行進曲
ミカを追う為に俺も斡旋所を出ようとすると
それより速く、リルムが後を追う
「クヌギ待て!勝手な行動は謹んでくれ!」
ヴァネッサに止められるが、
「………ミカとリルムを止めてくるから!」
そう言うと「頼む」と頭を下げられる
ヴァネッサもこの人数に、納得はしていないんだ。
しかし、仮に待機を10人にすると、
片側25人ずつ………
1人6匹の怪物を同時に相手にする事になる
両方全滅しかねないなら、
片側だけでも討伐できる可能性を残す
その判断は正しいのか?
街の外に出る………
いつの間にか雨が、降り出していた
リルムとミカは見えない。
必死で走ってはいるが、俺が遅すぎるせいだ
ミカはジェシカが危険な目に
あっていると思っているんだ
だから1人、飛び出した
急がないと間に合わなくなる。
バシャバシャと音を立てつつ不格好に走る
ミカと、リルムの影が見える
どうやら二人とも、立ち止まっているみたいだ
嫌な予感がする………当たらないでくれ
二人に追いつくと、怪物の死骸が散乱していた
眉間をキレイに穿たれた怪物の山
首から上が消失している怪物
手足のみを残した、怪物だった者
その異様な光景に思わず、俺も足を止める
「ひょっとしてふ……2人がやったのか?」
俺は恐る恐る、リルムに確認する
しかし彼女は答えず、俺とミカの後ろに回る
「ジェシカちゃ〜ん!居たら返事して〜!」
ミカが辺りを見渡し叫ぶ。しかし返事は帰って来ない
それでも彼女は探し続ける
見かねて「お嬢様は……無事」
リルムは顔を隠すように、フードを深くかぶると
「……ドグマさんも…私も…付いて…行って…いない
心配も…してない……必要がない…から」
彼女の言葉には、言い知れぬ説得力があった
しかしミカは納得しない
「そうだと良いけど……やっぱり心配だよ」
リルムはため息をつき
「お嬢様の…家……付いてきて」
そう言って1人、前を歩き始める
どうやら案内してくれるみたいだ
遠くで声がする
「ミカちゃーん!待ってー!」
ジェシカかとも思ったが、違った
ミシェルが後ろに7人を引き連れ
こちらに向かってくる
やはり彼女達もこの光景に、目を奪われ
「これ………ミカちゃん達でやったの?」
目を白黒させる
「ごめんねミシェルちゃん。
私行く所があるから、後はお願いしていい?」
ミシェルが頷こうとすると
「がぁぁあ!!ああ!」
男の悲鳴があがる
その方向に目をやると、
男の腕から血の雨が降り
左腕を無くした男が、のたうち回っている
辺りを見渡す……
全員の緊急感が増し
猿の姿を模した怪物が6匹
けれど皆は、その更に奥の者に釘付けになる
それは一言で言うなら……白馬
眉間には風穴が空き、
眉間の少し上にその怪物を象徴するような
大きな一本角………
一角獣 その角には、
男の真新しい左腕が
血しぶきを滴らせ、突き刺さっている
それを無造作に投げ捨て、蹄を以て踏み潰す
「ああ……あ…」
男の悲観に暮れた声が、雨音にかき消される
「み、みんな気を付け……」
ミシェルの声の言葉と同時に
一角獣が姿を消す
「…ッ!」
咄嗟にミシェルを押す
しかし間に合わない
俺諸共、巻き込み、俺は脇腹を抉られ
「ぎぃ……あぁぁ!」
ミシェルの悲鳴が遠くなる
ミシェルは腹に、角での一撃を突き刺され
猿達のいる場所に投げ捨てられた
一角獣は怪物達の遥か後方まで下がり
荒々しい息遣いで、こちらを睨む
猿の一匹が動けないミシェルに襲いかかる
まさに一瞬……
怪物達は、他の死体に紛れていたのか……
少なくともあの一角獣は手負い
眉間の風穴から血は出ていない
それをやった人物は、一撃で仕留めきれなかったのだ
俺はフラフラと立ち上がり
「クヌギ君は休んでていいよ」
ミカが1人前に出る
「ミカ……大丈夫。かすった…だけだ
俺もやれるよ……」
そう 直撃してはいない
激痛が脇腹を刺すが、血は出ていない
手を当て確認してみると
皮膚を抉られ、その先の肉の感触がわかる
それなのに、血は出ていない
俺は一体何なんだ………
足に力が入らない
「クヌギ君………大丈夫だから
皆とそこに居て。危ないから」
こちらを見ずに、向けられた言葉
ミカは怪物達を睨み
「私は急いでるんだよ?」
「ゲギャキャカャ」
その言葉を理解出来ているのか
猿達が下卑た笑いをあげる
「………雷神様起きてますか?
起きてたら、私に力を貸して下さい…
お願いします」
ミカは両膝を地面に付け、手を結ぶ
雨脚が強くなり風雨が速まる
雷雲から放たれた雷がミカを貫き
爆音が轟く




