第八話「再会の勇者一行」
「改めまして。刃太郎先輩! お久しぶりです!! 覚えていますか? アデルトです」
「もちろん覚えてるって。しばらく会わないうちに身長伸びたか? あ、俺が縮んだのか」
「ですね」
俺の言葉にくすっと笑うアデル。
こいつは後輩というよりも弟のような存在だった。こいつと出会ったのは、勇者として数ヶ月が経った頃。
まだ数ヶ月だが、こいつからしたら先輩として慕われることになった。
人当たりのいい性格で、老若男女誰にからも人気がある。それでいて、戦闘力も高い。俺との旅を得て、今では英雄の一人として数えられている。
こいつはもう立派な勇者だ。
というよりも、俺よりも勇者感あるよなー。
「縮んだ原因は、わかってるの?」
「まあ、うん。なんていうかアイオラスを、な。こっちで抜いて、その影響が俺に全部来たんだよ」
「なっ!? 神々が与えし、神聖な剣を抜くようなことがこっちで起こっていたということですか!?」
あんな口うるさい剣だが、一応は神々が造りし剣ってことになっている。今では、リリアが勤めている教会にある祭壇に納められているはずだ。
あいつも、退屈そうにしているだろうけど。毎度毎度呼び出すわけにはいかないからな。
「そんなところ」
「でも、刃太郎くんの話では。こっちは魔法も魔物もいなくて平和な世界だって」
「俺も最初はそう思っていたんだけどな。いざ、戻ってみるとこれがまあ、結構なファンタジー世界でさ。いやぁ、参った参った」
はっはっはっと笑う俺をリリアは見た後、視線をロッサに向ける。
「ところで、隣で奇妙な板を弄っている少女は何者ですか? まさか、彼女が刃太郎さんの妹さんということではありませんよね?」
「我がこいつの妹だと? 冗談を言うな。姿が変わったとはいえ、我のことがわからぬとは。神々に仕えるシスター失格だな。リリア・フォンティーナよ」
「え? え?」
「まだわからないか? 我だ。貴様らとは一度戦っているだろう」
そう言って、タブレットを置き久しぶりに魔剣ディアブロ。禍々しいオーラは出ているが、あの長剣がナイフ程度まで小さくなってしまったため迫力が薄れている。
が、仮にも神々に仕え、敬愛しているシスターリリア。
それを見た瞬間、表情を強張らせる。
「あ、あなたはまさか……魔帝バルトロッサ!?」
「え!?」
「バルトロッサ!?」
リリアの言葉に、他の二人も立ち上がり距離を取る。しかし、バルトロッサはふっと笑い魔剣をしまってタブレットに集中する。
「なあ、そこの道って隠し通路になっているんじゃね?」
「なに? ……おぉ、確かに。くっ! まさか、貴様に導かれるとは!」
「ま、たまたま先に俺が通っていたからわかっていただけだ。この先は、まだ未プレイ中だ」
「ならば、貴様よりも先に我が攻略し自慢してやるとしよう!」
「はいはい」
一通りの会話が終わり、三人に視線を向ける。唖然としているので、俺は手招きをしてその場に座らせた。ちなみに、リフィルは相変わらずソファーに寝転がり一人で遊んでおり、ニィは昼が近いので昼食の準備をしている。
「まあ、今のこいつは大人しい。俺が勝者である限り、こいつは何もできない。それに、大分こっちの世界に毒されているからな。もはや魔帝だったあいつは消えた。今は、ロッサって名乗ってるんだ」
「勘違いをするな。我は、まだ魔帝だ。ただ、我は敗者。勝者である貴様に今は従っているだけのこと。いずれは、貴様を負かし!」
そこまで、言うがロッサはしばらく考える素振りを見せる。
「負かし、なんだ?」
「と、とりあえず! いつか貴様を倒す! それまで、せいぜい勝ち誇っているがいい!! くっ!? 状態異常を食らってしまったか……!」
もはや、自分が勝った時、何をするか忘れている。もしくは、何をしようか決まっていない模様。このまま大人しくしてくれれば俺は大助かりなんだがな。
とまあ、こんな感じだと三人を見て頷く。
「に、にわかには信じられません。あの魔帝が、こんなに大人しくなっているなんて」
「こいつのやったことは、確かに許されないことだ。だからこそ、ここでまた悪さをしないように俺が見張ってるんだ。これも勇者の務めってやつだな」
都合の良いことに、転生して俺のことを追ってきた。俺がいないから、ヴィスターラでまた大暴れすればよかったものを。
