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第三話「いつ戻るんだろう」

「……戻らないな」

「戻らないね」


 俺の体が縮んでからすでに四日が経っている。あれから、何度か原因を予想して色々と試してきたが全てが駄目。全然戻る気配がない。

 今日も今日とて、舞香さん、有奈の二人と朝食を食べている。

 まったく進展しない毎日に俺は食パンを一口齧りため息。

 有奈も共感して、眉を顰めた。


「でも、なんだか昔を思い出すわねぇ。だから、こんなのを買っちゃったわ!!」


 じゃん! と舞香さんが取り出したのは、子供用の服だった。服の柄には、可愛らしい絵のライオンが。


「いや、俺そこまで子供じゃないんですけど」

「えー。でも、これを来たらすごく可愛いと思うんだけど」

「もう、舞香さん舞い上がっちゃだめだよ? お兄ちゃんも大変なんだから」 


 だがしかし、せっかく舞香さんが買ってくれたんだ。

 無下にはできないし。

 俺は、こんがりと焼けた食パンを置いて舞香さんから服を受け取り、着て見せた。


「やっぱり、これは」

「うん、ばっちし!」


 素晴らしい笑顔だ、舞香さん。だが、これは外では着られないな。なんていうか、恥ずかしい! とてつもなく恥ずかしい。

 中身は十七歳だからなぁ、俺。


「か、可愛いかも」

「嬉しいけど、すごく恥ずかしい」

「うんうん、可愛い可愛い。ぷふっ」


 このジャージ神め。俺の食パンを食べながら笑ってやがる。俺は、ため息を漏らしつつ自分の席に戻ると、舞香さんがこんなことを呟く。


「そういえば、ニィちゃんはまだ戻らないのかしら?」

「すぐ戻るって言っていたんだけど。まだ戻らないな。もうこっちでは五日経っているけど。音信不通だ」

「やっぱり神様としての仕事が忙しいのかな?」


 ニィが戻ってくればまた何か進展があって、俺の体の原因もわかるかもしれないんだが。そんな会話をしているとリフィルがコーヒーを口にしながら呟く。


「ニィならもうこっちに戻ってるわよ」

「マジで?」


 同じ神様であり、察知にも長けているリフィルの言うことだ。間違いはないだろう。だが、こっちに戻ってきているのならなんで顔を見せないんだろうか。

 まだやるべき事が終わっていない、と思うのが普通だが。


「でも、地球にはいないわ」

「どういうことですか?」

「神々の場所。つまり聖域に行っているのよ。いったいあのおっさんに何を言われたのかわからないけど。あたしだったら、行きたくないわねー」


 こっちの神様に何か用事があるのか。

 ……なんだか嫌な予感がする。

 元々、こっちでは色んなことがあるのはここ数ヶ月でわかった。神様が本当にいることだってわかっていた。だからこそ、不安だ。

 色々とやってしまったからなぁ。ニィが怒られてはいないだろうか? まあ、あいつなら大丈夫だろうけど。


「ニィはいつ戻っていたんだ?」

「四日前。未だに聖域から出てきてはいないわね」

「何をしているのか、わからないんですか?」

「わからないわねー。わかりたくもないし。だって、ろくなことじゃないわよきっと」


 だろうな。

 あのおっさんから呼び出されて、真っ直ぐ聖域に行ったってことはマジでろくなことじゃないのは確定的だ。

 それにしても四日前ってことは、本当にすぐ戻ってきたんだな。

 俺のほうも大変だけど、あっちも相当大変だろう。


「まあ、ニィなら心配いらないわよ。それよりも」


 ぽんぽんと俺の頭をタップし、タブレットを取り出すリフィル。


「イベント始まったわね。今度のは、相当周回がめんどくさそうよ」

「手伝えってか? 俺は、自分の体を元に戻すのに必死なんだが」

「お姉さんと遊びましょうよ、ぼく~」

「うっせぇ」


 などと言いつつ、俺は朝食を終えてから普通に手伝う。

