雷鳴の指揮者
雨音の中を ゴキリ とニブイ音が響く
………………
ミシェルの首が………猿の怪物により
へし折られていた
俺が向かおうとするも
今 前に出るのは危険だと………
彼女の元へ行くのは命に関わると、警鐘を奏でる
まわりの仲間も同じだ
彼女の元へ行こうとするが、1歩……
踏み出すはずの1歩が、前に出て行かない
ミカだけはその光景に目もくれず、祈りを捧げている
何も出来無い
ただ仲間がこのまま、死ぬのを遠くから
見ている事しか
異変は直後に訪れた
首を折られたミシェルに、大量の草木が生い茂り
彼女を飲み込む
違う………彼女を護る為に包み込んだ
何から………怪物からではない
彼女のいた場所に、これと言って普通の木
いや、一瞬で10メートルにも成長した木が
普通である訳が無い
その木から護る為に他ならない
ミシェルの近くにいた怪物だけは、回避出来ない
葉液を含んだ水が滴る
樹液が雨に混じり合い
風に飛ばされ、猿の怪物に降り注ぐ
「ゲャガャギャャャアァ!!」
猿の悲鳴があがる
猿は全身が発火したかのように
踊るように暴れまわり、のたうち回り
やがて命 そのものを燃やし尽くたのか
ピクリとも………動かなくなった
死運樹木
彼女を護る木
彼女以外を殺す木
近づいた者を差別する事無く、平等に
苦痛の後に安息を与える
母なる大樹
ミシェルだけが異常………特別なのだ
生命の神という、神々の頂点の1つに愛された
彼女だけが………
人間も、怪物達さえも、その光景を前に
立ち尽くす事しかできない
ピシャー!ドンッ!
爆音と共に、ミカに落雷が疾る
ミカは何事も無いように
スッと立ち上がり、天を指差す
そのまま……ゆっくりと……怪物に向けて指を振り下ろす
ドンッ!!
落雷が猿の怪物に、裁きの雷となり降り注ぐ
避けれる筈もなく、
何が起こったのかも解らないままに
猿の怪物は、その命を雷に奪われる
蜘蛛の子を散らした様に、逃げまどう怪物達
ミカはその怪物に紫電の指揮棒を向ける
この広い平原に、逃げ場など無い
目に見える範囲………仮に目の届かない場所に
逃げようとも、雷雲がそれを逃さない
猿の怪物達は消し炭にされ、残るは………1体
されど一角獣……この怪物だけは
裁きに不服なのか、未だに命を繋いでいる
「………ふぅ〜」
一息つくと雷雲が霧散して行く。術が切れたのか
「雷神様。起こしちゃって、ごめんなさい
ありがとうございました
後は大丈夫なので、ゆっくり休んでて下さい」
意図的に術を解いたのだ
ミカは策も無いように一角獣に近付く
一角獣もミカに近付く。ゆっくりと……
荒々しい息遣いのまま、ミカを見据える
あろう事か
そのまま一角獣を優しく抱きしめ
「大丈夫だからね……
最後まで一緒に居てあげるから」
ミカは一角獣の頭を撫で、座り込む
ミカの膝に頭を置いた一角獣は
そのまま眠り込んでしまった
一角獣
不思議なことに一角獣は
乙女に思いを寄せているという
それも生粋の処女だけを好む
処女の香りを嗅ぎつけたユニコーンは
自分の獰猛さを忘れて、いや
自身の、最後の時は安らかに眠りたいという
願望だったのだろうか……
この一角獣は、死に場所を探していたのだ
眉間を穿たれ、血液も無くし、されど死なず
苦しみながらも、やっと得られた安息
ミカに抱かれた一角獣は
そのまま静かに息を引き取った
優しく一角獣の頭を地面に寝かせ
ミカが戻ってくる。
「今日はあんまり寝てないから、キツイね〜
もうカラッぽだよ〜」
ミカはピースサインを、しながら笑いかける
それと同時に
ガサゴソと葉音と共にミシェルが立ち上がる
いつの間にか、ミシェルを護る木は枯れ果てていた
雨の中、歓声があがる
1人は腕を無くしたが命は無事だ
ミシェルはどういう訳か
腹の傷は塞がっており、首の骨も
折れたのは勘違いだった、と思わせるほどに
ミカを囲むように皆が集まった瞬間
悪夢が始まる
俺だけが、その前に声を聴いた
『……ま…………よ』
全く聞き取れなかったが、確かに声がした
その方角を見ると誰も居ない
しかし、気のせいでは済まされない悪寒
気のせいでは無い
眉間を穿たれ、死んでいる筈の怪物達が
立ち上がり、こちらに向かって来ている
100にも及ぶ、死んでいる怪物の群れ
あっという間に囲まれてしまい
逃げ場を無くした俺達は、絶望の縁に立たされる
大地は絶望に染まり
皆死を覚悟する
彼女も含めて……
リルムが外套を脱ぎ捨てる
死運樹木は
マンチニールと言う実在の樹木を
参考にさせていただきました




