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第六話「小さくなった原因」

「ほい! あー! ババ引いたー!?」

「こ、コトミちゃん。そういうのは口に出しちゃ駄目だよ」

「あ、そうだった。ま、いっか。はい、次! 刃太郎お兄ちゃんね!」


 今日も今日とてとても天気のいい日だった。

 太陽はさんさんと輝いており、白い雲達は青空をゆらりと漂っている。小鳥達は、囀り。人々は笑顔を絶やさず生活をしている。

 そんな中、九日も経ったのに未だに元に戻らない俺。


 朝起きたら戻っているのでは? と期待したが、そんなことはなく。次の日に起きたら、あーこのまま戻らないんじゃないかなぁ……と思い始めてしまう始末。

 ニィも未だに戻ってこないし。

 俺はただただこうして遊んでいる毎日。

 働いているところが、山下書店だからいいものの、普通のところだと完璧に休みすぎだ。天宮家の獣っ娘さん達にも迷惑をかけているとサシャーナさんに言ったのだが。

 まあそこは、獣っ娘さん達も楽しくやっているし、山下書店のほうも彼女達を目当てで来る客層もいるので、大助かりだと。


(とはいえ、このままでいつまでも過ごすわけにもいかないよな)


 コトミちゃんから、ババを引いたが気にせずポーカーフェイスでリフィルに引かせた。そもそも、思ったんだがジョーカーは一枚しかないから言わずとも、場に出せない。 

 つまり、引いてしまったことはわかってしまうわけだ。

 どうでもいいことだけど。


「皆様。お夕飯の準備ができました。今晩のメニューは、特製のビーフシチューでございます」

「わーい! 駿のビーフシチューはすっごくおいしいんだよ!」

「それは楽しみね。実は、さっきから良い匂いにあたしの腹の虫がすっごく鳴いていたのよ」


 ババ抜きの途中だが、夕飯ができたようだ。

 今日は、コトミちゃんがうちに泊まりに来ている。明日は、休みではないが泊まりに行きたい気分になった、とのこと。

 卓哉さんやイズミさんは俺のことを信用してくれているようで、即答でオッケーを出した。

 まあ、駿さんもついてくる条件付きだけど。


「それでは、いただきましょう!」

「サシャーナさんはなんでここに?」

「え?」


 いつも思っているんだが、サシャーナさんは卓哉さんの秘書であり、イズミさんの部下。これまでの行動からコトミちゃん専属のメイドのように思えてしまうほど、いつも傍に居る。

