第十一話「台風に立ち向かえ」
「台風か……」
オージオのおっさんから、異世界交流バトルのことを聞かされてからもう四日が経っている。しかし、何にも連絡はなし。
そして、俺も全然元の姿に戻る気配がない。
ナナミ達も、異世界交流バトルが始まるまでは自由行動が許されている。各々、自由気ままに地球での暮らしを満喫していた。
ナナミは、有奈やリリー、華燐と仲良くなり、こっちの女子学生の流行などのトークで盛り上がっている。同い年、そして同じ女子学生ということもあって色々と共感するところなどがあるのだろう。
アデルは、こちらのスポーツや武道などに興味を示しており、更には特撮ヒーローものや変身ヒーローもののアニメなどを勉強するように観ている。
最後に、リリアだが。
ニィにべったりなのは、変わらないがコトミちゃんやコヨミ、優夏ちゃん、そらちゃんと楽しそうに遊んでいたな。
リリアが勤めている教会の近くには孤児院がある。
そこで、毎日のように子供達と会い、遊んでいるのだ。リリア自身も、子供と遊ぶのは好きだと言っているので何の問題はないだろう。
まあ、コトミちゃんの思いつきなとんでもない遊びについていければの話だけど。
んで、そんな毎日が続き、今は大雨。
台風が近づいているようで、外に出ただけで服はずぶ濡れになり、傘なんてないようなものになるだろうな。とはいえ、ここはまだマシなほうだろう。
かなりひどければ、有奈も学校には行かないはずだしな。
「嵐ですか……これ以上ひどくならなければいいですね、刃太郎先輩」
俺の横に立ち、外を見詰めるアデル。
ああっと短く頷き俺はテレビを点けた。今日は、大雨ということで、皆外には行かずマンションに集合していた。
ナナミは、クッションを抱きながら少女漫画を読み。リリアは、リフィルに誘われ一緒にゲームをしている。
丁度台風のニュースをやっていた。
ニュースキャスターが、日本列島を背に台風の進み具合やそれによる影響などを読み上げている。俺は、それを見た瞬間食いつくように近づいた。
「ど、どうしたんですか?」
突然、テレビに近づいたのでアデルは驚いている。だが、この方向って……じいちゃん、ばあちゃんの住んでいるところを直撃するんじゃないか?
俺は、心配になりスマホを取り出してすぐに電話をかけた。
『はい。瀬川です』
コール三回で出てくれた。礼子ばあちゃんだ。あ、そういえば今の俺声が高めだった。俺は、ニィに視線を送り、声の調整ができないかと伝える。
それは、容易に伝わったようで笑顔で指を揺る。
「お、俺だよばあちゃん」
『あら? 刃太郎。どうしたの、突然』
「いや、ニュースで台風がばあちゃん達が住んでいるところを直撃しそうってことを見たからさ。大丈夫かなって」
『あぁ、台風ねぇ。今、丁度避難をするところなのよ』
やっぱり避難勧告が出ていたか。
『おい。早いところ移動しねぇと、危ねぇぞ!』
『あ、はい今行きます。ごめんなさいね、早くしないといけないから』
俺と会話をしていると、電話越しに亮治じいちゃんが叫んでいた。距離的に玄関にいるのだろう。
「いや、俺こそ避難途中の時に電話してごめん。気をつけてな?」
『ええ。刃太郎も、気をつけてね。舞香と、有奈にもよろしくね』
「うん。わかった」
それを最後に、通話を切った。
距離があるここでさえ、これだけの大荒れになっているんだ。台風の直撃コースのところは、ここの比じゃないはず。
礼子ばあちゃんは、いつもと変わらない感じに話していたけど。ニュースでも被害は、かなりのものになると言っている。二人が助かったとしても、もしかしたら店のほうはただではすまないかもしれない。
「刃くん、行くのですか?」
俺が玄関へと向かおうとしたところ、ニィがエプロン姿で問いかけてくる。当然、皆の視線が集まる。
「もちろんだ。このままじゃ俺の思い出の場所がなくなってしまうかもしれないからな」
「相手は自然災害。本来なら、これも自然の摂理と受け止めるべきなのです。それは理解していますね?」
「それはわかっている。だけど、やっぱり俺は」
「いや、ここは行くべきだな」
刹那。
リフィル達とゲームで遊んでいたロッサが立ち上がる。
「自然の摂理がなんだ。我にはそんなもの関係ない。あそこにある店の味は気に入っている。それがなくなるのは我としては死活問題だ」
実は、俺達が夏の時に瀬川家に行った時、じいちゃん達の料理を食べてかなり気に入ったらしく、ちょくちょく通っているそうだ。
じいちゃんもばあちゃんも、おいしそうにそれでいてたくさん食べるのでロッサのことを気に行っている。更に、何度も一人で通っていることで、アイドル的な存在になっているそうだ。
