指揮者   魔人  完

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