第四話「友達を守ろう」
「ふーん。同い年なんだ」
本当に同い年なのかはわからないけど。たぶん同い年ってだけで。あの後、野球の観戦をしてすぐ俺は帰ろうとした。
だが、優夏ちゃんとそらちゃんが俺のことを知りたがっているらしくコトミちゃんと一緒に今はバーガーショップに来ている。
まさか、小学生同士で来ることになるとは。そういえば、なにか忘れているような。
なんだったっけか?
「どうしたの?」
「いや、なんでも」
「刃くんは、どの辺りに住んでるの?」
どの辺りか。
正直あまり情報を与えないほうが良いんだよな。もし、この刃という人物の情報を与えて、元の姿に戻ったらその情報は無意味となる。
ここは、適当にはぐらかしておくのが一番だな。
「近くだよ」
「なによそれ。近くって言っても、一軒家かマンションかわからないじゃない」
「あははは。ごめんな。俺も来たばかりだからあんまりうまく説明できないんだよ」
「それでも、一軒家かマンションぐらいは言えるでしょ?」
まあその通りだけど。
「マンションだよ」
「何人家族なの?」
「三人家族。父さんと母さん俺のな」
本当は、父さんも母さんもいない。コトミちゃんも俺のことは内密にしてくれと念を押しておいたので大丈夫だとは思うが。
視線が会うとえへへっと小さく笑って返す。
「……」
「どうしたの? そら」
そらちゃんは、ずっと俺のことを見詰めている。何か俺のことを観察するように。確かめるようにずっと見詰めている。
優夏ちゃんはそれにやっと気づいたようだ。
「うん。なんだか、刃くん。誰かに似ているような気がするんだけど……」
「そう? あたしは特に……ん?」
ちなみに優夏ちゃんは俺の隣に座っている。
そらちゃんの言葉に、首を傾げ距離を詰めてきた。そして、そのまま俺の顔を覗き込んでくる。おっと、さすがに顔が近いんじゃないか。
「確かに、言われて見れば誰かに似ているような」
「気のせい、じゃないか? ほら、世界には何十億って人間がいるんだからさ。俺に似ている人もいれば、優夏にだって似ている人がいると思う、ぞ?」
それもそうね、と呟きなんとか引いてくれた。
ただ昔に戻った。
幼くなったとはいえ、面影はあるってことだ。もっと、二人と関わっていればばれていたかもしれないな。
「ねえ、優夏ちゃん。あれって綾菜ちゃんじゃない?」
ふとコトミちゃんが外を指差す。そこには、先ほどの直樹という少年と応援をしていた女子組みの一人が一緒に歩いていた。
なにやら、仲良さそうに喋っているな。
「やったのね、綾菜!」
「どういうことだ?」
ガッツポーズを取っている優夏ちゃんに問いかけると、そらちゃんが代わりに答えてくれた。
「実はね。私達の友達の綾菜ちゃんって子がいるんだけど。その子が、直樹くんのことが好きなの」
「そこで、今日の練習終わりに一緒に帰ろうって誘ってみなさい! って背中を押してあげたのよ」
なるほど。女子同士の助け合い。
小学生だとしても、やっぱり恋愛のことになると女子は行動力あるな。奥手の人もいるけど、結局のところは恋愛に興味津々だったり。
ん? なんか怪しい男が二人を見詰めているな。律儀に変装までしているし。
「なあ、あそこに隠れているのって誰?」
「あそこ? ……も、もしかしてストーカー!?」
確かに、サングラスにマスク。物陰に隠れながら特定の人物を追っている。このことからストーカーに見えなくもない。
「あっ、警察の人だ」
言っている間に、ストーカーらしき人物に二人の警察が話しかけた。驚いたストーカーは、警察から逃げていく。
警察も逃がさんと追いかけてその場から消えた。
「ふう。よかったわ。これで綾菜も無事ね」
「いや、捕まらなければまたストーカーされるんじゃないか?」
「そ、それもそうね。明日、綾菜にちゃんと言っておかないと」
ストーカーのことを気にしつつ、俺はコトミちゃん達と別れた。そして、家に帰ろう。そう思った時だった。
スマホが鳴り響く。
電話だ。誰だろうと確認すると、自宅の番号だった。今、自宅にはリフィルしかいない。ということはこれはリフィルからか。
……ん? リフィル?
