逆さ虹森の小蛇は今日ものんき
お久しぶりです
今日は美味しいもの食べられるの?
小さな緑色の小蛇は森の木々からのぞいている空の虹……なぜか逆さまになってるきれいな虹を今日も美味しそうなアメみたいと思いながらながめました。
昔々の大昔、にんげんがすぐ近くまで住んでいた時代のことです。
神様がいたような時代からあるような森に虹がかかりました。
いくつもの色が重なった、美しい虹……でもその虹は……なぜか下向きにアーチを描いていたのです。
にんげんたちは何か、神様が不吉なことをおしえたとか、勝手にさわいで、この森を『逆さ虹の森』とか呼んでおそれてだんだんいなくなってしまいました。
以来、近くでにんげんを見たことがないと親蛇に聞いた小蛇はがっかりしました、だって大昔、にんげんが作った虹みたいにキレイであまい飴とか、ドーナツとかビーフジャーキーとかミルクレープとかたべてみたいと思ってたからです。
にんげんが思いを込めて作ったものって、どんな味がするんだろう? そんなことを思いながら小蛇は森の奥に入っていきました。
小蛇はモノを食べる言うより想いを食べる生き物なのです。
クヌギの木下を通ったときコツンと何かが頭に当たりました。
キョロキョロと辺りを見回すとコツンと今度は背中に当たりました。
上から何か小さいものが落ちてきたようです。
見上げると鼻先にも何かが落ちてきました。
「キューキュー」
「キュケケケ」
木の上には小さい影、いたずらなリスがクヌギの実を投げ落としていたようです。
楽しそうにお腹を抱えて笑う茶色のリスに許さないの〜と小蛇が追いかけました。
樹に登ったり飛び移ったりしていると美しい声が聞こえてきました。
歌の上手なコマドリさんです。
ピーピーピー、ピーィー
ああ、なんて素敵な美味しそうな歌声なのと小蛇が聞き惚れると今度はどんぐりが飛んできました。
飛んできた方を見るといたずらリスがやーいとおしりをたたいて挑発してます。
許さないんだからと小蛇は美味しくなさそうなリスを追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて……いつの間にか森真ん中にある大きな川にかかるオンボロ橋まで来ていました。
オンボロ橋は木の吊橋でところどころぬけています。
いたずらリスとか小蛇くらいのちっちゃい生き物ならばすき間からぬけて落ちそうなすき間です。
そんな吊橋の脇に見たことのないいきものが倒れていました。
頭は長い茶色の毛に覆われているのに身体は緑がかった銀色で潰れたようにうつ伏せでねています。
頭の一部が毛がはげているらしくツルツルで小蛇やいたずらリスより何倍も大きいです、慎重な熊さんよりはやや小さいみたいです。
でも優しいの狐さんや元気一杯なアライグマさんよりはおっきいみたいです。
もうここにいない親蛇よりはずっと小さいこの生き物は何なんでしょう?
「キューキュー」
「キュキュキュキュ」
いたずらリスが緑がかった銀の身体の上にあがってけってみて硬いと顔をしかめました。
小蛇はニョロニョロと毛のないところに近づいて美味しいのかなとチロチロと頬をなめてみました。
どこか苦く重く苦しい、でも不思議な味がしました。
もう少しなめると悩んでる味と甘い味と懐かしい味がしました。
まずそうなもん舐めるんじゃないよといたずらリスが後ろから体当たりしてきたので小蛇は不思議生き物の顔? に突っ込んでしまいました。
「う、うーん、なんか痛い」
謎の生きものがうめいて目を開けました。
水色の瞳を目の前に親蛇が言ってた飴ってこういう色かなと小蛇はなめてみたくなりました。
「……翡翠色のちっちゃい蛇……ここは……」
なんか見たことがあるような……とつぶやいて謎の生きものがコロンと上を向きました。
光をさえぎるように額にツルツルの手をかざし空を見上げます。
「キューキューキューキューキューキューキューキューキュー」
「やっぱり逆さ虹の森……なんでちっちゃい子の声がするんだ? 」
そういやちっちゃい翡翠色の蛇が……いたなと謎の生きものはつぶやいて小蛇の方へ顔を向け手をのばしました。
「キュキュキュルル」
いたずらリスが体当りしました。
「何なんだ逆さ虹の森はどうなってる? 」
「キューキューキュー」
いたずらリスに突撃された頭をなでた謎の生きものに小蛇は小首をかしげました。
やっぱり可愛い子どもの声がすると謎の生きものが起き上がり小蛇をまじまじと見ました。
その横でいたずらリスがけりけりと謎の生きものを蹴っています。
「キューキューキュー」
「謎生きものって……翡翠の小蛇がしゃべってる……オレはにんげんだ」
「キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ」
いたずらリスがちっちゃい胸を張りました。
やっぱり、リスとか小蛇が喋ってるよ、オレどっか変と自称にんげんが頭を抱えました。
「キューキューキューキューキューキュー」
「ああ、先祖が捨てた文明の眠る地に来たくてな……逆さ虹の森……翡翠の……いや……なんで普通に会話してる? 」
自称にんげんがリスと小蛇から視線を外して手を付き立ち上がりました。
たちあがってもおくびょうな熊さんよりは小さいの、銀色は上半身だけなのと小蛇は思いました。
