戦鬼
「何も居ないな………」
もう洞窟に入り20分程の時間がたっている
どのくらい歩いたのだろうか?
慎重に歩を進めているためか
見当がつかない
「まだ800メートルほどだからな
ダークモールが拡げたかもしれんし
深さはわからんな」
「バネッサ距離測ってたのか?」
「あまり役にたたんがな。癖みたいなものだ」
歩いただけで………この暗闇を
平坦な明るい道ですら 俺には無理だ
松明は俺とミカが持っている
先頭のヴァネッサには必要ないらしい
「灯りで気づかれるからな
奴等は不意打ちで殺るのが1番楽だ」
とか言っていた
ふと思う
「バネッサって弱点とかあるの?」
いきなり本人に聞くのは怖いので
ミカに聞いておく
ミカは閃いたように笑い
「やっぱり気になるよね
あるんだよ〜これが
「聴こえているぞ」
ヴァネッサにも聞かれていた
ヴァネッサが近づいてくる
「クヌギ!私の弱点を知りたいのか?」
「い いや知りたいというか
何でも出来すぎて逆に
できない事とか、あるのかな〜と
お 思い………まして」
松明に照らされた ヴァネッサは怖い
とにかく怖い
ヴァネッサは軽く溜め息をつく
「私は何でもはできんよ。出来ない事のほうが多い
たまたま、今の仕事が自分に合っていた
だから、クヌギには何でもできるように
映ってしまうんだ」
少なくとも俺には
出来ない事など無さそうに
みえるが本人が言うなら、そうなんだろう
俺がコクコクと頷くとヴァネッサは
先頭に戻ってしまった
後でコッソリ、ミカに教えてもらおう
………ん?
この土って………何か違和感がある
ヴァネッサが見落とすとも思えず
俺はその窪みを、遠慮なく押し込み
「ど………うわぁぁああ」
土が崩れ俺は受け身も取れず
上下左右わからないほど洞窟内を転げ落ちる
左手の松明を手放す
右手の杖も落としてしまい
ようやく勢いが弱まり
頭から地面にダイブする
転げ落ちた先は、とても開けた場所だった
松明の明りなど要らないくらい光 輝いていた
何故なら
煌々と燃えさかる
焔狼の群れがいたからだ
10………15………
ヤバい…1匹でも不意打ち以外は
無理なのに、この数はダメだ
咄嗟に懐の短剣をとる
イーディスさんは
どうしようもない時に願えと言っていた
今以外はない
短剣を鞘から抜く
焔狼の1匹が牙を剥き出しにして迫ってくる
関係ない。後は願うだけだ
俺のほうが絶対速い
俺を守れ!
何も起こらない
考えるまでも無く当たり前だ
それは俺の言葉でもなければ
(俺の願いですら………ないからだ)
焔狼は目の前に迫っている
クソッ!また首狙いか!?
俺は両腕で首をガードし瞼を閉じる
ボシュッ
何かが弾けた音がした
俺は恐る恐る目を開ける
「首を守るまではいいが
目を閉じるのは いただけないな
術士以外メリットはないぞ」
「バネッサ!」
俺に向かってきた焔狼は
首から上が消し飛んでいる
ヴァネッサの手には、長さ1メートル程ある鉄の棒
歩いているときは50センチ程のだったのが
今は1メートル程に伸びている
ヴァネッサは俺を中心に 半径30センチの円を描く
「クヌギ………この円から絶対に出るなよ
もっと色々、教えたかったんだが………」
すまない と己の不甲斐なさを恥じるように
「バネッサ………ダメだ」
死ぬ気なんじゃないのか?
俺が不用意に壁をふれたせいで………
ヴァネッサまでが危機に陥っている
「クヌギ………最後だ
円から出るな。そして
決して眼を閉じるなよ!最後まで見ていろ」
駄目だ ダメだ。だめだ!
短剣が燃え盛る
俺はそれに気付かない
ヴァネッサは軽く跳ね
そのまま地に脚を
消えた
「………え?」
ヴァネッサが視界から消える
完全に見失った
見失ったのは焔狼も同じのようだ
突如視界から消えたヴァネッサを探そうとし
その体を 消し飛ばされる
三匹同時に焔狼の上半身は この世から消滅した
一瞬だけ、ヴァネッサが見えた気がした
また見失うと同時に 別の焔狼2匹が弾け飛ぶ
焔狼の群れは俺の仕業と見たのか
5匹同時に、俺に襲いかかる
防ぎようがない。ならばせめて
眼を閉じないように、焔狼を睨みつける
牙は俺に届く事はなく
爪は俺を裂く事なく
代わりに大量の返り血を浴びる
熱い………火傷しそうなほどの返り血
「………チッ」
短い舌打ちが聴こえた
同時にやっとヴァネッサの姿を捉える
俺の姿をチラリと確認すると
鉄の棒を俺の前に突き刺す
そのままスタスタと
無防備に残りの焔狼に近づき
2匹同時に手刀で 首を突き刺した
残り2匹は逃げようと背中を向けるが
逃げ場などない ヴァネッサに頭を掴まれ
グシャッ ゴシャッ
鈍い音を立て頭を砕かれた
「クヌギ 終わったぞ」
ヴァネッサは手を拭いながら
俺に布を渡してくれた
「今のうちに拭いておけ
奴等の血は 放っておくと火傷するぞ」
「あ………ああ………」
上手く言葉が出ない
ヴァネッサが俺の前に腰を下ろす
「すまなかったな。目を離さないと言って
このザマだ。流石にあの数はクヌギには早い」
「あ……あの………あ」
クソ!呂律 俺の呂律頑張れ
「お 俺の………せいで………バ………ネサ 危険に」
振り絞って声を出す
聞き取れなかったのかヴァネッサは
「クヌギ…私が言ったことを覚えているか?」
「え……円から………出な
眼………と………閉じな………」
俺の頭はパニックを起こしている
ヴァネッサが消えたと思ったら
焔狼が一瞬で全滅したのだ。冷静でいられる訳がない
ヴァネッサが俺の両肩を優しく掴み
後ろを向けさせる
「そうだ!よく眼を閉じなかったな
だが、まだ終わってないぞ
今度もしっかり見ろ」
俺が滑り落ちた場所を指差すヴァネッサ
喋れない俺は頷き、集中して暗闇の坂道を見据える
………何があるんだ
いやヴァネッサが眼を閉じず見ろ。と言ったんだ
俺にできる事は瞬きすらぜずに
彼女を信じて暗闇を見るだけだ
………声が聴こえる
段々と近づいてくる
「キャアアアア」
ミカが滑り降りて来たのだ
「っとと あ〜思ったより
長くてお尻痛いよ〜」
最後はピョンとジャンプし 上手く着地を決めたミカ
「クヌギ君!ヴァネッサちゃん!
私が来たからもう 安心していいよ!」
ミカはビシッとポーズを決める
「………………」
「………………あれ?もう終わってる?」
「クヌギ………感想は?」
「………真っ白でした」
冷静になれた俺は ミカに引っ叩かれた