 この体ではアルバイトもできない。原因を探りながら、元に戻す方法を探す。これ以外にはやることがなくなった。

 こいつもそれがわかっていてのからかい。いや、本気で周回を手伝って欲しいと思っているのはわかる。俺も周回したいと思っているからこそ、誘い乗った。


「それじゃ、行って来るねお兄ちゃん」

「私も行くわね。お昼は、作る暇がなかったから適当に外で食べてね」

「あ、うん。わかった。二人ともいってらっしゃい」

「いってらっさーい」


 こんな日がいつまで続くんだろうな。


「あっ! ちょっとまだ宝箱取ってないのに!? このプレイヤーなんてことを……!」

「落ち着け。よくあることだ」






・・・★・・・






「たくっ。あいつは、マジで引き篭もりになってやがる」


 今は、十一時半頃。

 そろそろ昼食を食べに行こうと思ったのだが、リフィルは肌寒くなったから嫌だと。変わりに何か買ってきてと。

 確かにもう十月に入った。

 しかし、そこまで寒いとは思った事がない。ちょっと涼しくなった程度だ。


「危ない!!」

「ん?」


 危ない、そんな声に振り向くと野球のボールが俺目掛けて飛んできていた。どうやら、近くで野球をやっていたらしい。

 危ないと言ったのは……あぁ、優夏ちゃんじゃないか。それに、コトミちゃんもそらちゃん。他にも女子がいる。

 おそらく、コトミちゃん達が通っている小学校の野球チーム。その練習を応援しにきているのだろう。


(さて、掴み取る? いや、さすがに掴むのは常人離れしているし。ここは避けるに限るな)


 最初は、右手で掴み取ろうとしたがすぐに下げ首をくいっと横にずらそうとした。


(いや待て。こんな避け方よりも、尻餅をついた感じで避けたほうが現実的じゃないか?)


 そう思った俺は、びっくりしたように尻餅をついてボールを避けて見せた。


「うわあ!?」


 うん、結構名演技。

 内心で、自分の行動の判断に感心しつつ、近づいてくる女子達と先ほどバッターをしていた少年を見詰める。


「だ、大丈夫か?」


 ほう。結構いい顔立ちをしているじゃないか。これは絶対学校でもモテているタイプだな。だからこそ、練習なのに女子の応援があるのか。

 俺は、その少年の差し出した手を素直に取り立ち上がる。


「大丈夫。大丈夫。ちょっと尻餅ついちゃったけど」


 あははっと苦笑い。

 そこで、コトミちゃんと目が合った。


「ああー! じ」

「よ、よう! コトミ!」

「え? コトミの知り合い?」


 優夏ちゃんの言葉と、俺の視線でコトミちゃんはなんとか察してくれたようだ。


「う、うん。知り合い! 知り合い!!」

「へぇ。見たことない顔だけど。名前、なんていうの?」

「刃っていうんだ。最近こっちに来たばかりで、街を探検していた時に会ったんだよ。な?」

「うん! 道に迷っていたから、私が案内してあげたの!!」


 ふう。とりあえずなんとか誤魔化せたかな? さすがに、威田刃太郎が小さくなった姿なんて言えないよな。


「そうだったのか。刃くん。本当にごめん。怪我がなくてよかったよ。僕は、細田直樹。よろしくね。そうだ! よかったら、練習を見ていってくれ。それじゃ、本当にごめんね」


 そう言って、直樹は練習に戻っていく。飛んでいったボールは、後輩達が探しに行っている。練習を見ていくか。

 そろそろ十二時だし、後数十分で終わるだろう。

 まあ、そこまで急ぐ用事もないしたまにはいいかな。少年達のスポーツをしている姿を観戦するっていうのも。


「見ていく?」

「ああ。見ていく」

「じゃあ、こっち!!」


 コトミちゃんに手を引かれ俺は女子達が集まる場所へと移動した。

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