「キューキューキュー」
「キュキュキュ」
「この硬いのはヨロイだ、どこと言われてもなぁ……かつて人々の想いを食い願いを叶えたという神聖なる大蛇神の神殿があれば……」
叶えてくれるのだろうかとにんげんは遠い目をしました。
「キュキュキュキュキュキュキュキュキュ」
「キューキューキュー」
「どんぐり落とすって……」
まあ、言ってみようぜといたずらリスがにんげんの肩に登り、あっちなのと小蛇は右手に巻き付いて方向をしっぽで教えました。
まあ、いいかとため息をついてにんげんはあるき出した頃、逆さ虹森の入り口に何人もの黒い格好をしたにんげんが集まっていました。
「諸君、かの方はここにいるとのことだ」
リーダーらしきにんげんが緑がかったオオキ銀の鱗のついた杖をかかげました。
「宿命よりは逃れられぬ」
「きっとお戻りいただくぞ」
「我ら蛇女神の使徒の名にかけてー」
騒がしいにんげんたちはえいえいおーと拳を振り上げました。
今回は我らは準備万端だぁ〜とそろそろと森に入りました。
お、おおーさすが、秘宝……弾かれないと嬉しそうに杖につけられた緑がかった銀の鱗を仰ぎ見た騒がしいにんげんたち……黒装束のにんげんたちはうなづき合いました。
その様子を木の影から覗いている者たちがいました。
「コンコンコンコンコーン」
「ガウガウガウ」
優しい狐さんとおくびょうな熊さんは木の後ろで顔を見合わせました。
で、では……とつげきーと黒い格好をしたにんげんたちは森に駆け込んで行きました。
あらあら、困ったわねと優しい狐さんは頬に前足を当てて小首をかしげました。
怖いんだな〜恐ろしいんだな〜と言いながらおくびょうな熊さんはビクビクしながら森の奥に去っていきました。
その頃、銀のヨロイのにんげんと小蛇といたずらリスはドングリ池まで到達していました。
「キュキュキュキュ」
いたずらリスがドングリを銀のヨロイにんげんに渡しました。
「明らかに遺跡なんだが、いいのか? 」
ドングリ池の中で崩れかけた列柱や石の床の間で魚が泳いでる様子に銀のヨロイにんげんが目を丸くしました。
その近くにも古代語の書かれた崩れかけた石柱が一本立っていました。
「キューキューキュー」
元気一杯の小蛇に銀のヨロイのにんげんはためらいながらどんぐりを投げました。
「キュキュキュキュキュキュキュキュ」
「諸事情によりな」
諸事情って……そういやお前どうやって入ったんだ? といたずらリスが銀のヨロイのにんげんにもう一つどんぐりを渡しました。
家の秘宝がと言いながらもう一つどんぐりを銀のヨロイのにんげんがなげたころ、黒装束のにんげんは根っこ広場で暴れん坊なアライグマに何しとるんじゃいわれーと追いかけ回され、単なる散歩と言った仲間の一人が嘘つき認定されて根っこにつかまったりしながらもなんとか目標を見つけました。
ちょうど銀のヨロイのにんげんがどんぐりを投げようとしているところでした。
「やっと見つけました、若〜」
黒装束の杖を持ったリーダーに銀のヨロイのにんげんはげっとつぶやきました。
「さあ、おとなしく神殿へお戻りください」
「い、嫌だ、俺は蛇女神の捨てた逆さ虹の森を調べたい」
銀のヨロイのにんげんが立ち上がって叫びました。
「若は蛇女神にお仕えする大切な身体だ、諸君かかりなさい」
リーダーが杖でさすと黒装束が襲いかかり石柱に一人が足を取られいてっと石柱を蹴りつけました。
にんげんなんてろくなもんじゃねぇなといたずらリスは木の上に避難しました。
「キューキューキュー」
小蛇は大きくなって両者の間に立ちふさがりました。
黒装束と銀のヨロイは地面に尻もちをつきました。
あ~あ〜といたずらリスが両手で顔をおおいました。
樹の上に届くほど伸びた身体は翡翠色にキラキラ輝いています。
「へ、蛇女神様? 」
「キューキューキュー」
かかさまとの思い出こわさないでなのとシュルシュルと小さくなって小蛇は石柱を大事そうに抱き込みました。
「キュキュキュキュキュキュキュ」
いたずらリスがポリポリと頬をかいて降りてきました。
そうか、こんなちっちゃい小蛇すら、一人で頑張ってるんだと銀のヨロイは思いました。
「帰る……そして説得する」
「わ、若」
きっといつか、自分のやりたい事をするために……蛇女神のススメにしたがい来てよかったと銀のヨロイは思いました。
銀のヨロイにんげんは黒装束に連れられて帰っていきました。
しかし、銀のヨロイにんげんは知りません、実は蛇女神が小蛇の親蛇でいずれ自分のあとを継ぐ小蛇が心配で見てもらいたかったのでススメたということを……
そして逆さ虹の森も捨てたわけでなく、昔々の神官の想いが美味しかったのでついてきてしまったと言うことを聞いた銀のヨロイのにんげんはなんか力が抜ける思いがしました。
いずれ、またあのちっちゃい小蛇とリスになにかお土産を持って会いに行こうとなんとなく思ったと言うことです。
今日も食いしん坊な小蛇は元気一杯に素敵な想いが食べられるように森をウロチョロしています。
時々、あの虹美味しいかなとヨダレを垂らしながら……
逆さ虹森は今日も……
キャーキャー
また、なにか入り込んだようですがおおむね平和です。
読んでいただきありがとうございます