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異世界無能者の観測記録  作者: ホムポム
第5章
41/123

精神の産声

受け付けを済ませ控室に入る


ドグマとも同じ控室だったので、お互いの時間まで

軽く話しをしている



流石にジェシカも分別を弁えているらしい

名残惜しそうに


「お兄ちゃん!あたしが応援してるから

負けてもいいけど怪我しないでね!」


何の応援なのか、わからないが

ドグマよりマシだろう


「………あなたは適当にやってればいいわ

お兄ちゃんと当たる時だけ集中してなさい」

冷たく言い放たれる



信頼されているとも呼べるが



「ドグマさんは優勝を狙っているんですか?

俺は恥ずかしながら、参加賞目当てで………

勿論、わざと負ける気は無いんですけどね」


改めて人に言うと情けない話しだ




「参加の目的はそれぞれ、あっていい筈だ

どんな理由だろうと恥じることはない

私も立派な理由では無い

賞金欲しさだ。タダならこんなことやらんよ」


「………凄い自信ですね」



ドグマは控え室の白湯を飲みながら


「私が優勝するのは決まっている

最大の障害の君にも、勝って良いと

お嬢様に、許していただいたからな」



………ジェシカが俺には負けるように

事前に言っていたのか?

しかし俺が参加する事は、知らないようだった



しかし、他の選手も居る中で優勝宣言とは

その自信は羨ましくもあり、少し悔しい


「でもドグマさん、強い人も出ますよ」


この人はヴァネッサの事を知らないんだ

彼女なら、この人にも勝てるだろう

そう思っていると



「ヴァネッサ.ローか………

彼女に会うのは、怖くもあり

楽しみでもあるよ」

男はニヤリと笑い


「え?バネッサ.ラウじゃ無いんですか?」




「………………」


男は額に手を当て

「………ああ!ヴァネッサ.ラウだったな

君の発音が少し、おかしいから混乱してしまったよ」


「自分では発音しているつもりですけど

最近は彼女も、指摘しなくなったので

直っているものと思ってました」



クソ!とんだ恥をかいた

全面的に俺が悪いのだが、そもそも

この人がローと言ったから………


「君はヴァネッサの知り合いなのか?

彼女は元気でやっているか?」

その口ぶりはやはり、彼女の事を知っているのだ



「ええ、今居候させてもらっています

元気ですよ。たまに怖いですけど」


ドグマは、そうか………と呟き頬を緩ませる




「クヌギ.イシノギ選手!ウィド.カーセル選手!

次の試合なので準備をお願いします」

係員の指示が出る


呼ばれて反応した人を見る

強そうだ………俺とは違い、

参加賞目当てでは無い事は一目瞭然だ


相手は俺を睨みつけ

足早に控室を後にした




もう時間なのか、案外早かった気がする



大きく息を吐く


刃物石器類は禁止なので

控室には様々な木製武器が、用意されていた

短剣は使えないし、使うつもりも無い


俺はいつも通り、ヴァネッサに貰った木の杖

事前に係員の許可は得ている。



「それじゃあドグマさん………

俺そろそろ行きますね。

ドグマさんと話してて、楽しかったです」



ドグマは驚きながら


「君は凄いな………

これから格上に挑むというのに

落ち着き払っている」


「いや怖いですよ。俺は全然弱いですから」

ドグマは立ち上がり俺の肩に手を置き




「今の君は確かに弱い。

自分で弱いと決めつけているからな

だが精神面では………私も含め、

君は誰よりも強い。それは君だけの武器だ」


彼なりの助言だろうか

ヴァネッサも以前、似たような事を言っていた



「君の精神力で

君が自分を強いと………卑屈にならず

自分自身を信じてやれたなら

格上は君じゃないか、と私は見る」



何故だろう………ヴァネッサに褒められたような錯覚

今更ながら、口調まで似ているな



しかし、例えお世辞だとしても

自分を認められた事が嬉しい

男に触れられた肩が熱い



「ドグマさん ありがとうございます!」

俺はゆっくりと控室の扉を開ける


控室の人達に軽く頭を下げ

扉を音を立てず閉じる








彼は確信した

 2回戦進出おめでとう

男は心の中で嬉しそうに呟く




「………見に行ってみるか」

クヌギ.イシノギが勝つだろうが

力量次第によっては

怪我をさせないなど不可能になる


その時は………









俺が20メートル四方の石畳に上がると

パチパチとまばらな拍手がおこる


1回戦程度……観客もまだまだ

ヒートアップしていないのだ



客席を見渡すと人の入りは満員だった

しかし(ほとん)どが、雑談に興じている

俺達の試合に興味などないかのように………



別々の場所から一際大きな声援が2つ


「クヌギ君〜!が〜ん〜ば〜れ〜!」

「お兄ちゃーーん!あたしここにいるからねー」



1つは声援では無かったが

二人の声は、俺の心に喝を入れるには十分すぎる



「おい!開始直前に

キョロキョロと緊張してるのか?」


俺が振り向くと、

対戦相手が俺にイチャモンをつけてくる



「緊張……?多分緊張してるよ」

「へっ ビビリが。すぐ終わらせてやる」




多分緊張しているんだろう

平常心なんてまるで無い。


ミカは1人必死に応援してくれている


その隣の観客はどちらが

勝つかで盛り上がっている



ジェシカも1人………いや3人並んで応援してくれている

手足の包帯の取れた傷だらけの男と


外套を纏った見知らぬ女性………

こちらは元の声量が小さいのか 小さい声だ。

それでも精一杯の声を、発している事はわかる


ジェシカにもっと声を、出しなさい!と怒られている




遠くの人の仕草、1つ1つ把握できている

雑談の内容まで聴き取れる


集中力がまるでないのか、

それとも、集中力しすぎているのか………

どちらにしても、まともでは無い



異常な感覚………




中央へと足を運ぶ 

5メートル先の相手は腰を落としている




「開始!!」



声と同時、男は木刀を片手にツッコんで来る


俺は杖を………

杖は腰に差したままだった………間に合わないな



仕方ない




男の上段を躱しつつ、軸足を刈り取る

タイミングは俺自身が何度も味わった

間違えるはずがない



ダンッ!と音を立て

体から地面に落ち、男は急ぎ体制を立て直す



速すぎた………ドグマならもっとギリギリまで

引きつけて足払いを決めていた筈だ



雑談が小さくなる

観客の半分が、俺達の試合に集中し始める




もう一度だ


男は少し警戒したのか 俺との距離を測る



対して俺は無防備

両手を下げ男の一撃をただ待つ


男はジリジリと距離を詰め

木刀を横に薙ぎ払う




まだだ………1番スピードの乗った瞬間

俺の身体に木刀が当たる瞬間躱し

今度こそ!



トタン


男の剣は空を斬り片膝をつく



タイミングは良かった筈だが

リーチの差か、威力は皆無だ


もっと相手の力を利用できればいいが

今の俺にはそんな技術は無い




『自分自身を信じてやれ』

(ドグマ)の助言を思い出す



そうだった

俺は出来る 俺もやれる

ヤケにならず、もう一度………何度でも



相手が立ち上がるのを待ち

俺はまた無防備で迎え入れる




いや………

今度は自分から歩く

ゆっくり散歩でもするかのように




周りの音が聴こえない

ミカは黙ってしまっている

ジェシカも食い入るように俺を見つめている




男が3度目のダウンをした時


観客は誰一人として、雑談をしなくなっていた





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