暗闇の牙
ヴァネッサが立ち止まり
ミカを指さし小さく手招きする
次に俺には手をひろげてみせた
静かにミカだけ来て 俺は待機なんだろうと思い
その場に歩みをとめる
二人は小声で話して、内容は聴き取れないが
ミカが驚いているような 表情をしたのはわかった
数分後ミカが気怠そうな態度で
ヒョイヒョイとこちらに手招きする
俺は音をたてないよう
できるだけ静かに 二人に近づいた
「水場に狼がいるがそこから見えるか?」
ヴァネッサが木々を指差す
言われて目を凝らすが暗くなっていて
俺には見えなかった
「ゴメン 何処にいるかわからない」
ヴァネッサが指す方向を、見ながら言うと
「まぁいい
あの辺りに狼がいるってことだけ 知っておいてくれ
私が追い払う。私が先行してミカは少し後ろから
死角になっている場所に
他の狼がいないか探ってくれ
この暗闇だ奇襲でもされたら かなわん
お前はその場から動くな。いいな」
ヴァネッサが指示を出し 俺は了解と小さく頷く
ミカは先程の話しも、聞いてなかったかのように
狼がいるのであろう場所を ぼんやりと見つめている
ヴァネッサがミカを 肘で押しキッと睨みつける
ミカは不機嫌そうに「りょ〜かい」
と声には出さず口を動かす
ヴァネッサが音もたてず
10メートルほど 歩いたところで
前方を見つめたまま手招きする
それを確認するとミカは ヴァネッサに比べると
多少は音をたてつつも
ゆっくりとヴァネッサの後ろに付く
ヴァネッサは闇に融け
ミカもぼんやりと 見えなくなりそうになったとき
ミカは急に立ち止まり
振り返って俺に 何か言ったような気がした
そして何事もないように歩を進める
ミカもそのまま 闇へと消えようかという
瞬間
「ガァァッ」静かだった森に 狼の声が響く
「うぁぁぁっ!」ヴァネッサの声だ
この暗さでは 何があったのか何もみえない
「ヴァネッサちゃん」
ミカが駆け寄ろうとすると
ミカへ向けて 別の狼が体ごとぶつかってきた
「きゃあっ」
狼の体当たりは彼女の脇腹を捉え
3、4メートル吹っ飛び地面に伏してしまう
「ウォォォォン」
自身たちの勝利を確信したかのように
狼の遠吠えが暗い森にこだました