ファイアイーター
クヌギ.イシノギが過去へ飛ぶ
何万回と繰り返した同じ過去へ
精霊が佇む時へと。
その存在を見た青年はやはり同じ事を思う
この精霊に殺される前に
精霊に思いをたくそう。願いをたくそうと……
しかしその思いは突如、割って入った
次元の亀裂によって破壊される
「お兄ちゃん!!?」
「……ジェシカ?」
バシュリ
空間は小さな螺旋を描き
少女は視えなくなってしまった。
お互い一声交わしただけ
しかしその一声は、青年の思いを
変えるには十分過ぎた一声
何がこの世界に未練はないだ……
俺に未練は無くても……俺の中に居る俺。
お前にはあるだろう?
(……………………)
そもそも この精霊は俺だ
話せば分かり合えるなど、有り得ない
……俺は話しを聞かない
聞いたふりをして、いつも……いつも従わない
だったらこの精霊も……俺の話しなど聞きはしない
「力を貸してほしい」
クヌギ.イシノギが発した言葉……
それは目の前の精霊に向けてではなく
(…………少しだけな)
クヌギ.イシノギの中に存在する
石木櫟に向けての言葉
「精霊を……無力化させる!」
精霊が青年に気付く
燃え盛る火炎を自身へとしまい込み
『………………!?』
俺には何と言っているか解る
『お前か!?お前が私の一部を奪ったのか!?
お前の中に……微かに……確かに……』
俺が何と答えようとコイツは聞かない。
聞く気がないからだ
右手で短剣を抜き、逆手で持ち
自分の首元に向けて構える
……首だけは守る
左手を精霊に突き出し
人型の精霊がゆらりと姿を消し
空白の1秒
その1秒を……限界まで引き伸ばす
一瞬を刹那へと
(2時方向!)
「ッッツ!!」
ガキィン
牙と短剣が衝突する。
精霊は意に返さず姿を消す。
消してなどいない。
俺に見えない速度なだけだ。
ただ……俺に見えなくても
(俺には……しっかりと見えている!)
ギン ガキィン カキィン
青年の短剣を無様に振り回したかのような姿。
衝突音と火花だけが物語る
ブシュッ
「……フゥー」
突き出した左腕が裂かれた。
問題無い。ここからだ
腕からの出血。大地を滲ませ
刹那の反応速度
俺の中の声だけに意識を割く
ガキィン
俺の身体は俺の中の声だけに反応する
俺の心は
俺は現在と未来を繋ぐ者
俺は汝等の未来を照らす者
俺が言葉を標としたもの
俺が魂を寄る辺とせしもの
汝の魂を刻みしもの
俺が未来に刻みしもの
共に結び 力とならん
大地を滲ませた血液は呑み込まれる
魔物召喚
青年を主と認めた魔物だけがその召喚に応じる
魔物であり、人でもあるクヌギ.イシノギ
しかし、目の前に存在するのは
魔物達の王
どちらに従うと問われれば……当然
魔物の王に従う
しかし……クヌギ.イシノギを主とした魔物は
どうだろうか?
何万回と繰り返した無駄な時間
繰り返した末に……血を刻んだ魔物。
未来に刻む可能性のある魔物は
深淵より現世へと躍り出る
直径5センチの小さな火を纏った魔物
本来なら逆らえる立場ではない。
それでも来てくれた。
次の瞬間身が滅びようとも……
俺の声に……答えてくれた
魔物の出現に精霊が距離をとる
『……お前も私の邪魔をするのか?』
この精霊は魔物に手を出せない。
出せないはずだ
俺は絶対に見殺しにしない
ならば。精霊自身が魔物を殺す事は有り得ない
精霊は自身に秘めた灼熱を開放させる
腕に灼熱を纏わりつかせ
小さく……小さく……魔物には通用せずに
人間だけを殺せる威力まで押し殺し
「ヤバい!戻ってくれ!!」
慌てて声を出す
この魔物達は俺を庇いかねない
作戦は失敗だ。考える時間も少なかったが
コイツは魔物ごと俺を殺るかもしれない
この精霊は何故そこまで追い詰められている?
短剣が精霊の腕に触れ
ジュッ
一瞬で溶け落ち、俺の顔に灼熱が迫る
「…………クソッ……」
『ダメ〜!!
その人を傷つけたら 私怒るよ!』
その声は忘れてはいけない声。願った姿
俺にとっても……私にとっても……
「ミカ!」
『…………!!』
精霊も動きを止める
ジェシカが一瞬だけ見えた亀裂
3発の奇跡は兄と姉……そして妹までも引き合わせた
亀裂が小さくなっていく
『ちゃんと話しを聞かなきゃダメでしょ!』
ミカは人差し指を、届かない唇に当てるように
優しく叱りつける
精霊は涙を流しながら何度も頷いている
その涙は炎などでは蒸発しない
精霊の願いそのもの
バシュリ
亀裂が消え去り変わらない
中空がそこには存在していた
精霊がその亀裂を一瞥する
炎を全身に纏っているが殺気も無く
穏やかな表情をしている
『…………どういう事だ?あの少女……
転生か?この時代から来てはいない』
「解らないけど、俺の話しを聞いてくれ。
ミカ……あの子は殺されるんだ!
俺はそれを回避する為に未来から来た」
殺される。死
その言葉に精霊は憤怒の炎を滾らせる
『私の炎熱を使え。あの少女を脅かす存在は
全てを灰すら残さん』
精霊は俺の中に腕を潜り込ませる
「アッッツ」
俺の心に核が入った。
それは……とても熱く俺の空いた心を埋める
『お前は……私か?…………
私達はこの世界に来るべきではなかった。
元の場所で見守り続ける……
それだけしか……してはいけなかった』
精霊の後悔。その意味は俺には解らない
『私は……もう十分だ。
あの少女が居てくれた。
また出会えた。それだけで……』
核を亡くした精霊は姿を消し始める
俺と私の一部が一体と成す
1人の人間では無い……
一体の人間に
…………意識が遠くなる。
もう絶対に忘れない。諦めない
忘れても思い出してみせる
心を埋めた熱に想いを滾らせ
必ずミカを救う
必ず君に会いに行く
1から戻り 0を経由し 1と言う名の終局へと向かう
完 1 第0章 0%の鉄板




