仮姉妹2
ミカと一緒に会場に入ったが
ジェシカは酷く落ち込んでいる
掠めただけとはいえ、箱を傷付けてしまったのだ
中の………あたしのはともかく
ケーキは無事では無いだろう
お姉ちゃんに任されてたのに………
お姉ちゃんは足を止め
「ジェシカちゃん、私何て言ったか覚えてる?」
「箱を落としちゃ、ダメだよって言われた。
………やっぱり怒ってる?」
しかし彼女はニコリと笑い
「違うよ 『あの店は絶対期待を裏切らない』だよ!
ジェシカちゃん、今ちょっとだけ開けてみよっか?」
そう言って箱を開けだし
あたしは、ゆっくりと中を確認する
するとそこには大量の、緩衝材に優しく包まれた
ケーキとシュークリームが
形を崩す事なく、入っていたのだ
「エヘヘ〜実は私、何度か落としちゃった事
あってね。それを店のおじさんに話したら
これを付けてくれるように、なったの!」
ミカは頬をかきながら、再び箱を閉じ
「これで元気になったかな〜?」
彼女は手を差し出し
「うん!」
あたしはその優しさに、満ちた手を握る
「そ~言えばクヌギ君に
お菓子をお裾分けした事があってね
一緒に食べた事があるんだよ
その時クヌギ君、それを食べて
何て言ったかわかる?」
「あたしもあるわ!
お兄ちゃんに何でも買って良いって言ったのに
小さいチョコレートを1つ買って………
それを一口で食べて………」
2人で顔を見合わせる。呼吸を合わせて
せーの!
「「何も言わない!!」」
2人で大笑いをした
応援席に戻るとお兄ちゃんとドグマは
むさ苦しい握手をしていた
少し目を離すと、すぐこれだ
男が何かを言っているが、今はどうでも良い
早くお菓子を食べなくては
それに先程知らない人を
炭も残らない程、消し飛ばしたので怒る気分でもない
お姉ちゃんと並んで座り
………やっとこれを、ありつける
さっそく口に運ぶと………クリームが口の中で広がる
甘過ぎるかとも思ったが
皮の部分が絶妙に甘さを消し、
中心部に行くほど
クリームの甘さは控えめにしてある
そして私に、さらなる1噛みを要求してくる
噛めば噛むほど味が変化していく
「ねぇジェシカちゃん!これ一口と交換しよ?」
これも物を食べる醍醐味だ
あたしは少し意地悪く
「嫌よ!でも、お姉ちゃんが食べさせてくれるなら
考えてもいいわ!」
返事を聞く事無く
あたしは目を閉じ口を大きく開ける
「はい!あ〜ん」
「あーん」
………楽しい!お姉ちゃんと一緒にいると
お兄ちゃんにも1つあげたのだが………
やはり、一口で食べ、特に感想は聞けなかった
お兄ちゃん達が控室に戻ると入れ替わるように
男女が飲み物を持って近づいてくる
顔に包帯を巻いた男と外套の女性………
ってユウゴとリルムか
何故あの男は今更、顔に包帯などを巻くのか
リルムがあたしに近づき、無言で
飲み物を2つ差し出してくる
それを受け取り、お姉ちゃんに渡そうとする
「………ん。あんた達は下がってて、いいわよ
それでね!お姉ちゃん……」
しかし彼女は飲み物を受け取らず
「ジェシカちゃん………
何でありがとうって言わないの?」
彼女は何故か怒っている
「え?………だってあいつ等が
勝手にやった事なんだから」
「あいつ等じゃなくて
名前が、ちゃんとあるでしょ!?
それに気を遣って、持ってきてくれたなら
尚更感謝しなくちゃ、ダメじゃないの!」
お姉ちゃんは飲み物を受け取ってくれない………
あたしはどうして良いのか、わからない
慌てたように2人が間に入り
「私達の事はお気に入りなさらずに………
私達が好きでやっているので
居ないものと思って下さい」
ユウゴが頭を下げる
リルムも喋りこそしないが、同じ気持ちだろう
しかしミカは怒りを収めない
「私もジェシカちゃんが、大好きだから言ってるの!」
お姉ちゃんは、あたしの頭を撫でて
「皆に名前は、呼ばせたくないってのは
何か事情があるんだよね?
でも名前を呼ばれないってのは、悲しい事なんだよ?」
ゆっくりと、優しく諭すように
真っ直ぐ、あたしを見つめている
あたしは頷く
「リルム………ユウゴ………
飲み物持って来てくれて、あ………あり…ありがと…う」
最後はゴニョゴニョと言う感じに、なってしまったが
2人が凄く嬉しそうにしている事は、わかった
「ごめんねジェシカちゃん………」
ミカは少し肩を落とす
「あたしの方こそ、ごめんなさい」
お姉ちゃんを抱きしめながら 謝る
「お姉ちゃん………暖かい」
「ジェシカちゃんも暖かいよ〜」
少女の心に刺さっていた棘が
ようやく1本………抜け落ちた




