御令嬢と紳士
「貴女は、どうして・・・僕を苦しませるのですか?」
「だ、だって・・・仕方無いじゃない」
某日某場所にて、21歳の青年と17歳の女の子がいました。
「好き嫌いはいけませんって何度言えば分るんですか!?」
「嫌いな物は嫌いなんだもん!!」
先ほどの空気が変わり呑気な会話だった。
どうやら場所は喫茶店だった。
BGMが煩いせいか、二人の声は迷惑の域にならなかった。
「壱岐さんは、私を思ってくれないの!?」
「思ってます。紗枝様は偏食が多いです。育ち盛りの貴女を、こんなにも思ってる者はいませんよ」
女の子は、紗枝で、青年は、壱岐というらしい。
見た感じは、お嬢様と執事だ。
紗枝の格好は、レースのピンクのワンピースだった。
壱岐の格好は、スーツだった。
だから、普通の関係には見えない。
実際に紗枝は、お嬢様なのだ。だけど、壱岐は執事では無く自由業と言った。
「ピーマンなんて・・・何かの化け物を思い浮かぶ」
「・・・食べないうちは帰りませんから」
鬼ー!とプクッと頬を膨らませた紗枝に、笑う壱岐。
「・・・紗枝様が食べ終わるまで、いますから」
「う〜〜。いじわる」
はいはい、と軽くあしらった。
その態度に怒った紗枝。
「壱岐さんには嫌いな物は無いの?」
「ありますよ・・・。紗枝様が怒るのとか」
「!?」
壱岐の言葉に、怒りが消えた紗枝。
でも、まだ不完全っぽくて目線を窓の外に向けた。
人が忙しく歩いてる。
「もう一つは、愛しい人の泣き顔ですね」
「え・・・何か言った?」
外に意識がいってたせいか、壱岐の言葉を聞き逃してしまった。
も一度聞いたが、何でもありません、と軽く逸らされた。
「む〜。食べ物では?」
「何でも食べますよ。残したら、本当に化け物が出ますよ」
「うっ・・・・頑張る」
純粋なのかもしれない。ゆっくりながらも、口に含んだ。うぇー、としながらも食べた。
「水と一緒に食べると体に良くありませんよ」
「食べたぁ・・・」
壱岐の言葉を聞いてなかったのか、丁度重なったのか・・・。
「ちゃんと食べたご褒美に・・・なんでも言う事を聞いてあげますよ」
「やった!!」
たかが嫌いな物食べたからってご褒美が貰えるなんて羨ましい。
「恋人だよね?私達って・・・」
「そうですね」
二人は恋人同士だったのだ。
ただの関係じゃないとは思ってたけど。
「それなのに、手を繋ぐしかしたことが無いよね。だから、き・・・」
「・・・き?」
顔を下に向けてるから、壱岐からは紗枝の表情が読めない。
「・・・キスして?」
「え?」
紗枝の耳が赤かった。壱岐も呆然としてるだけだった。
「・・・ご、ご褒美で・・・・ダメ?」
「・・・・まぁ、紗枝様は頑張りましたから・・・目を瞑ってください」
壱岐は、ふぅ、と溜め息を吐いてから、少し腰を上げた。
紗枝は、目を瞑ってる。ドキドキと、警報のように分りやすく鳴っている。
テーブルを乗り越えて、紗枝の頬を両手で覆った。
二人の距離は近付いてく。
周りの音なんて聞こえない。
「・・・んっ」
最初だったので触れるだけのキスだった。
お互いの息が、顔に掛かる。
終わった後、ボーッと見つめ合う。
「大好きです。紗枝様」
「私も・・・壱岐さん」
二人は、また触れるだけのキスをした。
客達は二人を見ても、からかう風に見るのでは無く、優しい目で見守っていた。
この二人に、永遠の愛がありますように・・・。
なんか初々しい恋愛でした。いつまでも、この気持ちは忘れちゃダメだね。