第二話「異世界交流」
「負けぬ!」
「絶対勝つ!!」
俺とロッサのテニスもそろそろ決着がつこうとしていた。現在の得点は、俺がリードでロッサが一点。俺が三点となっている。
本来ならば、正式なテニスの点数カウントをすべきだが、審判はサシャーナさんなのでそれに従うしかない。ちゃんとカウントをしているので、俺としてはどっちでもいいからな。
ロッサも、異論はないようだし。
「ロッサ。追い詰められてから、また力を発揮してきたね」
「うん。もう三分ぐらい打ち合ってるよね」
そう、ロッサは俺に追い詰められてから負けない。逆転してやるという気迫で中々諦めない。しかも、マジでテニスを覚えていたらしく、初めて間もないのにドロップショットまでも完璧にやってきたのだ。
俺もまさかのショットに、それで一点取られてしまった。
まあだが、初見殺しってやつだ。
そこから、俺は何が来ようと打ち返すとロッサの行動を頭の中で予測して一気に三点先取。
「そこだ!」
「ぬうっ!?」
強烈なショットを右サイドのラインに打ち込む。それをギリギリのところで打ち返すロッサだが。打ち上げてしまった。
つまり、俺にとってチャンスボールとなったのだ。
「これで!」
ダン! 地面を力強く蹴り上げ跳び上がり、ラケットを大きく振りかぶる。
「どうだぁ!!!」
そして、ネット付近へと強烈なバウンドをさせるが如くボールを叩きつけた。このバウンドは、余裕でコートを囲んでいる網を越すだろうという高さ。
しかし、ロッサはまだ諦めない。
「させぬわぁ!!」
天高くバウンドしたボールを追いかけロッサは跳ぶ。常人では考えられないジャンプ力で、ボールを捉えた。
「おお!!」
「すごいジャンプ力だね。これは、世界を狙えるよ。パンツ丸見えだけど」
「白ですね!!」
シャッターチャンス! とばかりにサシャーナさんはマイカメラで天高く跳んだロッサを写真に収めた。
「今度は、我のスマッシュだ!!」
熱くなっているのか、自然とラケットに魔力が集束していくのが見えた。
あの馬鹿魔帝が……!
「泣き叫ぶがいい!! 魔帝の一撃で!!!」
魔力が篭ったラケットから放たれたボールは当然のように魔力を纏っており、普通のラケットで打ち返せば、ガットが確実に切れてしまうだろう。
そもそも、打ち込まれたボールがまるで悪魔の翼が生えているように見えているという。あんなもの、普通の人だったら逃げ出す。
だが、俺は逃げない。
もし、俺が逃げたら確実にあのボールはそのまま勢いが止まらずどこかへ突き抜けていくはずだ。
「能力スポーツじゃねぇんだぞ!!!」
とはいえ、このままでは打ち返せない。
なので俺もラケットに魔力を込めて、迎え撃つことにした。バウンドする前にボールを捉え、俺は強烈なスピンをかけつつロッサのコートに打ち返した。
「ふはははは!! まだだ、まだ終わらぬぞ!!」
着地したロッサは当然のようにまだ諦めない。
ボールを打ち返そうとラケットを構えるが……。
「なにっ!?」
ボールはバウンドせずにコートを滑る様に突き進んだ。コートを囲む網にキュルキュルと音を鳴らし回転しているボールを一同見詰め、しばらくの静寂。
「げ、ゲーム! 一対四でこの勝負、刃太郎様の勝ちです!!」
ハッと我に返ったサシャーナさんは審判としての役目を果たし、ゲーム終了の宣言を高らかに告げた。
俺は、二回ほどラケットで肩を叩きながら唖然としているロッサにドヤ顔を決める。
「俺の勝ちだな」
「ぐぬぬ……! き、貴様! あのような技を持っているなど聞いてないぞ!!」
「俺だって、初めてやったんだからしょうがねぇだろ。そもそも、お前になんで教えなくちゃならない」
いつものように、悔しがる魔帝だがすぐに気持ちを切り替えラケット俺に突きつけた。
「次は負けぬ! テニスでも、他の勝負でもだ!!」
そして、いつもの次は負けない。
いったい、いつになったら俺に勝てるのか。毎回のように聞かされている言葉だが。
「俺が生きている内に勝って見せろよ?」
「無論だ! だが、貴様が死んだとしても地獄の底まで追いかけ、勝負を挑んでやる! 勝ち逃げなど許さぬからな!!」
「それは楽しみだ。まあ、地獄に行く気なんてないけどな」
なんだか、今までの勝負と違って清々しいな。
スポーツをやったからか?