 周りの人達も、俺も何も言わなかったが本来は、卓哉さんやイズミさんの近くにいなくちゃならないんじゃないかと。

 ふと思ったので、一番最初に席についている彼女へ質問をぶつけた。


「そ、そんな! 私が居ちゃだめなんですか……?!」


 とてもわざとらしくショックを受けたように言う。


「いや、あなたは卓哉さんの秘書なわけだし、普通は卓哉さんの傍にいなくちゃだめなんじゃないかなぁっと。どうなんですか? 駿さん」

「そうですね。確かに、サシャーナさんは卓哉様の秘書です。ですが、こう見えてきちんと仕事はこなしておりますし、ここにいるのも卓哉様のご命令でもあるんです」

「そうなんですよ! こう見えて、私すっごい働き者なんですから!!」


 えっへんと胸を張るサシャーナさん。彼女がすごい働き者だというのは、俺も理解している。だからこそ気になり、心配になってしまう。

 秘書としての仕事をこなしつつ、山下書店のほうも手伝い、俺達に付き合う。休んでいる暇などないんじゃないかと。

 そこは、彼女が獣人だから常人とは比べ物にならない体力を持っているからと説明すれば納得、できるが。


「ささ! 私のことはここまでにして、冷めないうちにいただきましょう!」

「もう食べてるわよ」

「だめだよ! 皆でいただきますしないと!!」


 俺達が会話をしている中、一人だけビーフシチューを食べていたリフィル。こいつは、本当に神様なのとかいつも思っているが、ここまでくると……。


「いいのよ。今は、あのうるさいのがいな―――ハッ!?」


 刹那。

 背後から、懐かしいあいつの気配が。リフィルもそれに気づき、体を強張らせた。リフィル以外の者達が視線を向けると、そこには次元ホールが出現していた。


「ふっふっふ。誰のことを言っているのです? リフィル」


 出てきたのは、なぜかメイドの姿をしたニィだった。

 かなり丈の短いスカートに、猫耳カチューシャを装備し、いつもの白衣がないのですごく違和感あるが、すごく似合っている。

 男だけど。

 不適な笑みを浮かべ、こちらを振り向こうとしないリフィルの肩にニィは手を置いた。


「あ、いやその。べ、別にニィのことを言ったわけじゃないわよ?」

「そうなのですか。でも、お食事の前はちゃんといただきますと言うようにあれほど言ったのに、忘れたのですか?」

「え、えへへ……ちゃんと言ったわよ? 皆がおしゃべりしてたから聞こえなかっただけじゃない?」


 それはないと思う。

 すごい小声で言ったとしても、俺もコトミちゃんもサシャーナさんも耳はいいほうだ。二人に視線で確認を取るも首を横に振る。

 つまり、こいつはいただきますと言わずに食べたということだ。


「ご、ごめんなさい! ニィ! 今度はちゃんと言うから!!」

「まあいいのです。今は、怒るのも疲れるので」

「聞いてもいいか?」

「いいのです」

「その格好……何をしてたんだ?」


 俺の真剣な問いに、ニィは頬を赤く染めて、もじもじする。


「そ、それを聞いてしまうのですか? 刃くんは、エッチなのです……」

「もしかして、人に言えないようなことをされたの!?」

「メイド、人に言えないようなこと……この二人のキーワードから出てくる答えは!」

「え? なに? なにをされたの?」


 舞香さんとサシャーナさんは、わざとらしいがコトミちゃんはまったく分かっていない様子。有奈はというと……言葉には出さないが頬を赤くしている。

 あぁ、有奈もやっぱりそういう知識はあるんだな。


「もじもじすんな。真面目に答えろ」

「もう、刃くんはもうちょっと心配してほしいのです!」

「心配してたよ。つか、俺の姿を見て普通に会話をしてるってことは、俺の状況をわかっているってことでいいか?」


 俺が小さくなったのは、ニィがヴィスターラに行った後だ。こっちに戻ってきてもすぐに聖域に行ったので、俺には会っていない。

 だが、久しぶりに会っても普通に会話をしている。

 つまり、俺の状況は把握しているってことになるわけだ。


「もちろんなのです」

「じゃあ、どうしてこうなったのか。どうやったら戻るのかもわかってるのか?」

「どうやって戻るのかは、わかりませんが。どうしてこうなったのかはわかっているのです」


 それだけわかれば十分だ。


「ど、どうしてお兄ちゃんはこうなったの?」

「簡単なのです」


 ずびし! と俺のことを指差し、ニィは高らかに答えた。


「アイオラスによる影響が、刃くんに全て降りかかったのです!!」


 静寂に包まれる空間の中、俺はあー……そういうことかと。なぜそこに至らなかったのかと。言われればそういうことかとすぐ理解できた。

 確かに、これまでニィの力で世界に影響が及ばなかったんだろうと思っていたが。まさか、アイオラスを抜いた本人に来るとは。


「てことは、自業自得?」

「まあそうなるのです。ですが、この程度で済んだので。刃くんには悪いですが、よかったよかった、なのです」


 そんな可愛らしく眩しい笑顔で言われてもなぁ。確かに、俺が小さくなるだけで済んでよかったけど。てことは、これはそう簡単には戻らないってことなのか?

 さすがに、ずっとってことはないよな?


「あ、そうなのです刃くん」

「ん? なんだ?」


 若干、落ち込んでいる俺にニィはこれまた可愛らしい笑顔でこう告げた。


「近々、刃くんにとってすっごく嬉しい再会があるのです。楽しみにしてください」

「俺にとって、嬉しい再会?」


 それだけを言って、ニィはリフィルを引きずり聖域へと姿を消してしまった。

まあ、誰もが「知ってた」と思っていることでしょう。

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