プロローグ
自分がどうしてこんな行動を取ったのかわからなかった。
しかし考えるよりも先に身体が動いてしまったのだから仕方がないか、と自分の正義感に関心する。
俺は今、自分の命を犠牲にして人一人の命を救ったと思う。
駅のホームに電車が来る数秒前、二列に列形成された列の一番前の自分の隣にいた少女は、突然黄色い点字ブロックを越えて電車の前に飛び出した。
少女の代わりに自分の横にいたのはサングラスにマスクをした黒ずくめの男。
あの時のことはよく覚えていないが、咄嗟に少女を掴みホームへと引き戻した筈だ。
その証拠にいまその彼女はホームで倒れこみ、自分がホームから飛び出して電車の前にいるのだから。
こんな事になるなら他人なんてほっておけば良かった。
昨日録画した深夜番組も寝ずに見ておけばよかった。
朝ごはん、ちゃんと食べてこればよかった。
昨日断った友達からの誘いも断らなけりゃよかった。
あぁ、死ぬ前って後悔ばかり思い浮かぶんだな。
俺は目を閉じ最期の瞬間を待つ事にした。
しかしその瞬間は訪れない。
既に轢かれて天国にいるのか、それとも電車が奇跡的に止まったのか、後者だとしてもなぜ自分は線路に落ちないのか。
少年は不思議に思いゆっくりと目を開ける。
「・・・ここは」
少年の目前に現れたのは駅のホームでは無くよく見知った風景。
自室の天井だった。
少年は上半身をベットから起こすと何度か頭をかき、
「...夢かー」
「違いますよ」
「うわっ!!」
不意にかかられた声に少年は身体を跳ね上がらした。
慌てて声のする方向を見ると、そこには一人の少女がお茶を啜り、みかんを口に放り込む和やかな日常が広がっていた。
「・・・」
状況が理解できずに口をパクつかせる少年をみた少女は、みかんを机に置き口に入っているみかんを飲み込むと口を開いた。
「先ほどまでのことは全て現実です。間一髪のところで私があなたをこの部屋にテレポートさせました。」
「て、テレポート?」
「まあこの世界にはない技術ですから理解できないとは思いますが、あなたは少女を助け私はあなたを助けた。このことをよく理解していただければオッケーです」
「は...はあ」
「私は本来死ぬはずだったあなたを助けた。つまりこれは大きな貸しです!祐樹さん、私たちの世界へ来て頂けませんか?」
「あー...は?」