転生への階段2
少女と同じ時間を過ごし
3日が過ぎようとしていた
もう限界だろう
少女は笑う事も、泣く事もせずに
ただ横になっている
時折
「櫟おにぃちゃん………ジェシカおねぇちゃん………」と
浮言を呟くのみ
私にはもう何も出来ない
いや、出来る事が何か、わからなくなっていた
何故少女の前に姿を現したのか
何故今も少女の前にいるのか
私に何があれば、この少女を救えたのか
私がこの見た目ではなければ、少女を救えたのか
答えは出ることは無い
もう時期この小さな少女は死ぬ
いずれこの事など忘れてしまい
私は何千年の時を過ごすのだろう
少女が口を開く きっと最後の言葉だ
「一緒に居てくれて………ありがとう
1人は………寂しいから………」
それは森に入った後悔でも無ければ
最後まで兄姉に会えない絶望でも無く
何も出来ない無能な 私への感謝であった
私は涙など流れない
そんな大層な機能は神に与えられていないからだ
しかしこの、言い知れない感情は一体何か………
私は大きく口を開ける
少女の体を、覆えるほどの大きさまで
その行為を、少女にはどう映るだろうか………
やはり魔物だと怯えるのだろうか………
その光景に少女は微笑み
「ずっと………一緒に………いてくれるの?
嬉しい………」
少女を一息で呑む
初めて会った時のように………傷つけないように
『ずっと一緒だから』
目から涙が溢れる
この涙は 私のものでは無い
少女の最後の願い………
私は確かに、この時望んだんだ
少女は一人目では無い
この少女を神々に捧げる訳にはいかない
森に火を放つ 広大な森一帯を焼き尽くすほどの大炎
少女が寂しくないように
森に住む生物を根こそぎ 灰になるまで燃やし尽くす
もう少女が泣かないように
森を草木の1本すら残さないほどの炎の海へと変える
少女が苦しんだ三日三晩燃え盛れ
この瞬間、私の身と心は精霊ではなくなった
人間を殺すのはただの作業だった
道に迷い、死にかけの人間を襲う
少しずつ………魔物の仕業だと思われないよう
場所も頻繁に変え、ただ殺す
殺す殺す殺す殺す殺す殺す
人が多い地域に火を放てば、簡単に事は済むが
過去の仲間達が、誰も成し遂げていないのを
私は識っている
この牙を持ってして、神に捧げなければならない
400を越えた頃に他の魔物も協力
してくれるように なっていた
現世の仲間………深淵に住まう仲間………
800人を殺した頃、ようやく気付く
魔物達は協力ではなく、私に従っていた事に………
私はいつの間にか 全ての魔物を従えていた
対等な仲間だと思っていたのは、私だけだった
考えれば無理も無い話だ
精霊と崇められ、魔物と蔑まれ
その2つを経験し、2千年に近い時を
生きている魔物は、最早私だけなのだから………
同じ魔物でも格が違いすぎている
一人は寂しい
ようやく少女の心を
少しだけ理解出来た気がした
千人を殺すのに百年以上の歳月を費やす
私には永いとは感じない時間
目的を果たせない事に比べれば………
最後の1人は不思議だった
慎重を期していた
私の目の前に不意に現れた青年
まるで瞬間移動でもしてきたかのように
丁度いい、お前にしてやる
私は口を開けその青年の首をかき切ろうとすると
「待て!お前の事はわかっている
まず話しを聞いてくれ!その後俺を殺せばいい
俺が最後の1人なんだ………
それからでも遅くないだろ!?」
話しを聞いて何になるというのか
私には人の言葉など喋れない。
あの時も 何も出来なかった!
聴くだけ無駄だ
青年の首を切る
ビューッと勢い良く血が吹き出し
返り血が私の身に触れ、蒸発していく
ヒューヒューと喉から音を奏で
文字通り命を振り絞って発した言葉
「……命…………ミ……かを…助………お前……が……………」
青年の遺言は
およそ聴き取れるものではなかった
さあ 神々よ!
私の望みを叶えろ!
私の一部となった少女の願いを叶えろ!
神々が答える
私は徐々に意識を失い、まどろみの中へ
思えば
あの青年はどうやって私の目の前に現れたのか
瞬間移動など神の技だ
人間程度に出来るとは思えない
あの男は私を知っていたのか………
彼は最後何を言おうとしたのか
目的を果たし冷静になれた今だから思う
意識が肉体に溶け込む
彼の言葉は聴くべきだった
それは俺にとって、致命と
なりかねない とても大事な話
遠くから神々が嘲笑を浮かべている
これから俺に起ることをわかっているかの様に
私という存在が消失していく
それでもこの想いだけは消さない
新たな心の片隅に想いをしがみつかせ
いつの日か思い出せるように
必ず少女を迎えに行けるように
記憶の残滓 願いと望み 完




