精神集中
「あ〜!ここ知ってるよ
初めて私が怪物退治したとこ」
ミカが地図を見て 驚きの声をあげる
「ダークモールと言っていたな
恐らく奴らが居なくなった後に
そこに住み着いたんだろう。深さや広さはわかるか?」
ヴァネッサは何やら ミカと相談している
何となく 聞きながら歩いていると
「クヌギ!お前も参加しろ
自分だったらどうするかを考えるんだ」
「ああ………ゴメン」
そうだった
二人とも俺の為にやってくれるんだ
俺が1番頑張らなくては、いけないのに
「まぁ今回は戦闘を中心に教えるから
それまではリラックスしてても構わんがな」
「今のうちに 集中力を高めるんだよー」
………どっちなんだ
「なぁ………仮に…この後戦闘が始まるとして
今のうちにリラックスするか集中するか
どっちがいいんだ?」
ヴァネッサは顎を撫でながら
「中々難しい質問だが、即 切り替えられるなら
今のうちにリラックスしたほうがいいだろうな
集中力というのは思ったよりも、もたない」
「すぐに切り替えれるかな?」
正直不安だ
俺は多分器用な方ではないと思う
「私の見立てではクヌギは
簡単に切り替えれるタイプだ
その1点に限れば 多分私より速い………中々居ないぞ」
ヴァネッサに褒められたのが
異様に嬉しかった
「ね〜ね〜 ヴァネッサちゃん私は?私」
ミカが自分を指を差して
評価を待っている
「ミカは………そうだな………
そのままで、いいと思うぞ」
答えになっていない評価だが
「そうでしょ!良いでしょ!」
ミカはそれで通じたのか ご機嫌だ
「そろそろ着くぞ
確認されているのは焔狼
狼の怪物だな。体格は普通の
狼と変わらないが、警戒しだすと
赤いたてがみが燃えさかる
警戒される前に仕留めるのがベストだ
今回はクヌギがやるから
出来るだけ不意打ちで倒せ」
俺がやる………一気に緊張感が増してきた
「クヌギ君、術かけとこうか?」
ミカの術はありがたい
あれがあれば多少無理をしても大丈夫だ
しかし
「術は今回は無しだ」
ヴァネッサが拒否した
「え〜 何でー?危ないよ?」
「クヌギは多分術の補助が
あれば無茶をしだす。出来るだけ
無茶な戦い方はしてほしくないんだ」
確かにそうだ。今は良くても
ミカが居ないと何もできないのでは
意味がない
「バネッサの言う通り
今回は術無しで頑張ってみるよ」
その言葉に、ヴァネッサは感心したように
「よく言ってくれた クヌギ
今回は私も目を離さないからな」
今回は………
森での狼のことか、それとも野盗のことか
「ヴァネッサちゃん!ここ
何か、引きずった跡があるよ〜」
それを聞き土を触りながら
確認するヴァネッサ
「足跡は2つ………か………重さは30キロ前後
………近そうだな」
そう言うとヴァネッサは腰を落とし
音も無く歩き始める
俺も見よう見真似で、出来るだけ
杖をつかず、音を立てず歩く
ジャリ…パキパキ
それでも………どうしても音がしてしまう
「クヌギ君、小枝を踏まないように歩くんだよ
裸足が1番だけどね」
ミカが小声で助言をくれる
先程よりは多少 音がしなくなった
「2匹か………獲物を巣に持ち帰る途中のようだな
丁度いい。クヌギ気付かれない様に
出来るだけ接近して、ぶちのめしてこい」
ヴァネッサ先生の ありがたいアドバイス
「気付かれたら?」
「途中で気付かれる。だろうから
警戒される前に1匹は殺れ」
焔狼が2匹、鹿を引きずりながら歩いている
俺はゆっくりと、焔狼との距離を縮める
15メートル
気配の消し方 何て物は知らない
(せめて呼吸だけでも殺す)
10メートル
焔狼はこちらにまだ気付いてない
(杖を握りしめ更に近づく)
7メートル
これは何処まで近づけば良いのだろうか?
まさか触れるまで近づく必要もあるまい
ヴァネッサにそのへんの事を………
(焔狼と目が合う)
ここからは気付かれても問題無いはずだ
俺は大地を力の限り踏みしめ、焔狼に突撃し
まだ気付いてない焔狼めがけて打ち下ろす
獲物に夢中だったのか、俺の渾身の一撃は
焔狼の後頭部を直撃する
「ギャアフ………」
焔狼は倒れ込み ピクピクしている
「ガアアアッ」
残った焔狼が唸りを上げ
たてがみが更に赤くなり周囲の気温が上昇する
焔狼が戦闘態勢に入る
俺は杖を握り直し焔狼の一撃に備えるように
腰を落とす
焔狼が突進してくる
俺は素早く杖を振り下ろすが、間に合わない
俺が振り下ろす速度より
焔狼が俺の喉笛を噛み千切る方が早い
「ギャンッ」
という声を上げ
突如 焔狼が真横に吹っ飛ぶ
「上手いこと1匹は仕留めたな
ほら前へ出ろ。私が狙われたら意味が無い」
そう言ってヴァネッサは俺の背中を押す
俺が危険だと思ったのか
横から助太刀てくれたのだ
焔狼は何が起こったのか分からないまま
再度俺に向かって突進してくる
さっき首に飛びついて、きたのだから
また首に来るだろうと思い
今度は杖で押すように
先程のスピードより 断然遅い
焔狼の眉間目掛けて 杖で突く
「ガフ………」
カウンターで入ったからか
先程の焔狼と違い今度は
ピクリともせずに 地に伏した
「やった………!?」
俺が後ろを振り向くと
腕を組んだままのヴァネッサが頷いている
「おぉ〜 やったじゃん!クヌギ君!
凄いよー。一撃必殺だったねー」
ミカも喜んでくれている
「稀に死んだふりをする小賢しい奴もいるからな
今回は大丈夫だが、とどめを刺してから喜べよ」
「ああ………そうだよな」
俺は倒れた焔狼の喉元に短剣を刺し
もう1匹にもとどめを刺した
「お疲れ様。思った以上に上出来だったぞ」
ヴァネッサが嬉しそうに拍手を送る
「でもバネッサが途中で助けてくれなきゃ
どうなってたか………ありがとう」
俺だけだったら多分 殺られていただろう
「思ったより早く終わっちゃったね〜」
ミカは少し残念そうにしていたが
「いや獲物を巣に持ち帰ろうとしていたんだ
まだ沢山いる筈だ。良かったなクヌギ
まだまだ練習できるぞ」
ヴァネッサは嬉しそうに俺の背中を叩く