まあ、最後のほうだけを見ればあれをスポーツと言っていいのかわからないけど。
「刃太郎さん! 試合終わったんですか!! 次は、あたし達とやりませんか!!」
「別にいいぞ。じゃあ、次はダブルスでやるか。有奈! 俺と組もうぜ!!」
「うん、いいよ」
「じゃあ、私はリリーとだね」
「負けませんよ! 刃太郎さん!! あ、でもさっきみたいなのはなしで、お願いします」
さすがに、あれは一般人には使わない。というか使ったら確実にやばい。
俺は、ロッサとの真剣勝負の後、有奈達と純粋にスポーツを楽しんだ。
・・・☆・・・
「ただいま戻ったのです、創造神オージオ」
ここは、異世界ヴィスターラにあって、常人には決して辿り着けない神々の聖域。一面に咲く花達に囲まれそこには、一柱の神が胡坐をかき酒を飲んでいた。
「おう。よく戻ってきたなニィ。どうだ? そっちでの暮らしはよ」
黄金に輝く髪の毛に、隆々とした筋肉。
上半身は裸で、ところどころに傷跡が刻まれている。そして何より目に付くのは、縛っている毛の色が赤、青、クリーム色という三色になっていることだ。
これは、オージオ以外の神々の色を表しているのだ。
「とても退屈せずに住んでいるのです。リフィルも、一段とだらけていて私も苦労が絶えません」
「そうか。そりゃあ、大変だな」
「それで、オージオ。私を呼んだのはどういう理由なのです?」
ニィーテスタの問いかけに、オージオはくいっと酒を飲み干し立ち上がった。
「実はな。すっげぇイベントを思いついたんだ」
「すっげぇイベント?」
オージオは、何もない空間に黒板を作り出す。
そして、白いチョークを手に取り、豪快に文字を書き上げていった。
「名づけて! 異世界交流バトル!! 仲間と共に難関をクリアせよ!!」
「異世界交流バトル?」
黒板に亀裂が入るほどの力で叩き、イベントの名前を告げるオージオ。ニィーテスタは、名前を聞いただけでなんとなくだが、どんなものなのかを察した。
しかし、そうなると。
「あちらの世界には許可などは?」
「それはこれからだ」
「ですよねー。では、その役目を私に?」
「おうよ。そっちの神に許可を得る時こいつを持っていってくれ」
と、ニィーテスタに渡したのは水晶玉だった。
「あっちの神々と接触したら、それで俺に連絡を取ってくれ。交渉には俺も付き合う」
当然のことだ。さすがに、同じ神だとしてもニィーテスタだけでは荷が重い。タダでさえ、あっちではかなりの騒ぎを起こしてしまっているのだから。
「オージオ様は、思いつきが過ぎます。少しはちゃんと計画を立ててから実行に移すということを覚えたほうがいいと何度言ったら」
「あっ、グリッドくんお久しぶりなのです」
「ええ。本当に。あなたには、異世界交流のために仕方なくここを離れるのを許しているということを忘れてはいませんよね? ちゃんと役目を果たしているのですか?」
オージオの思いつきにため息を漏らしながら現れたのは、もう一柱の神であるグリッド。学者のような格好をしており、青い髪の毛は肩まで長く、メガネをかけた真面目な神だ。
とても仕事熱心で、いつもオージオの思いつきなどに振り回されながらもちゃんとついて行っている。
文句を言いつつも、負かされた仕事をきっちりとこなすのが彼だ。
「果たしているのですよー。それに、あっちには刃くんもいるのですから」
「威田刃太郎ですか。確かに、彼の能力は僕も買っています。とはいえ、彼は勇者としての役目を終え、堕落をしているのではないですか?」
「うーん。そんなことはないのですよ? むしろこっちで勇者をやっていた時よりも活き活きとしているのです」
勇者としての刃太郎の生き様を知っている彼女だからこその会話だ。過去の刃太郎と、今の刃太郎と比べての結論に、グリッドはそうですか……とメガネの位置を直し短く答える。
「兎に角だ! ニィ。任せたぞ。このイベントはあいつらも望んでいることだ」
「あいつら……もしかして彼女達がこっちに?」
「おう。俺が提案したら、お喜びで参加してくれたぜ」
「わかったのです。では、私はこのまま真っ直ぐ交渉に向かうのです」
「頼んだぜ」
「くれぐれもあちらの神々に失礼なきようにお願いしますよ」
「わかっているのです。では、失礼するのです」
さあ、楽しみだ! オージオはこれからのことを想像しつつ再度酒に手を伸ばした。




