2+対1
気のせいか
ミカが俺を見る目が冷たい………
多分気のせいでは無いだろう
「ち 違うんだミカ
頭が真っ白って意味で決して………」
ヤバい………自分で墓穴を掘りに
行っている気がする
後ろをゆっくりと振り向くと
ヴァネッサはニヤリと笑い
「つまりクヌギは何も見ていないんだな?」
ミシッ
掴まれた肩が軋みをあげる
「見てません。暗くて
何も見えませんでした!」
吐いてたまるか
鎖骨の一本ぐらいくれてやる
焔狼のおかげでバッチリ見えていたが
嘘をつく事にした
第一ミカが滑り降りて来ると
知っていたら、俺だって目を背けていた
ミシッ
さようなら俺の鎖骨
次はもう少し丈夫になってくれ
「もういいよ
クヌギ君もヴァネッサちゃんも無事だったし」
天使だ
こんな俺の見え透いた嘘を
信じてくれるなんて………
ヴァネッサが俺の肩から手を離し
「まぁ冗談はさておき
ミカ ロープは、やはり足りなかったか?」
「ロープ?何処にあるの?」
ヴァネッサが一瞬固まった
「私が行くから後からロープで
降りてこいと言っただろう!」
ミカはキョトンとして
「ああ〜。だからバッグ投げ捨ててたの?
私持ってきちゃったよ」
バッグをそのままヴァネッサに返し
「どうやって戻ろうか〜
結構傾斜あったよね?」
あっけらかん としたミカに
「………私が先に登って行くから
合図したら二人共登ってきてくれ」
ヴァネッサは突き刺してあった
鉄の棒をひねると
50センチほどに縮み腰へ付ける
そのまま坂道の暗闇に消えてしまった
「………」
「………」
何か気まずい
何でも良いから話題を………
「なぁミカ。この短剣
知り合いに術をかけてもらったんだけど
何も変わらなくてさ、何かわかる事はないかな?」
俺は短剣をミカに差し出す
スイマセン イーディスさん
誰にも言うなと言われてたけど
名前は出しませんので勘弁して下さい
ミカはその短剣を鞘から抜き 刃を触ると
「お〜 これ魔法が付与されてるよ
あんまり凄いものじゃないけど………
お護りには丁度良いかも」
ハイ と俺に短剣を返す
イーディスさんも魔法とか言ってたな
「ミカ 神術と魔法って何か違うのかな?」
一緒だと思っていたが そうとは思えなくて
「名前の通りだよ神術は神様から
魔法は悪魔さんから力を貸してもらうの
でも悪魔さんは人間が好きだけど
ほとんどの人間に嫌われてるし
あんまり人には力を 貸さないから珍しいんだよ」
ミカは少し悲しそうに呟く
「ミカも魔法ができたりするの?」
「やらないよ でも神様達とお喋りしてると
時々混ざってくるから楽しいんだよ」
できる できない ではなく、やらない
俺はその意味を深く考えず
神とお喋り………か
イメージだと凄く仲が悪そうだが
神と話せるミカが言うんだから間違いないんだろう
「お〜い!ロープはみえるか?
私が引っ張るから上がってきてくれ」
暗闇からヴァネッサの声が聴こえた
俺は暗闇の中から手探りでロープを探す
すぐに縄の感触があった
「ロープを掴んだ」
ヴァネッサにそう叫ぶと
背中に何かがしがみついてくる
「………え?」
考えるまでも無くミカだろう
ここで焔狼の生き残りがいたら俺は死んでいる
「2人同時に掴まって
ヴァネッサちゃんを困らせてあげよ!」
名案だ
ヴァネッサには先程してやられた感がある
俺は少し前に出て ロープにすべての体重を預け
ミカも同じようにロープを掴んでいるだけ
自分達で登る事を辞めヴァネッサに
ひきあげて貰う事にした
スルスル スルスル
俺たちは一定の感覚で 引き上げられていく
きっとヴァネッサは俺達も力を入れて
登っているぐらいにしか 思っていないはずだ
………悔しい
ミカも同じ考えだったのか
2人同時に腰を落とし、地に根を張る
そしてロープを逆に引っ張る
綱引きだ
幸い重力も手伝ってくれている
しかもこちらは2人
ヴァネッサをこのまま奈落へ引きずり落としてやる
「ぐぬぬぬ……」
「うぅ〜……」
それでもジワジワと引き上げられる
いっそのこと手を離そうか とも思ったが
大人しく引き上げられる事を選択した
「私が言うのも何だが あまり遊ぶなよ」
1言そう言うと、俺に杖と松明を渡してくれた
「拾ってくれてたのか。ありがとう」
この杖は、ヴァネッサに貰ってから
常に持ち歩いている相棒みたいなものだ
あまり物騒では無いのもポイントだ
結局この後更に奥へ進んだが他の
怪物はおらず、俺達の仕事は終わった
「ヴァネッサちゃんどうしたの?」
ヴァネッサを見ると
少し考え事をしているように感じる
「いや……あの程度で4組も
失敗するものだろうかと、思ってな………」
「ん〜 クヌギ君が落ちた場所には
焔狼が沢山いたんでしょ?
一気に襲われたら普通の中級の人は
ひとたまりも ないんじゃないかな?」
まるでヴァネッサが 異常な人みたいな言い草だが
みんな彼女みたいな人ばかりなら
俺は一生中級には なれないだろう




