表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界無能者の観測記録  作者: ホムポム
第6章
56/123

リルムの天使2


小屋を出ると逃げ出した

従業員が、仲間を引き連れて戻って来ていた


「おいリルム!中はどうなっている!?

それにお前……逃げる気か!?」



私にとって恐怖そのもの………

その存在が怒りを露わにしている

その言葉に私は足が竦み、手が震える




それに気づいた少女は


「逃げる気?ですって?この女はあたしのよ

ついでに中の奴等は皆仲良く

あの世へ連れて行ってあげたわ。感謝しなさい!」


「このガキ……冗談じゃ済まされねぇぞ!!」



少女が震えた私を見る

「あんたの不安の種がこいつ等ってんなら

……今回だけは特別よ。あたしを使っていいわ」



私は訳が解らず、頷いてしまう

しかし少女の目を見ると、手足の震えが止まっている




それを確認し、笑いながら

「あんた達は、あの世なんて行けないわよ

魂ごと消し飛ばしてあげる。


そうね……動いた奴からにするわ

その代わり動いたら………欠片も残さないから」



少女は拳を縦に突き出し

親指を空に、人差し指を男に向け片目を閉じた



男の1人が何か、喋



それよりも(はや)



閃光が辺りを照らし

音も無く……男達は全員、その場から消滅していた


「……面倒なだけだったわね。

飽きたから、帰るわよ」



男が後ろを歩き、私も男の後を追う



この少女程の力があれば、全て思いのままだろう

望むことは何でも叶う

少女はきっと、1人で何でも出来てしまうのだと……






しかしそれは、私の浅はかな考えだった


「もう嫌よ!どうでもいい!

顔も覚えてないんだから、会えるわけ無いわ

お兄ちゃんなんて居ないのよ!」


「お嬢様…………今までのお嬢様の努力を

無駄にする気ですか?」


「…………」



度々少女に訪れる地獄

私にとっても地獄だ。

こんな少女を見たかった訳ではなかった


あまり思い出したくない





お嬢様のそばに仕える条件は1つだけ

絶対にジェシカ.ドーソン と言う名を口にしない事


誰にも言わない事。何処に居ようとも………

この事は徹底された



どうやらお兄さんに会う為の、手掛かりらしい

いつの日か、少女の名を呼んでくれる誰かを

お嬢様は待ち続けている





お嬢様の側に、置いてもらって1年が過ぎていた





「今度あたしに踊りを教えてよ」



あまりの出来事に、私は驚きを隠せずに頷く

少女は自分から覚えるという行為をしないはず

それなのに何故今更……


「ンフフ。遂にお兄ちゃんに会えたのよ!

あなたの踊りを覚えて

お兄ちゃんをメロメロにしてやるの!」



お嬢様が私の踊りを覚えてくれる……

嬉しかった。私にも価値はあったんだと思えた



お兄さんに会ってから、お嬢様は変わった

常に機嫌が良く、私達に話しかける事が多くなった



お兄さんに会う以前は

視界に入るだけで、怒る事もあった

私達全員が、嫌いと思わせるほどに………





「やっぱり暇だから、何処かへ行くわ!

お兄ちゃんに会えるかもしれないし

……今日は……いつもの奴が居ないのね?」



「ドグマさんでしたら今日は街に

行っております。大会の賞金が中々良いらしくて

お嬢様に、休暇の許可は貰ったと

言っておりましたが………」


「ふーん。言ってた気もするけど……興味が無かったわ

今から見に行こうかしら?」



ユウゴという男……胡散臭い見た目で

最近入ったばかりだが、お嬢様を第一に考えている

どうすれば、お嬢様が笑顔になれるか



少なくとも、お嬢様を利用する気は微塵もない

私と同じ……魅せられた者

どこか毛色が違うのが気になるが


いや、1年も一緒に居る、私なんかより余程

役にたっている。お嬢様もそう思っているに違いない





お嬢様と、私、ユウゴと3人で街に向かう途中


「ねぇ!帰ったら、今日も踊り教えてね」

少女の微笑み。稀にしか見せない笑みを

見る事が、私の密かな喜び


「……はい!」

私は笑えているだろうか?




大会には、『お兄ちゃん』と呼ばれる人がいた

お嬢様のお兄さんなら、さぞかし強いのかと思ったが


まぁ………うん



当然だ。顔も似ていないし、髪の色も違う。

本当の兄妹で無いのは間違い無い


そのあたりの事情は……知っている

お嬢様に仕える者全員、知らなければならない



それよりも驚いた事がある

お嬢様が叱られていた。

2人で何処かに行ったと思ったら



何故か名前を呼ばせる事を許可し……

これは目的を果たしたのだから100歩譲ろう



ミカと言う女性を姉と慕っている

それも私達には、みせた事も無い表情で……


厳しく叱られたお嬢様は、涙目になりながら

困り果てている



普段のお嬢様なら、彼女はもう、この世に居ないはずだ

ミカという女性に、いったい何があるのか……



何故私は、その役になれなかったのか……



無理も無い。彼女はお嬢様を知らない

お嬢様の強さ、怖さを知ったら

きっと対等に接するなど、不可能になってしまう



しかし彼女のおかげで

私は思わぬ幸運に遭遇する


名前を読んでもらった。リルム……と

覚えていたのだ。

私に興味が無いので、知らないとすら思っていた



感謝もされてしまった。

飲み物を買ったのはユウゴだが

彼はミカが苦手なのか、包帯で顔を隠し始めた


苦手というより、何かを思い出したかのような……



出来るだけ近づきたくないので

私に持っていってほしいと……その恩恵


ありがとう と。確かに言ってくれた

泣きそうになるのを

フードをかぶってバレないようにする



今日は何て、素敵な日なのだろうか

帰ったらお嬢様は、私の踊りを覚えてくれる



凄く楽しみだ






雲行きが怪しくなる

どうやら私はお兄さんとミカというお姉さんを

守らなければ、ならないらしい


それでも『あなたしか居ない……頼りにしている』

その言葉と笑顔は、私に勇気を与えてくれる



例え私が、どうなろうと……この笑顔だけは守りたい

それが今の私の願い




私の天使の為なら……死んでも構わない


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