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ACT06 「変人の帰宅」

 感動しているわたしの背後で、唐突にドアが開いた。変人のご帰宅である。


「おおお。サクがついに兄ちゃんの部屋に遊びに来てくれた。今日は記念日だ」

「勝手に記念日にするなっ」


 帰ってくるなり、兄貴はアホさ全開である。泣きそうなくらいの感動が一瞬で吹きとんだ。天使君は「おかえりなさい」と快く兄貴を迎えている。

 わたしは一気にこれまでの成り行きを思いかえす。この諸悪の根源に言いたいことが山ほどあるのだ。


「ところで、どうしたんだ。サク」

「――は?」

「おまえが兄ちゃんのアパートまで来るなんて珍しい」


 アホかぁ。このバカ兄貴。と叫びそうになるのを辛うじてこらえる。


「兄貴がおかしなことを言いだしたからだろうが」

「おかしなこと?」


 まったく記憶にございませんという態度で、兄貴は天使君の入れてくれた麦茶を飲みほした。そのままテレビのリモコンに手を伸ばして、チャンネルを変える。


「こらぁ、くつろぐな。このバカ兄貴」

「兄ちゃんはバカじゃない」


「じゃあ、変人」

「――それは認めよう」


 認めるんかいって、違う。話がずれている。


「あのねぇ、兄貴がわたしに天使君の面倒を見ろなんて冗談をいうから、純心な天使君がそれを真に受けてしまっているんですけど」

「ん? 兄ちゃんは本気で言ったんだけど」


 話をややこしくするな。


「どうやってわたしが面倒みるのよ。一緒に家に連れて帰るわけ?」

「うーむ、たしかにそれはまずいな」


 まずいのはそれだけじゃない。兄貴はあごに手をあてて考えるふりをしているが、絶対に何も考えていない。噛みつきそうな勢いで兄貴を睨んでいると、天使君がすっとわたしの方にスケッチブックを滑らせる。


「あの、僕はサクさんに僕の絵を描いてもらいたいです」


 突然のオファーに反応できないわたしを尻目に、兄貴は大きく手を打った。


「名案だ、ゼロ」


 兄貴は大はしゃぎでわたしを見た。


「決まりだ、サク。夏休みの思い出にサイコーだ。サイコーのひとときだ」


 ありえないと怒鳴ろうとした勢いは、天使君の縋るような目に吸いこまれてしまった。くそ、天使君に参戦されたらどうしようもない。わたしも天使君を描いてみたいと考えていたのだ。それはすでに抗いがたい欲求になりつつある。

 そんなわたしが嫌だと言えるはずもなく。


「サクさん、駄目でしょうか」


 天使君の追い討ちに、ただ頷くことしかできなかった。

 兄貴が「よっしゃー」とガッツポーズをしているのが、この上もなく腹立たしい。

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