始まりの記憶
案山子が居る…………不出来で精巧な……
…………
思い出せ…………思い出せ…………
間に合わなくなる
あの案山子は……俺の大事な女性
何より優先すべき存在
思い出せ……あの悲しみを…………怒りを……
「あぁァァァァ!」
布団から飛び起きる。
「夢……じゃない。」
俺の心を侵食……違う。
割れた心から溢れる想い。
村を護ろうとした所を不意打ちされ……
ミカが殺される。
「ミカ?」
ミカは何処だ。ここは……村長の離れ……
何処だ?どのタイミングで思い出せた?
家を出ると……彼女が居てくれた
空を見上げボンヤリとしている
「………ミカ」
彼女の姿。名前を呼んだ瞬間涙が溢れる
生きていてくれている。
「おぉ〜!クヌギ君おはよ。早起きだね〜
……っとと?どうしたの?」
ミカに抱きつき涙を流す。止められない
「うぅ……ミカ……良かった……生きててくれて」
「ちょ……クヌギ君どうしたの?もう朝だよ?
お日様も見てるよ?おじいちゃん達も起きてくるし」
ミカは恥ずかしそうに、
俺を離れの家へと引っ張り込む
…………
「ハイ!どうぞ〜」
離れの家に入るとミカは両腕を拡げ
俺を迎え入れてくれた。
「……ミカ!」
改めて抱きつくのは恥ずかしいが
この気持ちは……溢れる想いは止まらない
「よしよし。大丈夫だよ〜。
私は死なないよ〜」
「! そうだ!今日は……この村に……」
続きが言い出せない。
俺がこの村に来たのは2回
1回目は夜明け前に出ている。
……つまり
ミカが俺の頭を撫でながら
「うん。今日は冒険者の人達が
この村に来るから話し合って
村の現状を解ってもらうの」
今日。冒険者はこの村に来る
冒険者……その名称を聞くだけで吐き気がする
アイツらは不意打ちでミカを殺した。
何度も……何度も!
俺はミカから離れ改まり
「ミカ……アイツらは話し合いなんかする気は無い。
不意打ちでみんな殺される。
だから……ここから逃げてくれ」
「クヌギ君どうしたの?
昨日は話し合えば解るって」
「……話し合う気がないんだ!
ミカ……頼むからここから逃げてくれ」
俺は頭を下げ頼み込む
未来から来たと言って信じてくれるか?
「クヌギ君……私が逃げたら、この村は助からない。
だから私はこの村に残るよ」
ミカは強い意志をもってハッキリ告げる
「それに斡旋所の人達は皆知ってるから
酷い事はしないはずだから、
クヌギ君は気にしすぎたよ〜!」
「……ミカ。神様の声、聴こえているか?」
俺の問いにドキリと胸に手を当てる
「……知ってるの?昨日の夜から
誰も私と話しをしてくれないの。
嫌われちゃったかな?」
ミカは悲しそうに顔を伏せる
「嫌ってはいない筈だ。俺も解らないが
貸したくても力を貸せないんだと思う」
森に居た神はミカの事を思っていた。
なのに神が力を貸さないことは矛盾する
ミカの表情が明るくなる
「そっか!きっとこの程度の事は
自分で何とかしろって、ことだよね!」
自分で何とか……
そうだな。自分で何とかしなきゃいけなかった
「……解った。俺はちょっと出てくる
絶対に戻って来るから」
ここでミカを説得するより
誰か協力者を……もしくは俺が皆殺しにするしか
「クヌギ君?」
ミカは心配そうな顔で俺を見る
「……俺がなんとかするから……心配しないで」
…………
…………
馬を走らせる。街へ向けて
「イーディスさん。イーディスさん。居てくれ」
彼は町に住んではいない。
何処に住んでいるかは解らないが
確実に協力してくれるのはイーディスさんだけだ。
使える術は全て使う。絶対に助ける
彼がどれほど強いのか、俺には解らない。
でも彼は他の誰より……何とかしてくれる……
安心感がある。
イーディスさんが居てくれたら心強い
問題は街に行き彼に出会えるかどうかだ。
街へ向かう途中。1人の男がヒョコヒョコと
杖を付きながら歩いている。
片腕をブラブラさせならが
「おい、待ってくれ。
街へ行くなら俺も連れて行ってくれ」
あの男は……村で畑を耕していた男。
それに加え……
「……野盗のボス?」
「……あぁ」
…………
男を後ろに乗せ事情を聞く
「村の人達は皆楽観視し過ぎだ。
冒険者を全く解ってねぇ。兄ちゃんもだ。
奴らは徒党を組んだら、犯罪者と同じだ。
報酬と正義の名の元に際限なくやり尽くす」
「俺も……村が襲われるのは解ってる。
村人全員。皆殺しにされる」
商人の荷物を狙い娘をさらい
ヴァネッサに骨を折られ。
腕を再起不能にされた野盗。
何の因果か今
俺はその野盗のボスと話しをしている
「俺はこんな俺でも
受け入れてくれた村を助けたい。
兄ちゃんも街へ行くなら……
俺がどうなっても、絶対に止めないでくれ!」
まさかこの人……
「…………あの商人の娘さんは元気にしてるかい?」
「たまに見かけるけど、元気だよ。」
男の表情は見えない。
しかし動かない片腕を抑えながら
「……そうか」
小さく呟いた。この男は何か隠している
そしてそれは俺には関係ない事で
最早、真実は何か……確かめる術などない。