まあ、容姿がこれだから自然というべきだろうが。
「それはいいが、いいのか? このままじゃ俺との共闘になるぞ。俺との共闘なんてしないんじゃなかったのか?」
ふっと笑い俺は問う。
だが、ロッサは笑い返しこう答えた。
「馬鹿を言うな。これは我個人が決めたことだ。我の行く先に貴様が介入してくる。それだけのことよ」
「ま、そういうことにしておいてやるよ」
再びニィを見ると、仕方ないという表情をしていた。
「周りへの配慮はこっちでなんとかしておくのです。だから、思いっきり自然災害と戦ってくるのです。勇者、そして魔帝」
「我は、先に行く。貴様との共闘など真っ平だからな!!」
脱兎の如く走り出し、次元ホールで移動するロッサ。
「あ、おい! そんじゃ、行ってきます!!」
その次元ホールが閉じる前に、俺も皆に挨拶を残し飛び込んだ。
「いってらっしゃいなのですー」
「刃太郎先輩! 頑張ってください!!」
「風邪を引かないようにね!!」
「いってらー」
次元ホールを通ると、強烈な風と雨が俺の体を襲う。
海は荒れ果て、木々は見事なほどに折れていた。
そこに堂々と立ち尽くす銀髪の美少女。
雨で髪の毛が、服が濡れようとお構いなし……というか全然濡れていない。どうやら、魔力で遮断しているようだ。
俺も、それをやるか。
「自然災害如きが。我行きつけの店を破壊しようとは、愚かな行為よ」
「さて、どうやって台風を止めるか」
いや、答えはすでに決まっている。
「知れたこと」
「そうだな」
魔力を高め、俺達はこちらに向かってくる台風を睨みつける。
「圧倒的な力でねじ伏せる!! 貴様はそこで見学でもしていろ! ここは我一人で片をつける!!」
高く飛び上がり、ロッサはその場で浮遊する。
さすがは魔帝。
飛行魔法も自由自在だな。
「だったら、俺も好き勝手にやらせてもらう!!」
俺も飛行魔法で飛び上がり、ロッサと距離を離し魔力を更に高める。俺との共闘を嫌うロッサのために、これぐらいの距離は開けておかないとな。
「ひれ伏せ!! 魔帝の名の下に!!」
高めた魔力により、魔方陣が展開。
そこから魔力で構成された巨大な龍が出現する。
「この一撃は、光を我らに齎すものなり!!」
剣にて、宿るは光属性の力。
それは二倍、三倍、五倍……どこまでも膨れ上がる。台風を消し去る方法は、色々と諸説あるが。俺達にとってはこの方法が一番だ。
圧倒的な力を台風にぶち込み、消し去ること。
「消え去れ!! 【ドラグ・ブラスタ】!!」
「輝け! 【シャイニング・バースト】!!」
両サイドから強烈な魔法をぶち込まれる台風。
若干、力を入れすぎたか。
だが、それもあってか風も雨も、天空に広がる雨雲でさえ……消え去った。太陽の日差しが辺りを照らし、衝撃により来る大波は、俺達の責任なのでちゃんと対処をする。
「ふははははは!! 台風如きが、我に敵うとでも思ったか!!」
「いいからお前も、被害が出ないように防げっての」
「そこは、貴様に任せる」
「お前な……」
とはいえ、これで台風による被害はなくなった。
瀬川家の店も、これでなくなることはないだろう。
「お疲れ様なのです。いやぁ、周りに突然台風が消滅したって思われるのは確実なのです」
一仕事終えたところに、ニィが笑顔で登場。
「まあ、そうなることはわかっていたことだし。だいじょ……うっ!?」
「む? どうした刃太郎」
体が……熱い! しかも、俺の体が光りだしている。まさか、この現象は……。
「ああああああああっ!!!」
体の熱さに思わず叫び俺。
それと同時に、体は爆発するように輝き、光が収まった時には。
「はあ……はあ……や、やっと、か」
「わあ! 大人刃くんなのです!」
元の姿に戻っていた。
もしかして、莫大な魔力を使ったからか? いや、アイオラスによる影響を考えたらあの程度じゃまだ足りないような気がするが。
やっぱり、時間経過なのか。
まあともあれだ。やっと元の姿に戻れて俺は一安心だ。
「くっくっく。元の姿に戻ったか。ならば、それを記念して我と勝負だ!!」
「いやだよ」
「なにっ!? 貴様、逃げるつもりか!?」
やっと元の姿に戻れたんだ。
それに、今日はゆっくり休みたい。横でぎゃーぎゃー騒いでいるロッサを俺は無視して、そのまま真っ直ぐマンションへと帰宅した。てか、服がきつい……。
そういえば、台風を消すで思い出しましたが。
某猫型ロボットが、二十二世紀では台風が上陸する前に消し去っちゃうとか言っていたような……。




