100話
「……お兄ちゃん…………」
少女は亀裂が消えた空間を触り続ける
しかしそこは何も無い。変わらぬ中が存在するのみ
「…………」
銃口を中に向けて
ガチャ ガチャ ガチャ ガチャ ガチャ
殻の拳銃を撃つが先程の現象は起こらない
『なるほど……そう言う事だったのか』
暗い森の中。少年のような声が響く
『クヌギ.イシノギは欲深いよ。
ギリギリまで過去に飛ぼうとして
自分に喰わてたんだ。そりゃぁ記憶もなくなるよ』
少女が拳銃を下ろし空に向かって問いかける
「どういう事よ!あたしはわかんないわよ!」
『彼はずっとやり直してるんだ。過去を。
僕には何で彼が失敗し続けるのか
原因が解らなかったけど、今解った。
君のおかげだ。ありがとうジェシカ.ドーソン!
次に彼が来たらアドバイスするよ。
「あんまり過去に飛び過ぎるな」ってね。』
声だけの存在は満足げだ。
正直ここ迄、肩入れして良いものかとも考えるが
この展開には飽いていた。
いい加減ここから少しでも進めるのなら何でもする。
「……言ってる事がよくわからないけど、
また同じ事が起きるってこと?」
『そうさ。次の次が本番だ。
ミカ.レミナスは後1回は死んもらう事になるね』
声だけの存在は嬉しそうに答える
ガチャ
空に向けて撃たれた、殻の弾丸は何も射出されない
射出されたのは……少女の怒り
「あたしは……あたしは今しかないのよ!」
『……僕も彼女に死んでほしい訳じゃない。
君に出来る事をやるかい?
先に言っておくけど、この世界は終わりだ。
君がやれるなら
次の世界で彼女は助かるかもしれない』
少女は拳銃をしまい込む
「……何が出来るの?」
『もう少ししたら家が見える
そこに入れれば、過去に戻れる』
「戻れるの!?」
少女に笑顔が戻る。しかし
『でも君は、あそこに入ったら毎回
肉体も魂も滅びてるよ。
あの場所は生命全てを殺すんだよ。
神以外 入るのは無理さ』
「……ダメじゃないの」
少女は疲れたのか、いじけたのか座り込んで
近くの雑草をむしり始める
『ジェシカ.ドーソン。せっかくだから、
その欠片……使ってみないかい?』
少女は紐に通された石に目をやる
「…………どうやって使うの?」
『それは記憶の欠片。砕けているが
その物質なら、あの家でも通す事が可能だ。』
老婆はその石は使い物にならない代物と言っていた
『その欠片には想いを込める事が出来る
多分……一言に限定した方が良いかな?
一言だけなら過去に戻れる
ただ君は死ぬ。挑戦して死ぬのも良いし
このまま世界が終わるのを待っていてもいい』
声だけの存在にとっては次の次が本番だ。
もう少女にあまり興味もなかったが
この少女のおかげで前進出来る
存在なりに敬意を表している
少女は迷わない
「どうやるの?」
『欠片を握り締めて想うだけだ。
面倒だけど、行きたい
過去だけは調製してあげるよ』
少女は欠片を握り締め……想う……
後悔しかない少女が想いを込める
「………………メよ!」
想いが溢れる。欠片は何も変わってはいない
『……当たり前だけどその欠片、本物なんだね。
行きたい時間……あんまり過去は面倒だな……
詳しい時間を、指定してもらえると助かるよ』
「……ちょっと待っててもらっていい?」
少女は申し訳ない顔をしつつ踵を返そうとする
『いいけど、生命は連れてこないでくれよ。
君に破壊されたのもあって、
その上、他人と会話したら僕の力が消えてしまう』
「……ごめんなさい」
少女らしからぬ素直な謝罪
『いや僕がいけなかったよ。気にしなくて良い。
会話しなくてもいいのなら連れてきな。
声を聴こうとしても
僕は消えるから気をつけてね。』
「…………あなた…………良い人なの?」
その存在は大きく笑う。いや呆れる
『ハハ……良いも悪いもないよ。
そんな物差しを持つのは人間だけだ。
君にとって良い事と世界に
とって良い事は当然違うだろ?逆もまた然りだ』
「よくわかんないけど、待ってて」
少女は森をかけていく
姿はすぐに見えなくなり
『たった一言でどうなるのかな?
観てみたかったけどな。何が変わるのかを』
その存在は動けない。
これより1ヶ月この世界に残り
戻るのは10日前のこの場所。
ジェシカ.ドーソンが何日前に戻ろうと
この存在は何が起きているのかは把握出来ない
『やり直せるんだから
すぐ終わると思ってたんだけど……
そろそろ彼女が救われると良いな』
…………
…………
「お待たせ。……リルム!」
少女が連れてきたのは美しい美貌を持つ女性
「お嬢様…………時間は……時……分……秒前」
『……また凄い正確に指定してきたね?
助かるんだけど……秒数だけもう一回いい?』
少女はそれを聞き、改めて女性に聞く
「リルム。秒数だけ教えて」
「25…26…27…28……」
リルムにはその存在の声は聴こえていない。
聴くことは許されない。
ただ黙々と己の与えられた仕事を全うする。
『…………ハイ。後は家に入れば良いから
僕はもう行くよ。君にはもう一度感謝しておこう』
その存在の声が次第に遠くなる
空へ向けて。天に向かって
『君が過去に飛べば、もっと早く救えたんだろうね』
それは不可能な事は解っている
クヌギ.イシノギ以前の……精霊。
あの精霊に貸しがあると言う事で
この世界で最も力ある神が協力した事が大きい
彼以外なら、その神も協力しなかった
少女は空に向かい笑いかける
「あの人を誰だと思ってるの?
クヌギ.イシノギは……あたしの……
あたしの……お兄ちゃんよ!」
少女は大きな城に向けて歩き始める
左手に空手。右手に記憶の欠片を握りしめ
「お嬢様……私も……」
リルムが少女の隣に立つ。
死への旅路に共に逝きたいと
「リルム……あなたのやりたい事。
見つけられなくて……ごめんね。」
「私は……私がやりたい事は叶っています」
二人が手を繋ぎ城へ足を踏み入れる。
躊躇いも戸惑いもなく。
ブチュリ……潰された。
肉体も魂も存在を潰された。
しかし全てをつぶした訳ではない。
潰せないものがある。想い という強い心。
その心は時空を渡り
00を超え1へと向かう