でも、俺がいなくても力が弱まったこいつならこの三人でも対処できると思うからどちらにしても安心か。
「さて、話を変えるが。お前達がこっちに来た理由って何なんだ? 俺は、全然聞かされていないから説明をしてもらいたいんだけど」
俺は、ただニィにすっごく嬉しい再会があるとだけ言われている。なぜ、この三人が地球に来たのか。その理由を聞かされていない。
遊びに来た、というのなら納得もできるが。わざわざ、おっさんに呼び出され、こっちの神様のところに数日間滞在し、メイドとして働いていたんだ。
絶対何かあるに決まっている。
「やっぱり、聞いていなかったんですね」
「ニィちゃんだから、仕方ないと思っていたけど」
「ニィーテスタ様はお忙しかったんです。なので、私が代わりに説明をさせて頂きます!」
実のところ、ニィーテスタの手料理を食べれるということでリリアはかなり興奮している。そりゃ、神様の手料理なんてそうは食べられないだろうしな。
それも、大好きな神様の、というところからリリアの興奮度具合は半端ではない。
「あれは、いつものように神々にお祈りをしていた時のことです。突如として、オージオ様が問いかけてきた! 久しぶりに刃太郎さんに会いたくはないか? と!!」
「もちろん、私達も同時刻に聞かれたの。私は、丁度学院に登校中の時だったかな」
「僕は、いつものように剣の修行をしている時でした」
早朝からご苦労なことで。どうせ、酒を飲みながらの問いかけだったんだろうな。
「もちろん、私は会いたい……いえ、二人が会いたいのならと答えました」
「ふふ、素直じゃないなリリアさんは」
「僕はもちろん会いたいと言いました。まだそれほど経ってはいませんが、また刃太郎先輩とお話をしたり一緒に修行をしたいと思っていましたから」
うんうん、アデルは素直でいい子だ。
リリアが、どうしてこんな風になっているのか。それは明白。ニィが俺のことを気に入っているから。つまり、恋敵のような感じで俺のことを見ている。
これでも、前よりはマシになったほうなんだ。
「そして、その問いかけから二日後。オージオ様は私達を聖域へとご招待してくれたのです。そこで、お告げがありました。近々、異世界交流をすると」
「異世界交流?」
「内容までは詳しく聞かされていないけど。なにか、刃太郎くんの世界とヴィスターラでイベントをやるみたいだよ。私達は、その代表ってところかな?」
あのおっさんのことだから、絶対ろくなことじゃないだろう。とはいえ、こいつらとまた出会えたことには感謝しないとな。
「刃くーん。特製の愛情料理ができたのですよー」
「おーう。そんじゃ、話は一旦中止だ。昼飯でも食べようぜ」
「ニィーテスタ様の愛情料理! あぁ……食べたい。食べたいけど、恐れ多い! でも、敬愛する神の料理を食べるなんて滅多にないこと! でも、そんな軽々しく食べていいものじゃ……!」
「今日は、オムライスなのね。あれ? なんだかあたしのだけ小さくない? あの、ニィさん? どうして、あたしのだけ小さいんですか?」
ソファーでぐーたらしていたリフィルのところに置かれたオムライス。確かに、一回り小さいように見える。しかも、ケチャップ文字で罪と器用に書かれている。
他のオムライスは均等な大きさ……ではなく、俺のだけ大きい。
しかも、ケチャップ文字で刃くんと書かれ、ハートで囲まれていた。
それを見た、リリアは目を光らせ俺を睨む。
「刃太郎さん?」
「なんでしょう」
「……羨ましい」
そんなことを言われても。どうしようかと考えていると、ニィは何かを思い出したかのようにケチャップを手に取る。
「忘れていたのです。皆の分にもハートを……こうなのです! さっ、召し上がれ!」
皆の分にも、ハートを描き、とびっきりの笑顔を作った。
「はあぁッん!!」
刹那。
リリアは、嬉しさのあまり昇天しそうになった。が、昇天してしまってはせっかくニィが作ってくれたオムライスを食べられない。
その一心で、なんとか意識を保ち席に着く。
俺もなんとか助かった……さて、気を取り直して。
「いただきます!!」
『いただきます!!』
「神に……ニィーテスタ様に感謝を込めて、いただきます!!!」
「い、いただきます」
それからは、俺が帰って来て何をしてきたのかを。俺が帰ってからヴィスターラでは何があったのかを食事をしながら、話し合った。




