転生への階段
どれ程に昔だっただろうか………
千の魂を生命に返せ
千の肉を大地に返せ
千の骸を器に返せ
神々の気まぐれ 人間を千人殺せば
望み願いを叶えると
私は望みなど無かったので
その様な事に加担する気が無かったが
周りの仲間は皆食いついた
何百年と年月が流れ
千年を共に過ごした 私の仲間は皆消えていた
神々の口車に乗せられた仲間は
人間によって討伐されていった
くだらない事だ
新たに生まれた仲間もいたが
やはり人間を襲い、いずれ失敗し、消えていく………
次第に人間の前に姿を現すことを辞め
ひっそりと、暗い深淵で生きる物が出てきた
人間を恨むのはお角違いだ
殺られたからやり返した
私もわかっている
それでも失った仲間は戻ってこない
きっかけは覚えている
百年以上昔になるだろうか
森で少女が泣いていた
「おねぇちゃ〜ん おにぃちゃ〜ん」
森の中で迷ったのだろう
私にとっては見知った森だが
人の子………5つにも満たない少女が
自力で戻るには 不可能な場所に少女はいる
森で迷い絶望のうちに死んでいく
そんな事は珍しい事ではない
私は何を思っていたのだろうか
少女の前に姿を現す 少女は変わらず泣いている
私が手を引いて村まで連れていけば
この少女は助かるはずだ
それは不可能だ
私には手が無い
少女に村への帰り道を教えれば
あるいは生きて帰れるかもしれない
それも不可能だ
私には人の言葉は喋れない
せめて少女が寒くないように火を起こす
出来る限り最小限に 少女を傷つけないように………
少女は火を見ると泣きやみ 私に向かい
「………ありがとう」
小さく呟くと眠ってしまった
夜が明けた 私は変わらず少女の側にいる
少女は私を見ても驚かず
「おにぃちゃんを探しにきたの
でもおねぇちゃんがダメって言うから………」
私は頷く事しか出来ない
いや頷く事すらできているのか………
少女は昨日より弱っている どうにかしなくては
かなり遠くで音がする
人では到底聴こえないほど遠く………
私は少女の前から姿を消し
「行かないで!」
私が消えようとすると 少女が叫ぶが
この子を助けられるかもしれない
その声を無視し、音の方へと向かう
「アンーー!何処にいるの?
お姉ちゃん怒ってないからお願いだから出てきてー!」
アン………あの子の名前だろうか
探しにきたのは姉だろう
姿もあの子を成長させたような容姿だ
しかしこの子も小さい
周りに大人は居ないのか………
村人全員で捜索すればあの子を見つけられるはずだ
「アンーー!何処なのー?」
姉は構わず森の奥へと歩く
少女がいる場所とは見当違いの方向へ
私は慌てて姿を現す
『あの子はこっちだ 気づいてくれ 伝わってくれ』
姉は私の姿を見ると
「ま 魔物!?お兄ちゃん、た…助けて………
うぇえええん」
その場で泣き崩れてしまう
魔物
いつからだろうか………
私達は神までとはいかないが
人に崇められる存在だった
人間を襲ううち 次第に悪魔、魔物、怪物と呼ばれ
人々に恐れられる存在になってしまった
仕方ない………私は姉から姿を消し
少女の元へと帰る
少女は泣いている
しかし私が姿を現すと ピタリと泣きやみ
抱きつこうとしてくる
私の身は高熱で、できている
触れればこの小さな子は 無事ではすまないと思い
ヒラリと避け、少女は転んでしまう
しかし少女は笑いながら
「えへへ………また会えて良かった………
もう1人はイヤなの。ずっと一緒にいてくれる?」
このまま死に行く少女の願いを
私は聞き入れる




