罪の謝罪
男は持っていた棍棒をゴトリと落とし
「な、何であんたが……積荷の襲撃だって
あんたがいないことを、散々確認させていたのに」
男は怯えながらもヴァネッサに質問する
「積荷の事なんて 私は知らんよ
先程も言ったが そこに倒れている彼……
お前の足元に居るやつだ。知り合いなんでな
もう殴らなくていいのか?」
ヴァネッサもまた男に質問する
「え……あ……あぁ。兄ちゃんすまなかったな」
男はそう言うと
俺から飛び退くように後ろに下がる
ヴァネッサが俺に近づいてくる
呆れたように見下ろす彼女に対して
「ヴァ……ネッ……サ あり……が……と」
口の中が切れていて 思うように喋れない
しかしそんな
俺の言葉とも取れない言葉を聞いて
何故か少し嬉しそうに
「仕方のない奴だ
少し苦いかもしれんがこれを噛んでろ
葉を飲み込むんじゃないぞ
葉の汁と唾液だけを 飲み込むんだ」
彼女は俺の口に葉を咥えさせる
「ゆっくりで良いから
味がしなくなるまで噛むんだぞ
その後は鼻にでも詰めておくといい。止血になる」
薬草というやつだろうか………
噛んだ瞬間口いっぱいに苦味が拡がり
吐き出しそうになるが
怒られそうなので何とか 我慢して噛み続ける
ヴァネッサが 吐き出すなよ と言わんばかりに
見守っていてくれる
この苦味を飲み込むのは無理かも……
と言おうとした時
「おい」
ヴァネッサが険しい顔つきになり、声を出した
俺は慌てて草の汁を飲み込んだ
「その短剣は連れの物だろう?
何だ 自害する為にでも拾ったのか?」
ヴァネッサは俺を見ていて
男が何をしているかなんて わからないはずだ
しかし森での夜 彼女は気を張っていれば
テントの中での状況でも わかると豪語していた
見ると男は、蹴っ飛ばされた短剣を握っていた
後ろを向いているなら
あるいは殺れるかもしれないと……
「あの……すいません!
か か 返そうと 思って!」
男はバレバレの嘘を吐く
「そうか今回は信じよう ただし次に嘘と
私が感じればお前は私の敵だ。理解できるな?」
ヴァネッサは男に近づき
男はコクコクと頷き
短剣の柄をヴァネッサに差し出す
「さて……あとはお前だな。実を言うとお前達野盗が
積荷を奪うのは、自分の生活の為だということは
一定の理解をしているつもりだ」
ヴァネッサは意外なことを言い出す
「生きる為に悪事を働き………それを追ってきた者を
返り討ちにしただけ……はっきり言って
連れの行動は、自業自得だと思ってるくらいだ」
見逃してくれると思った男は
緊張が緩み安堵の表情に変わり
彼女の言葉に相槌を打ち始める
「それで……
行商の娘を攫って辱めた理由は何だ?
生きる為に必要なことなら言ってみろ!」
今まで静かな口調が怒声に変わる
「すいません!許して下さい!」
男は両膝を床につけ
両手を結び 祈るように すがるように
ヴァネッサに懇願する
ヴァネッサはため息をつきながら
男の後ろに周り両肩を掴む
「お前はわかっていないな………
私ではないだろう?」
男を無理矢理、女性のいる方へ向けさせられる
「彼女だ 彼女が許してくれるまで謝るんだ」
「安心しろ 私が手伝ってやる」
男の肩が軋みをあげる




