英雄対英雄
目を覚ますとそこは………何処だここは!?
俺はゆっくりと起きる
「お兄ちゃん!大丈夫だった?」
ジェシカが俺に抱き着き
「クヌギ君平気?まだ調子悪い所ある?」
ミカが顔を覗かせる
俺はドグマさんに負けて
どうやって負けたのかは、覚えてないが
身体は何とも無い 一撃で気でも失ったんだろう
「ああ。もう大丈夫だよ。心配かけてごめん」
俺は立ち上がり、軽く屈伸をする
やはり、何処も異常は無い
その割には二人ともやけに心配している
「俺………ひょっとして、結構寝てたの?」
「ん〜?3時間ぐらいかな〜
もう準決勝が、終わるぐらいと思うよ」
結構寝ていたな。
何ともないんだから
無理矢理起こして、ほしかった気もするが
「今からなら決勝だけでも間に合うかな?
せめて、それだけでも観に行こう」
そう言って医務室を後にし、応援席に戻ると
その席に包帯を巻いた、怪しい男が座っている
「ユウゴ!いい加減、その包帯外しなさい!」
ビクリと肩を震わせ、こちらに近付き
「お嬢様!傷が痛みます故、何卒………
席は3席確保しておりますので
私達を気にせずお座り下さい」
「………まぁいいわ」
ジェシカは特に強制せずに、真ん中の席に座る。
ミカも『ありがとう〜』と言いジェシカの隣へ
俺も礼を言い、空いた席へ
初めてあった時から、顔には包帯を
巻いていなかったのに、なぜ今更と思うが
まぁ、痛いのだろう。俺は気にしない
「お兄ちゃん達の知り合いと、ドグマ
どっちが勝つと思う?」
やはり、そう言った話しに、なってしまう
誰が強いか、どちらが強いか。
「私はヴァネッサちゃんかな〜?」
「わからないけど、俺もバネッサだと思うよ」
多分ドグマさんは俺に対して
半分も、力を出していなかった
それでもやっぱり
ヴァネッサが負ける姿が想像出来ない
ジェシカは少し落ち込み
「じゃあ、その人が負けちゃったら
お兄ちゃん達、ガッカリしちゃう?」
「そんな事は無いよ。勝負の世界なんだから
常に負ける可能性もあるんだ
ガッカリなんて事はしない」
本当にどちらが勝つか予想出来ない
だから俺はこの試合を観れて良かったと思う
しかしジェシカは
「お兄ちゃんの知り合いだから
あたしも頑張ってほしいけど………
一回観た限りじゃ、絶対ドグマには勝てないわよ
勝つ可能性なんて、無いわ
だから心構えだけは、しておいてね」
少女は冷たい、絶対の予言を言い放つ
『間もなく決勝戦を開始します!
両者が出揃うまで
僭越ながらプロフィールを
ご紹介させていただきます!!』
大きなアナウンスが流れる
そうやって場を盛り上げるのか………
しかし俺が決勝に行ってたら何て
紹介する気だったんだ?
『森で迷子になっていた、家無き子
クヌギ.イシノギ!!』
絶対に歓声など上がらない。ドン引きだ
そんな、変な事を考えていると
『皆様はヴァネッサ.ラウと言う
名前を聞いた事があるでしょうか?
この島に住む冒険者は
一度は耳にした事が、あるはずです
それ以上に野盗や犯罪者は
彼女を知っているでしょう!
彼女に狙われたが最後!
大人しく足を洗うか!死しか!残されていません!!
彼女の名を知らずして
犯罪者を名乗れ無い!とも言われております』
………ツッコミたい事はあるが、聴いておこう
『仕事は駆け出しの頃に
だった一度だけ、失敗の記録があるのみ
彼女に救われた人達は、計り知れません
この島の英雄ヴァネッサ.ラウに
大きな拍手をお願いします』
ワアァァァ!!歓声が最高潮に達する
入り口からゆっくりと
ヴァネッサが姿を現し、リング中央へ
『続いてはドグマ.マグナス選手です!
この方もやはり、と言うべき男
大陸での蛮族との戦争………
私達には、遠すぎて悪逆非道………そこまでしか
詳細は伝わりませんでした
しかし名も無き男が
獅子奮迅の活躍をし、その戦争に終止符を打ち
その功績を讃えられ、貴族の身分と
王国貴族の、戦術講師に任命された事は
皆知っているはずです!』
会場がざわつく
俺は何も知らないので黙って
聴いていることしかできない
『しかし!
その男は貴族の身分を、受け取りませんでした!
私達と同じ平民に、貴族が教えを乞う!
その姿を想像しただけで
私達にどれ程の勇気を、与えてくれたでしょう!?
もうお分かりでしょう!
ドグマ.マグナスこそ
私達、平民の英雄なのです!!』
ドグマさんが姿を顕す
歓声が更に高まる。最高潮を超えて
会場全体を震わせる
『計らずも此処に
英雄対英雄が実現したのです
これより先は、私の言葉は必要無いでしょう』
2人が位置に付く
ヴァネッサは長い木製の杖
ドグマさんは俺の時と同じ木刀
『開始!!』
場内が一瞬で静まり返る
2人はお互い背を向け5歩、後ろに歩き
礼をして………構えた
男が仕掛ける!違う、俺は男を見失う
ヴァネッサが後ろを向き
男の一撃を受け止めたが
体制を崩したのか、男に中央まで投げ飛ばされる
………………
今度はヴァネッサが仕掛ける
棒の動きが見えないほどの払い突き
それを男は難なく躱し
ヴァネッサの鳩尾(溝オチ)へ柄での一撃
ヴァネッサは堪らず膝を付く
彼女の咳が、無音と化した会場に響く
男は追撃をする事無く
ただ無慈悲に、彼女を見下ろしている
俺は馬鹿だ
ドグマさんは実力の半分も
出していないと思っていたが
俺とやった時など、精々1割未満だ




