小さな親切
「はぁ……はぁ……はぁ……ふぅ」
獣道をひたすら歩く
最初はヴァネッサが先頭。真ん中に俺
ミカが後ろについて、歩いていたが
俺があまりに遅いのか、今やミカが俺の前に付き
ヴァネッサは、先に行ってしまった
「大丈夫〜?もう日が落ちてるから
休憩できないけど、あとちょっとで
着くから頑張ろうね」
ミカは仕切りに励ましてくれる
その都度足に力が入り 獣道を突き進む
「お腹も空いてきたよね?
しいの実で良かったら食べる?拾ったやつだけど」
ハイっと差し出せれた木の実を
俺は乾いた笑みで受け取った
「歩くのも慣れてきたし……
水場についてからいただくよ」
しいの実が何かわからないが
俺にはドングリにしか見えない
食べ方もわからないので、受け取るだけにしておいた
きっとしいの実の記憶も、喪失してるのだろう……
それか俺が無知なだけだ
辺りは大部暗くなっていた
それでも山道を歩き続ける
「バネッサさんは怒ってるかな?
スタスタ先に行ってもう見えないや」
何よりそれが辛い
ミカもきっと内心、呆れているんじゃないかと
いっそ足手まといだったと 言ってほしくて
独り言のように呟いた
すると彼女はフフッと
笑いながらこちらを向き
「ヴァネッサちゃんは、そんな娘じゃないよ
気づいてた?さっきからずいぶん
歩きやすくなってない?
この森は人なんか、通らないから本来は
道らしい道なんてないんだよ」
彼女は後ろ歩きをしながら言った
言われるまで 気づかなかった
俺が少し前からから、足場の確認をせずに歩いている
歩き慣れたのではなく、ヴァネッサが先行して
歩きやすくしてくれていたのだ
「あと多分だけどヴァネッサちゃんに
さん付けしないほうがいいよ〜
つけると怒るんだよね〜
どんな反応するか楽しみではあるけど
少なくとも私にはやめてね〜。ミカでいいから」
彼女は変わらず 後ろ向きで歩く
するとそこへ
ザザッと音と共にヴァネッサが現れた
「おおっ思ったよりも 早かったな」
そんなはずはない。ヴァネッサは一時間ほどで
水場に着くと言っていたが
俺の体内時計が、正確かはわからないが
最低でも30分は オーバーしているはずだ
きっと気を遣ってくれたのだろう
だから俺は
「ありがとうバネッサ ミカも」
心から素直な気持ちを口にした
薄暗い森の中で
ヴァネッサの表情はわからなかったが
怒ってるようには見えなかった……が
「私の名前はバネッサではない
ヴァネッサだ ゔぁ!ヴァ!」
と何やら発音に関して 怒られてしまった
自分ではそう発音しているつもりだが
彼女からすると 出来ていないようだ
ミカは間でクスクス笑っている
俺がミカに助けてと目で訴えると
「あっ 名前といえば君じゃ呼びにくいから
名前考えなよ。仮でも良いから好きな名前付けちゃえ」
ミカはスルッと話題を、そらそうとしてくれた
それもそうだ
呼ぶほうは名前がないと
不便なんだろうと思い足を止める
すると少し落ち着いたヴァネッサが
「まぁ発音は後々直せよ
あと足は止めるな 余計きつくなる
もう少しで着くから頑張ろう」
と言い俺に 木の杖を手渡した
「今更かもしれんが
中々お前に合う木がなくてな」
そう言われてしっかりと握る
握り手は丁寧に皮が剥がされ
杖に体重を預けると
長さ太さが絶妙に合っている
まるで自分だけのための
杖なんじゃないかと、錯覚してしまうほどだった
「これは凄い
これがあればもっと早く行ける気がする」
そう言うとヴァネッサは 嬉しそうな声で
「まぁもう着くんだがな」
と先頭を歩き ミカはいつの間にか
俺の後ろを歩いてくれていた