鎮魂歌
……眼を開ける。何が起きているかは
想像はつく。それでも現実を直視する
見渡す限りの魔物の大群
大小様々な魔物が、俺のもとに集まっている
『ヴウォォォォ!!』
おびたたしい魔物達の雄叫び
大地は揺れ、雨を切り裂き空が鳴く
雄叫びではない。俺には理解出来ている
魔物の意思を……
『我等が王よ!』
『その血に刻める栄誉を賜りたく!』
『是非!我こそを下僕に!』
千……万を、越える魔物の大群
その全てが俺の力になってくれると
俺の希望……事を成せる力を持っている
……全てを殲滅出来ると
俺はその中から1体を指差す
魔物達の驚きの咆哮があがる
俺が指差したのは、直径5センチ程の
火を纏った歪な球体。雨に打たれ
今にも、その弱々しい火は消えようとしている
その魔物が俺に近づき
『我が王よ!この身は、齢百にも満たぬ非力なる存在
されど、王の為に魂を捧げる覚悟です』
『…………!?何故その様に矮小な物を……』
ミカが言っていた。
魔物が力を付けるのは
何百年と過ごした後から、だと……
つまり、この魔物は何も力を持たない
そう言う事だろう
俺は魔物全てを見渡す
言葉など必要ない。俺が決めた事だ
魔物達は納得せざるを得ない
『王よ。次こそは我を下僕に!』
『其の物で足りぬ時は私を!』
魔物達が消えて行く……その光景を目にしながら
「私の為に来てくれて……ありがとう」
その言葉に魔物達は歓喜の雄叫びをあげ
現世から姿を消した
残ったのはリルム、俺、そして小さな魔物
2人と1体を囲む怪物達
「お前に命じる事は3つだ。解るか?」
俺の掌に収まった魔物は
『腐りつつある怪物達の処理
人の種族を傷つけぬ事……
最後は……申し訳ありません。王を理解できず』
「お前が死ぬ事は許されない
出来ると言うのであれば
俺の血にお前を刻み 俺を主とせよ」
『御意に!我が主!!』
魔物が、指の傷口から俺に入ってくる。
途端に失った血液が溢れ出る
脇腹から、本来流れる筈だった出血が大地を滲ませる
外れた骨が治り、脇腹の痛みが消え
傷口には、火傷の跡が残り
火の球体が俺から離れ、空へ舞い上がる
雨雲を切り裂き、空高く昇った魔物は
待っている………俺の合図を……
俺が手を、魔物に向けて掲げた瞬間
炎熱の龍笛が奏でるは
其に捧ぐ鎮魂歌
主に仇なす その愚心
我に楯突く その愚身
その心身を焼き払わん
其の全てを葬り去らん
《審判の炎雨》
天から無数の炎の矢が降ってくる
怪物のみに向けて 頭から爪先まで、あらゆる部位
その悉くを射抜き尽くす
貫かれた怪物は苦悶の雄叫びをあげ
たちまち、怪物達の偽魂を燃やす合唱となる
灰になろうとも、炎の矢は雨となり降り続ける
重ねるが
ミカは魔物が力を付け出すのは
何百年過ぎてからと、言っていた
正しくは何百年も経つと、力を抑えられないのだ
抑えようとして僅かに滲み出た力………
それを魔物本来の力だと思っている
ヴァネッサは魔物に殺された
人間を知らないと言っていた
魔物達はいつか許される時を待っていた
過去の精霊、魔物が人間を襲った事を………
無害であり続けたのなら、いつか
自分達も精霊と呼ばれる日を夢見て
蔑まれるのでは無く、崇められる日を信じて
私が全部。無駄にしてしまった
俺が叶えてやる
私の罪を精算し、
俺の望みを叶える。その為に………
怪物全ては……その礎になってもらう
俺は間違い無く、悪なのだろう………
悪とされている魔物を救おうとして
同じ悪の、怪物を滅ぼそうとするんだ
ただ俺の望みだけの為に
百に及ぶ怪物は、焼跡を残し消滅した
唯一1体を残し……
一角獣
しかしその一角獣は、その場から動こうとしない
震えている。恐怖では無い
抗っているのだ。何者かの支配から
やがて、その雄々しき角を遺し
一角獣の体は、大地へ飲み込まれていった
リルムを見ると唖然としている
当然だ。あんな光景を眼にして
悠然としている方が異常だ
彼女は一言
「あり…がと…う」
その一言で十分だ
遠く、北西から何か、巨大な物が飛び去って行った
クヌギ.イシノギ
彼は人間なのか……
人間に聞けば、勿論人間と答えるだろう
魔物なのか……
魔物に聞けば、同じ種族、その魔物の王と答える
ならば彼は魔王なのか?
違う。魔王とは称号、種族では無い
なにより彼は人間なのだ
魔物でありながら人でもある
魔王などという存在には、なり得ない
彼に種族をつける事は難しい
その様な事を決める神は、
何千年も昔に眠ってしまっている
様々な役割を他の神に押し付け
行方も知れず眠っている
いつしか、その神が目覚めたら
彼に相応しい種族の名をつけるだろう