『ちょっと!! いつまで待たせるのよー! お腹減ったー!! イベント進まないー!! 早く帰って来てー!!』
「……」
そういえば、忘れていた。
つか、考えたら子供に昼食を買いに行かせるってどうなんだろうか。中身は十七歳だから、俺は気にしていなかったけど。
わーわー騒ぐジャージ神のために、俺は仕方なくコンビニで昼食を買ってから帰ることにした。
・・・★・・・
「で? これじゃ俺達がストーカーみたいなんだが」
あれから二日後。
コトミちゃんに呼び出されたと思いきや、優夏ちゃんとそらちゃんの二人もいた。いったい何をするんだ? と視線の先のスポーツ用品の店を見る。
そこには、昨日ストーカーされていた綾菜ちゃんと直樹くんが私服で仲良さそうに話していた。
三人は、サングラスをかけたり、帽子を深々と被ったりして変装しそれを見守っている。
「違うわよ。あたし達は、またあのストーカーが出た時のためにいるのよ! ちゃんと綾菜には言っておいたけど、それでも心配なの!」
「せっかく、綾菜ちゃんが直樹くんとデートしているんだもん! 守らなくちゃ!」
「で、でも本当にストーカーが現れたらどうするの?」
やはり、そらちゃんは不安のようだ。
周りをきょろきょろと見渡し震えている。
「その時は、警察に通報するのよ! さすがに、あたし達子供だけじゃ無理だと思うし」
そこは、ちゃんと利口な方法をとるようだ。
常識的に考えれば、小学生の女の子達がどうにかできるはずがない。昨日見た感じだと、あのストーカーは確実に高校生か、それ以上。
かなりの筋肉質で、身長は百八十センチメートルはあった。
「あっ、二人がお店から出てきたよ」
「よし。追うわよ。決して見つからないように。怪しまれないようにね?」
怪しまれないように、ね。
おそらく周りからは、探偵ごっことかそんな遊びをしていると思われているだろう。周りを見ると、俺達に気づいている人達は微笑ましそうに見ていた。
子供っていうのが、効いているな。
俺は、こそこそせずに普通に歩くとするか。
「次はゲームセンターに入るみたいね」
「直樹くん、結構ゲームが得意だって言っていたからね」
「ん? ……なあ、あそこ見てみ」
綾菜ちゃんと直樹くんがゲームセンターに入った後、俺達も続こうとした刹那。
俺達とは逆側の電柱の陰に、怪しい人物を発見。
オールバックでスカジャンを着ている男。
サングラスだけをしているが、明らかに先日のストーカーだろう。
「あっ! あのストーカー! やっぱり現れたわね! さっそく警察に」
「ちょ、ちょっと待って! 昨日は気づかなかったけど、見て。腰元についているキーホルダー」
警察に連絡しようとしている優夏ちゃんを止めるように、コトミちゃんがストーカーの腰元を見ろと言う。そこには、可愛い猫のキーホルダーがついていた。
ヤンキーな見た目のわりに、可愛いものをつけているな。
「あの見た目に、あのキーホルダーってことは……もしかして綾菜のお兄さん?」
「え?」
綾菜ちゃんの兄? あんな可愛い子の兄がヤンキーか……。
「あんたは知らなかったわね。あの人は綾菜の兄で、太一っていう人なの」
「あのキーホルダーは、綾菜ちゃんがプレゼントしたもので。太一さんはすっごく綾菜ちゃんを溺愛しているんだよ」
なるほど。ストーカーをしている理由がわかった。妹と仲良くしている男のことや、妹の行動などが気になってしょうがない。
そんな感じだろう。
同じ兄として、わかる。うん、わかるぞ。俺も、有奈が男と二人っきりで楽しそうにしているのを想像しただけで、もやもやしてしまうからな。
いや、兄としては、妹の幸せを尊重するのが良いんだろうが、心配なものは心配だ。
「入って行ったわね。あたし達も、行くわよ!」
「ね、ねえ。ストーカーが太一さんってわかったんだからもういいんじゃ」
「駄目よ! もしかしたら、昨日のストーカーは別人かもしれないじゃない!」
「そうだね! よし! 行こう!!」
「ま、待ってよー!」
もしもの時は、俺がなんとかするか。
そう決意し、コトミちゃん達を追いゲームセンターの中へと入っていった。




