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異世界無能者の観測記録  作者: ホムポム
第4章
36/123

記憶の残滓3

「はあ………はあ………」


2人で街を走る

少女は息も切らさずこちらを見ながら

速度を合わせてくれているように



二人組だった片割れ………傷だらけの男はいない


まともに動けてそうには見えなかったから

置いていかれたのか

鎧を着た中年だけがおってくる



付かず離れず 一定の距離を保ったまま

こちらと同じ速度で向かってくる



いつの間にか街を抜け、それでも走り続ける


ここは何処だろうか。俺は街の外には出ないので

さっぱりわからない場所に来てしまった



野原……いや花畑とでも言うのだろうか

辺り一面綺麗な花が咲き乱れている



何故こんなにも悠長に景色がわかるのか

それは……俺が足を止めてしまったからだ


俺が必死に息を整えていると少女が近づく




「………大丈夫?もういいわよ」


何がいいものか 何も良くない

この少女は一緒に逃げてと言って

俺はそれを守れなかった



でも もう1つ………こちらだけでも守るから



「はあ………はあ………

ちょっとあの人と話しをしてくるよ」

俺は少女の頭を軽く撫で 男に近づく



男は自分からは近付こうとせずに

俺が来るのを待っている


いや 男の視界に俺は入っていない

少女が目的なのだと、態度で示してくる


「あんた……あの娘に用なのか?」



「貴様には関係ない事だ。遊びが済んだのなら

このまま消えてくれると助かる」


あくまでこちらを見ず、少女から視線を切らない



「あの娘は嫌がってたぞ 

無理矢理何かしようと、してるんじゃないのか!?」

この男の態度にも腹が立ち、つい声を荒げてしまう



「何度も言わせるな。貴様に関係ない事だ

そしてこれはお嬢様が嫌がろうとも

関係無くやらなくては、ならない事だ」



お嬢様?やっぱり何処か金持ちの娘だったのか

何か事情があるのかもしれないが


少女は俺に助けてと言った 

それだけは俺は守るから




「お嬢様にいくら貰った?

もう十分働いただろう そろそろ消えろ」


その言葉に俺は500ルドンを投げ捨てる


「金の問題じゃない!俺の心の問題だ!

俺はあんたからあの娘を助ける」



頭にきた 拳を握り男に殴りかかる

しかし俺の拳は届かず、反対に俺は地面に転がされる


男は腕を組んだまま動いていない

何が起こったかわからない。それでも俺は

また男を殴ろうとし、また地面に転がされる




何度も転がされてやっとわかったがある

男は拳を避けて瞬時に足を払っている

それも最小限の動き 力で………


俺とこの男の差は歴然だ


どんな事をしても勝てない

底知れなさはヴァネッサと同じに感じる


そして男は俺に全く興味がないのだ

俺が謝って帰れば 多分見逃される



少女を犠牲にするなら

(それだけは俺が絶対に許さない)



………


俺は懐に手をやる



それに気付かない男では無い


「辞めておけよ………刃物を出したなら

俺も手加減できるか わからんぞ」


その脅しに俺はピタリと手が止まり

ひと呼吸おく



俺は素早く短剣を鞘から抜き

「うッ……」

その刃を見た俺の動きはとまる



短剣は今にも溶け落ちそうな程の熱を帯び

刃からは極上の獲物を前にした 獣のように

溶鉄のヨダレを滴らせる

俺の一声を………今か今かと待ち望んでいる



これはヤバいやつだ



ミカはお守りにはちょうど良いと言っていたが

護身ぐらいでは済まない……この短剣を使えば

今いる男、少女、この花畑すらも

無事でいることができるだろうか



その短剣の禍々しさに気付いたのか 


「まて…その短剣は使うな

使わせる前に貴様は殺せるが

万が一にもお嬢様を 危険な状態にしたくは無い」


片手をこちらにやり 静止を促す

「じゃあ あの娘を追いかけ回すのを辞めろ」



「それは出来ん こちらも事情がある」


このままでは平行線だ

男もそう思ったのか不意に跪き


「お嬢様!発言をお許し下さい!

時刻が迫っておりますので どうかお戻り下さい!」


男は少女に向かって言っている 


あの娘の前では

この男は発言も出来無い関係なのか?



それを聞いた少女は力無い声で

「もういいわよ。お菓子も食べ終わったし

飽きたから、そろそろ帰るわ」



少女は俺の元に駆け寄ると

「あなた弱すぎるからあんまり

暇潰しには、ならなかったわね」



笑いながらパンパンと俺の土汚れを軽く払い

俺の投げた硬貨を拾い渡すと

そのまま男の方へと歩き始めた


少女は最初から俺をからかっていたのだ

怒ってもいいはずだ。俺の心を踏みにじったのだから



俺は拳を握り




「本当に済まない………ジェシカ

また俺は………お前を守ってやれなくて」

涙を流しながら少女に謝っていた




俺は何を言っている?

ジェシカ………誰の名前だろうか

少なくとも俺はこの娘に名前を聞かされていない

それに………また?



俺が自分の言葉に混乱していると



「………お兄ちゃん?

そうよ!あたしはジェシカ!ジェシカ.ドーソン」

少女は振り向き 俺に抱き着いてきて


「やっと見つけられた………

今度はあたしが守ってあげるから心配しないで

今日はもう時間が無いのが残念だけど

また会えると良いね。バイバイお兄ちゃん」



俺の頬に軽く口づけをし

少女は去って行った




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